ドイツ車が圧倒的人気を誇る日本の輸入車市場においても、確かな存在感を放つシトロエン。合理的精神という言葉だけでは説明できないフランス車の魅力の根源を、キーマンへのインタビューを通じて解き明かそう。

創始者の志が今も生きるシトロエン

インタビューに答えてくれた、シトロエン マーケティング部長のアルノー・ベローニ氏。自動車業界で30年にわたり、5つの国、4つのメーカー、10の様々な分野で手腕を発揮してきたベテランだ。
インタビューに答えてくれた、シトロエン マーケティング部長のアルノー・ベローニ氏。自動車業界で30年にわたり、5つの国、4つのメーカー、10の様々な分野で手腕を発揮してきたベテランだ。
幼少期のベローニ氏にとってかけがえのない存在であった、「2CV」(1949〜1990年)。先進的なシンプル・軽量設計と、居住性にも優れる上品なフォルムを特徴とし、今なお現役で活躍するクルマも少なくない。不朽の名車として今後も語り継がれていくだろう。©CITROEN
幼少期のベローニ氏にとってかけがえのない存在であった、「2CV」(1949〜1990年)。先進的なシンプル・軽量設計と、居住性にも優れる上品なフォルムを特徴とし、今なお現役で活躍するクルマも少なくない。不朽の名車として今後も語り継がれていくだろう。©CITROEN
ベローニ氏いわく、「ニューヨークのアッパークラスの間では、このクルマが人気です」という、「SM」(1970〜1975年)。当時、シトロエンと提携していたマセラティのV6DOHCエンジンを積んだ、前輪駆動の2ドアクーペGTだ。こんな美しいクルマで旅に行けたらどんなに楽しいだろう、と思う。©CITROEN
ベローニ氏いわく、「ニューヨークのアッパークラスの間では、このクルマが人気です」という、「SM」(1970〜1975年)。当時、シトロエンと提携していたマセラティのV6DOHCエンジンを積んだ、前輪駆動の2ドアクーペGTだ。こんな美しいクルマで旅に行けたらどんなに楽しいだろう、と思う。©CITROEN
ベローニ氏が近年、とても感銘を受けたのが、シトロエンで溢れる才能を大いに発揮した、デザイナーのジャン・ピエール・プルエの作品。初代「C4」(2004〜2010年)、「C6」(2005〜2012年・写真)などを手がけた。©CITROEN
ベローニ氏が近年、とても感銘を受けたのが、シトロエンで溢れる才能を大いに発揮した、デザイナーのジャン・ピエール・プルエの作品。初代「C4」(2004〜2010年)、「C6」(2005〜2012年・写真)などを手がけた。©CITROEN

「独創的」。2019年に創業100周年を迎えるシトロエンの歩みは、この言葉に象徴される。そのデザインはクルマに疎い淑女でも記憶に留められるほど個性的で美しく、技術面においてはカーマニアが一晩中語れるくらい斬新であり続けた。直近では、2017年から日本導入が始まった「C3」の、ポップで若々しい魅力にやられてしまった方も多いのではないか。フランスの叡智溢れるシトロエンの、「独創的」なるクリエイションの源を、同社でマーケティング部長を務めるアルノー・ベローニ氏へのインタビューを通じて探ってみたい。

−—ベローニさんが生活の中にシトロエンを感じたのはいつ頃ですか?
「小学生時代です。私はフランスの田舎育ちで、家から学校へはクルマで通わなければならないほどの距離がありました。それで、いつも隣に住むおじさんが、私を含めて4人の子供を『2CV』に乗せてくれました。とても乗り心地がよかったのを覚えています。デザインも奇抜で、思い出深いクルマです」
−—では、ご自分で運転されるようになってから、乗りたい! 欲しい! と思えるクルマはありましたか?
「それはもう断然、『SM』ですね。私にとってあらゆるクルマのなかで最高の1台です。絶版なのであまり大きな声ではいえませんが。マセラティのエンジンを積み、スポーティで高性能。乗り心地の良さはいうまでもなく、スタイルも洗練されていて、すべてがオリジナリティに溢れ、妥協がないクルマです。実は、今いい個体がないか探しているんですよ。手に入れることができたらトスカーナあたりを存分に走ってみたいですね」
−—お話を聞いているだけで、こちらもワクワクしてきます! ところで、今大人気の「C3」もオリジナリティでは「SM」にも負けていないし、ポップという言葉がふさわしいクルマだと思います。こうした発想はどこから湧き出てくるのでしょうか?
「原点をたどると、創業者のアンドレ・シトロエンに行き当たります。彼が自動車製造を始めるうえで原動力となったのが、いい意味で大衆的=ポップなクルマを作るという確たる理想でした。誰もが満足できるためには、大衆的でかつ抜きん出たクリエイティビティを具現化したものでなくてはならないという」
−—アンドレの死後に誕生した「2CV」は、まさに究極の大衆車ですよね。
「そうです。『2CV』はフランスの自由の象徴であり、ライフスタイルそのものです」
−—そういわれると、「C3」も「2CV」の延長線上にあるクルマであることが理解できます。
「ですから『C3』はあらゆる人に似合うし、きっと誰もが満足できると思いますよ」
−—当ウェブサイトの愛読者である、ファッションに敏感な紳士にも合いますか?」
「もちろん。とくに現在発売中の特別仕様車、『C3 カフェ エディション』がいいですね。ブラックルーフと黒いアロイホイールがスタイリングを引き締め、インテリアはカジュアルシック。テップレザーをあしらったステアリングは、レザーベルトの時計ともマッチします」

 インタビューの最後、ベローニ氏に「ファッションや生き方を通して憧れの紳士はいるか」と尋ねたところ、「いません。私は私ですから」と、フランス男らしい答えが返ってきた。個性を重んじ、その成長を妨げるどころか伸ばしていくフランスの文化を、我々は知らず知らずのうちにシトロエンを通じて感じ取り、惹かれている。横並びの精神は日本の社会に深く入り込んだ伝統であるけれども、少なくとも装いやクルマ選びにおいては、もっと自分らしさを主張すべきなのではないか。ベローニさんの言葉の裏には、そんな意思も読み取れた。シトロエンとの暮らしは、男を格上げする刺激に満ちているのだ。

アルノー・ベローニ氏のおすすめは『C3 カフェ エディション』!

インタビューが行われたシトロエン中央ショールーム(東京都中央区)でも目立つ場所に展示されていた、C3の特別仕様車。コーヒーの色や風味、そして洗練されたカフェの居心地のいい空間をイメージしたカラーリングと専用装備が特徴。¥2,520,000(税込み)
インタビューが行われたシトロエン中央ショールーム(東京都中央区)でも目立つ場所に展示されていた、C3の特別仕様車。コーヒーの色や風味、そして洗練されたカフェの居心地のいい空間をイメージしたカラーリングと専用装備が特徴。¥2,520,000(税込み)
色合いや質感に優れるテップレザーをあしらった、上質で若々しい室内。
色合いや質感に優れるテップレザーをあしらった、上質で若々しい室内。
シートもご覧のように洒落ている。黒一色の内装では絶対に得られない刺激に満ちている。
シートもご覧のように洒落ている。黒一色の内装では絶対に得られない刺激に満ちている。

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この記事の執筆者
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。