日本のモノづくりの底力を示す鞄メーカーとして、多くのファンを惹きつける大峽製鞄。その製品の中に、伝説と言われる鞄がある。完璧なまでの手仕事によって完成する限定生産のダレスバッグがそれ。日本のメンズ・ファッションに大きな影響を与えた服飾評論家・落合正勝氏(2006年没)もひと目で気に入り、ビスポークしたという名品である。

そもそも、大峽製鞄は、その歴史を、全国の名門小学校が採用するランドセルのメーカーとして築いてきた。自社ブランドでビジネスバッグの展開をスタートさせたのは1998年から。海外ブランドのバッグがもてはやされる中、日本の鞄職人の優れた技を見せつけたのである。

用いる素材に対する厳しい目利き。縫い目のひとつひとつにまで感じさせる、緻密で丁寧な縫製。製品の価格は、当然、それなりのものになる。

ランドセルの職人技が注ぎ込まれた大峡製鞄の靴べら

素材は足を滑らす感触も心地よい、艶やかなコードバン

コードバンの靴べらはサイズが3種。右はスモール¥8,000 長さ11.5cm、左はラージ¥12,000長さ23cm。ほかにミディアム (長さ16cm)¥10,000がある。長さはリング部を含む。 
コードバンの靴べらはサイズが3種。右はスモール¥8,000 長さ11.5cm、左はラージ¥12,000長さ23cm。ほかにミディアム (長さ16cm)¥10,000がある。長さはリング部を含む。 

「大峽製鞄のよさを、きちんと理解してくださる方は、きっと、スーツや靴もこだわりをもって選ぶでしょう。そういう方に、持っていただきたくてつくりました」

職人による手仕事が温かみのある曲線美を作り出す

縫製工程のすべてを、 ひとりの職人の この手が仕上げる。
縫製工程のすべてを、 ひとりの職人の この手が仕上げる。

と、専務の大峽宏造さんが手にするのは、コードバンの靴べらである。その誕生の背景には、前述の落合氏との親交がある。同行した和食の店でのこと。きちんと靴紐を解いた靴に、靴べらを使って、足をすっと滑らせて履く落合氏の所作を見た。その悠々とした姿が、大峽さんに、この靴べらをつくらせた。

靴べらには珍しいコードバンは、高級ランドセルをつくってきた大峽製鞄にとっては伝統の素材でもある。コードバンとは馬の臀部の革だが、使うのは、繊維が細かく密になった部分だけ。1頭からランドセルのふたがふたつ分採れるかどうかという希少さである。

  • 「大津さんのカンナと磨きの技は日本でも有数です」と大峽専務。写真は大津さんが長年使うカンナ。
  • 専務の大峽宏造さんと、靴べらの縫製を手がける大津清さん。製品の試作や改良なども、大津さんが行う。
  • 大峽製鞄のランドセルは、200以上のパーツからなる。

くるりと巻いたような、えも言われぬカーブ。一分たりとも曲がりも緩みも許されないミシン目。縁に穏やかな丸みを出すカンナ掛けと磨き。ほかにもたくさんの熟練の技が、この靴べらには集約されていると大峡専務は言う。

「かぶせ(蓋)もポケットもないシンプルなもりません」

●購入の仕方
大峽製鞄
購入はFAXまたはインターネットで。代金支払いはカード決済、銀行振込など。
問い合わせ先:大峽製鞄TEL:03-3881-1191、FAX:03-3881-1199
http://www.ohbacorp.com
※大峽製鞄ショールーム トゥディでも購入が可能(TEL:03-3881-1192)要予約。日本橋三越本店、阪急百貨店メンズ館など。

※価格はすべて税抜です。※2008年秋冬号取材時の情報です。
この記事の執筆者
TEXT :
MEN'S Precious編集部 
BY :
MEN'S Precious2008年秋冬号 あっぱれ!メイド・イン・ジャパンの極上名品より
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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