着物用の絹の反物を使ってスーツがつくれるのか。あるいは、西欧のウール生地を用いて着物が縫製できるのか……。この試みに答えたのが、フランス有数の生地メーカー「ドーメル」である。

フランスを代表する生地メーカーが魅せる日本の伝統文化

「ドーメル」が伝える日本文化の魅力

羽織と着物の展示。目の覚めるような鮮やかなブルーに繊細な格子の織り柄を表現する。羽織で約4m、着物で約4mの生地を使用する。
羽織と着物の展示。目の覚めるような鮮やかなブルーに繊細な格子の織り柄を表現する。羽織で約4m、着物で約4mの生地を使用する。

1858年、日仏修好通商条約が調印され、今年で160周年となる。それを記念し、7月から来年の2月まで、Japonismes2018を開催。パリ市内を中心に、20を超える会場において展覧会や舞台公演など、日本の文化や芸術を紹介する。そのひとつが、「ドーメル」の生地でつくった着物である。

着物の後身頃の正中線に「ドーメル」のイニシャルを刺繍。ブルーの服地に対し、爽やかなグリーンが穏やかに対比する。
着物の後身頃の正中線に「ドーメル」のイニシャルを刺繍。ブルーの服地に対し、爽やかなグリーンが穏やかに対比する。

自社で織り上げた『15 POINT 7/フィフティーン・ポイント・セブン』という生地を、着物づくりの専門店で着物に仕立て上げた。15,7ミクロンのウールだけを厳選したしなやかな質感の『15 POINT 7』は、通年で楽しめる生地であり、浮き出た細かい織り柄や、さらりとした感触が絶品である。この着物づくりが企画された当初、絹の反物が主流の着物づくりで、ウールの生地の縫製ができるのかどうか懸念されたが、薄く織り上げた『15 POINT 7』は、絹用の細い針で十分に対応できたのだ。

羽織の裏に「ドーメル」を代表する極上の服地『15 POINT 7』のタグをつける。
羽織の裏に「ドーメル」を代表する極上の服地『15 POINT 7』のタグをつける。

今回の製作を機に、初めて着物を着用した「ドーメル」の5代目当主でありC.E.O.を務めるドミニク・ドーメル氏は、「まるで侍になった感覚です。スーツの着用では感じられない、お腹の底から湧き出る力を感じます」と印象を語った。

初めて着物にそでを通したドーメル5代目のドミニク・ドーメル氏。袴は同素材で違う色の生地で仕立てた。
初めて着物にそでを通したドーメル5代目のドミニク・ドーメル氏。袴は同素材で違う色の生地で仕立てた。

男性用に製作したのは、着物と羽織の2種類。ふたつ合わせて約8mの生地を用いた。スーツに換算すれば、約2着強の生地量となる。『15 POINT 7』の生地を贅沢に使い、着物に仕立て上げると、張りと流れるようなシルエットを表現する。鮮やかなブルーでインパクトがあるうえ、見事に着物になじむ色合いである。

最近、周囲の洒落者たちの間から、日本人が世界の檜舞台で装うべき服は、スーツではなく、着物ではないかという声がよく聞こえてくる。趣味人として、スーツを楽しむという選択肢のほかに、スーツの生地で仕立てた日本の伝統的なたたずまいが漂う着物で、あらためて大人の粋をアピールするべきではないか。

問い合わせ先

※ドーメル青山店でオーダー可能。着物¥350,000~、羽織¥350,000~、袴¥290,000~。納期は約1カ月半。生地の種類は細かい仕様により、価格や納期は変わります。 ※価格は税抜。
この記事の執筆者
ヴィットリオ矢部のニックネームを持つ本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
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