大正時代の初めに新橋で創業し、初代の弟の神山幸治郎が昭和2年に銀座に移転し、昭和30年から現在の店を営む「銀座 新富寿し」。落ち着いて寿司を食べてもらえるように、先代はねじり鉢巻きや威勢のいい掛け声を控え、途中の休みもなく営業を続けていた。

この店に戦前、株の仲買店で働いていた10代の池波正太郎がよく通っていた。戦後、作家として軌道に乗り始めた頃、映画の試写が終わる昼の遅い時間に足しげく通うようになる。贔屓にしてた理由は、営業時間が好都合なだけではない。『むかしの味』(新潮文庫)には「種と飯のぐあいがちょうどよくて、飯の炊き方が好みに合っている」と書かれている。それがすなわち、むかしの味だからだと。

江戸前寿司の定番コハダの旬は8月〜9月

色艶がたまらなく美しい!

こはだはにぎる前に酢にくぐらせて出される。そのひと手間で光沢がよくなり、サッパリした味わいも引き立つ。 
こはだはにぎる前に酢にくぐらせて出される。そのひと手間で光沢がよくなり、サッパリした味わいも引き立つ。 

江戸前の寿司は、塩や酢でしめたり、醬油に漬けたり、火を通したりして魚の保存がきくように手を加えたものです。シャリも赤酢と塩だけ。そんな部分を大切にしてきたことから、そう思われたのでしょう」と当代の神山富雄さん。

ご主人自ら築地に行って厳選した魚介類を、開店までの間に下ごしらえする。それぞれにかかる時間も手間も違うが、神山さんは、先代から教えられた技を今もきちんと守り抜いている。そんな仕事を経ているから、「銀座 新富寿し」の味はまったく変わっていない。 まさに、むかしの味のまま。

池波正太郎が訪れたのは客が一段落した時間帯。季節ごとのつまみを肴にお銚子を頼み、好き嫌いなくいろいろなものを食べたとか。昨今は昼のすいた時間に一杯やる客も減ったというが、こちらのカウンターに座ると、だれもがそんな粋な時間を過ごしたくなることだろう。

銀座 新富寿し
東京都中央区銀座5-9-17 銀座あづまビル1F/地下鉄「銀座」駅より徒歩1分
TEL:03-3571-3456
営業時間:11時30分~21時
定休日:火曜
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PHOTO :
小西康夫
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