ミラノらしい注目の5つ星ホテル・レストランといえば「パーク・ハイアット・ミラノ」の「ヴン」、「アルマーニ ホテル」の「アルマーニ リストランテ」、「ブルガリ ホテル ミラノ」の「イル・リストランテ」、「パラッツォ・パリージ」の「リストランテ ガストロノミコ」などがあるが、中でももっとも注目されているのが「マンダリン オリエンタル ミラノ」の「セータ」だろう。

最高のロケーションを誇る「マンダリン オリエンタル ミラノ」

「マンダリン オリエンタル ミラノ」はモンテナポレオーネ通りから一本入った小さな通りにあるが、ごくごく控えめな作りで隠れ家感満載。
「マンダリン オリエンタル ミラノ」はモンテナポレオーネ通りから一本入った小さな通りにあるが、ごくごく控えめな作りで隠れ家感満載。

2015年「マンダリン オリエンタル ミラノ」開業とともにオープンした「セータ」だが、なんと4ケ月後には早くもミシュラン1つ星を獲得。翌年には2つ星に昇格するという先行するホテル・レストランを一気に抜き去ったことで話題となった。エグゼクティブ・シェフを務めるのはアントニオ・グイダ。彼の職歴はイタリアの近代料理史そのものでパリの「ピエール・ガニエール」、フィレンツェの「エノテカ・ピンキオーリ」、ソレントの「ドン・アルフォンソ」、ローマの「ラ・テラッツァ」と錚々たる店でキャリアを重ね、2002年にはトスカーナの海岸にある高級ホテル「イル・ペリカーノ」のエグゼクティブ・シェフに就任。2004年から2010年まで2つ星を維持した実力派なのである。

ミラノでもっとも注目されているレストラン「セータ」

「セータ」の入り口は、ホテル・エントランスは反対のモンテ・ディ・ピエタ通りにある。ビジターの利用ももちろん可能。左はエグゼクティブ・シェフのアントニオ・グイダ氏
「セータ」の入り口は、ホテル・エントランスは反対のモンテ・ディ・ピエタ通りにある。ビジターの利用ももちろん可能。左はエグゼクティブ・シェフのアントニオ・グイダ氏

「セータ」がオープン直後から名声を獲得するのに成功した理由のひとつに、グイダが長年ともに仕事してきたスタッフを重要ポストに配置したこともるだろう。エグゼクティブ・スーシェフには2002年以来コンビを組むフェデリコ・デル・オマリーノを抜擢。ペイストリー・シェフにはこれも2006年から働くニコラ・ディ・レーナを登用したのだ。こうした「チーム・グイダ」のサポートをもとに、シェフの創造力があますところ発揮されているのだ。

ミラノ建築の移り変わりを観て楽しめる

「ビストロ」ではカジュアルな料理が楽しめるだけでなく、夜にはバー使いもできる。アントニオ・チッテリオがデザインしたインテリアは50’s風。
「ビストロ」ではカジュアルな料理が楽しめるだけでなく、夜にはバー使いもできる。アントニオ・チッテリオがデザインしたインテリアは50’s風。

「セータ」を訪れるとまず目に入るのが、オリエンタルな翡翠をイメージさせるテーマカラーのブルー・グリーンだろう。一般的にダイニングにはペールトーンの配色は合わないとされるが、「マンダリン オリエンタル ミラノ」は都会的でクールなダイニングを提案し、またそれが成功している。設計は現代イタリアを代表する建築家のひとり、アントニオ・チッテリオ。エントランス・ロビーの配色は1920〜1930年代のミラノ建築における人気色を。一方カジュアル・レストラン兼バーである「ビストロ」はモノトーンでポストモダンなミラノスタイルを表現し、ホテル全体で20世紀前半のミラノの建築スタイルの変遷を表現している。

ブロッコリをメイン食材とした「カーヴォロフィオーレ」。え?カリフラワーだけ、と思ってはいけない。シンプルな食材の食感と旨味を引き出した調理法に驚くこと間違いない。
ブロッコリをメイン食材とした「カーヴォロフィオーレ」。え?カリフラワーだけ、と思ってはいけない。シンプルな食材の食感と旨味を引き出した調理法に驚くこと間違いない。

「セータ」のメニューには「カルタ・ビアンカ」つまり白紙委任状というシェフのおまかせコースと7皿で構成させるコース、メニュー・デグスタツィオーネ、そしてアラカルトがある。この日はアラカルト、まず前菜はカリフラワーを使ったグイダのシグネチャー・ディッシュ「カーヴォロフィオーレ」。これは柔らかく火を通し、クスクスのような食感に仕上げたカリフラワーにアーモンドミルクのソースとゆずの絞り汁、エビや帆立貝などのシーフードをあわせたもの。甘いようでちょっとエスニック。酸味と甘みのバランス良いスープ仕立ての料理だった。

最近はやりの分解再構成の盛り付けで登場した「ムール貝とイカのフジッローロ、イカスミのソース」。貝とイカスミの濃厚な旨味が印象的。
最近はやりの分解再構成の盛り付けで登場した「ムール貝とイカのフジッローロ、イカスミのソース」。貝とイカスミの濃厚な旨味が印象的。

次のパスタは「ムール貝とイカのフジッローロ、イカスミのソース」。ねじまき状のパスタ、フジッリを大きくしたフジッローロはかみごたえ満点。薄くスライスしたイカは余熱で柔らかく火が通り、ムール貝などの魚介類でとったソースとイカスミのコントラストが鮮烈な印象を与えてくれる。

メインの魚料理「トリッリア」は軽く火を通したヒメジをカニと貝類からとったソースで調味し、歯ごたえを残したビエトラと白アスパガラの食感とのコントラストを楽しむ。
メインの魚料理「トリッリア」は軽く火を通したヒメジをカニと貝類からとったソースで調味し、歯ごたえを残したビエトラと白アスパガラの食感とのコントラストを楽しむ。

メインは地中海でよく食べられる魚ヒメジを使った料理「トリッリア」で、金目鯛のような味と食感のヒメジに、カニと貝類からソースを合わせたもの。旨味倍増、淡白かつ濃厚で思わずもう一皿追加注文したくなる味。いずれもイタリア料理の概念を超え、フランス料理や東南アジア料理などのエッセンスも加えた創造的な地中海料理。ミラノのホテル・ダイニング・シーンのトレンドを知る上でも一度は体験したい。

MANDARIN ORIENTAL MILAN

address Via Monte di Pietà 18, 20121 Milano, Italia
Tel:+39 02 8731 8897
12:30 – 14:30,19:30 – 22:30 日休
マンダリン オリエンタル ミラノ

この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。