毎年、初夏に発表される「世界のベストレストラン50」は、今やミシュランガイドと比べられる機会も多いレストランランキング。その授賞式が2018年6月19日、今年はスペインの美食エリア、バスク地方のビルバオで華やかに開催されました。

世界のベストレストラン50に参加する人々
「世界のベストレストラン50」授賞式の最後は、50位までのレストランのシェフ全員での記念撮影

「ベストレストラン50」とは

「ベストレストラン50」をご存知でしょうか。これは、今やミシュランガイドとその勢力を争うとも言われるグローバルなレストランランキング。世界を対象にした「世界のベストレストラン50」の他、リージョナル版として「アジアのベストレストラン50」、「南米のベストレストラン50」が設けられています。

特に「世界の、、、」は広大な世界地図のなか、星の数ほどあるレストランからたった50軒が選ばれる訳ですからそれはドラマティック。授賞式は、ブラックタイとカクテルドレスに身を包んだ各国メディアやフーディー達、大勢の観客を前に、50位までのレストランがステージで次々に発表される華やかなひと時です。

レッドカーペットを誇らしげに歩く受賞レストランのシェフをスポットライトが追いかけ、フラッシュが光り、たくさんのマイクが差し向けられる、そのきらきらした様子は、このランキングがよく「食の世界のアカデミー賞」と噂される所以です。

2002年のプログラムスタート以来、長い間ロンドンで開催されていたこの授賞式ですが、2016年にアメリカ・ニューヨーク、昨年はオーストラリア・メルボルンにバトンが渡され、今年は満を持してヨーロッパに凱旋。美食の街、スペイン・バスク州のビルバオに白羽の矢が立ったのでした。

世界のベストレストラン50授賞式を観覧する人々
授賞式での観客の様子
世界のベストレストラン50のロゴ
入賞レストランのシェフに渡されるスカーフ。首にかけて授賞式に臨む

イタリアの「オステリア・フランチェスカーナ」が世界一に

「世界のベストレストラン50」のランキングは、世界26か国の評議員(食のプロフェッショナル)約1000人による事前投票で決定されるシステムです。評議員は毎年その1/3が入れ替わるため、リストの内容や順位にも変動が多いのもその特徴。

これまで、スペインの「エル・ブジ」(エル・ブリ)やデンマークの「ノーマ」など、“時代”を築いてきたレストランがトップを飾ってきたことからも、世界のレストランの最新トレンドを読み解く鍵となるランキングであることが、よくわかります。

果たして、2018年の頂点を極めたのはイタリア・モデナのレストラン「オステリア・フランチェスカーナ」でした。

オーナシェフのマッシモ・ボットゥーラ氏はモダンでイノベーティブ、そして哲学的なバックストーリーを持つ料理とコース編成で、イタリア料理界の革命児とも呼ばれる存在です。社会貢献活動にも熱心で、フードロス食材を使い、ホームレス救済のためのレストランをパリとナポリで運営していることでも知られます。

まさに新時代を象徴するシェフが率いる店として、「オステリア・フランチェスカーナ」は2016年に一度栄冠を得、昨年は2位となったのですが、2年ぶりにトップに返り咲きました。1位のコール直後、会場の割れるような歓声のなか、ボットゥーラ夫妻のはじける笑顔が印象的でした。

ボットゥーラシェフとマダム
ボットゥーラシェフとマダムが大歓声にこたえ、喜びを爆発させる

2位は、スペイン・ジローナの「エル・セジェール・ド・カン・ロカ」。シェフのジョアン・ロカをはじめパティシエ、サービスと三人の兄弟が協働し、現代スペイン料理の存在を世界に知らしめた名店のひとつで「50」リストの常連です。

3位は南フランスの港町、マントンの「ミラズール」。アルゼンチン出身のマウロ・コラグレコ氏をシェフに、オリジナリティあふれる魚介料理で名を馳せるレストランです。

4位は昨年度に1位だったニューヨークの「イレブン・マディソン・パーク」、5位はアジアから初の5位入賞を成し遂げたバンコクのイノベーティブ・インディアンレストラン「ガガン」。1位から10位は下記の通りです。

1位【オステリア・フランチェスカーナ】イタリア・モデナ
2位【エル・セジェール・ド・カン・ロカ】スペイン・ジローナ
3位【ミラズール】フランス・マントン
4位【イレブン・マディソン・パーク】アメリカ・ニューヨーク
5位【ガガン】タイ・バンコク
6位【セントラール】ペルー・リマ
7位【マイド】ペルー・リマ
8位【アルページュ】フランス・パリ
9位【ムガリツ】スペイン・サンセバスチャン
10位【アサドール・エチェバリ】スペイン・アクスペ

それ以外の順位については下記のページを参照
https://www.theworlds50best.com/list/1-50-winners

日本勢は「傳」、「NARISAWA」、「龍吟」がランクイン!

長谷川シェフの受賞風景
フォーマル指定のセレモニーでも、愛犬プチのプリントを施したTシャツが定番。それでも皆に愛される長谷川シェフならノープロブレム
傳のスペシャリテのサラダ
30種類の野菜を様々な調理法で調理し、取り合わせた傳のスペシャリテのサラダ

日本からは、神宮前の日本料理店「傳」が17位と、昨年の47位から大きく順位を上げてエントリーしました。長谷川在祐シェフの楽しさとおいしさあふれる料理はもちろんのこと、その抜きんでたホスピタリティーを世界の食のプロ達が高く評価した結果でしょう。

また青山のフレンチレストラン「NARISAWA」、六本木の日本料理店「龍吟」は「50」アワードの先駆けとしてこれまで長いあいだ日本勢をけん引してきたレストランですが、今回も安定した人気を誇り、それぞれ22位と41位にランクインしています。

NARISAWAの成澤由浩シェフ
NARISAWAの成澤由浩シェフ
山本征治シェフと龍吟チーム
山本征治シェフと龍吟チーム

サステナブル・ガストロノミーの世界へ

授賞式ではこれら50位までのリストのほか、スポンサー各社による特別賞も用意されています。今年最も活躍した女性シェフを表彰する「ベスト女性シェフ賞」(ロンドン「コア」のクレア・スミスシェフ)や、これまで美食の世界を支え、道を切り開いてきた功績を称える「功労賞」(ペルーのガストン・アクリオシェフ)など、多くの特別賞が発表されました。

なかでも注目を集めたのは、地元ビルバオのレストラン「アスルメンディ」が、2014年に続き2度目の受賞を果たした「サステナブルレストラン賞」です。

これは、食材の内容や調達方法、CO2の排出量などさまざまな評価軸をもとに、環境やエコにもっとも意識の高いレストランが選ばれるもの。エネコ・アチャ・アスルメンディシェフはバスクの自然との共生をテーマに、伝統野菜の種子保存やレストランの建物への地熱システムの導入、生ごみの完全肥料化、物流の一本化によるCO2排出量削減など、さまざまなエコな取り組みを、熱意をもって進めてきたのです。

もちろん「50」リストには2014年からの常連組で、今年は43位にランクイン。2013年度版のミシュランガイドでは、そのアーティスティックでクリエイティブな料理内容と店づくりが認められ、なんとスペイン最年少で三ツ星を獲得しています。

そのアスルメンディに伺う機会がありましたので、一部をご紹介しますね。

サステナブルレストラン賞を受賞したビルバオのレストラン「アスルメンディ」とは?

ビルバオからタクシーで15分。小高い丘の上に位置するアスルメンディの大きな窓からは、付近の美しい田園風景が広がります。レストランのエントランスに足を踏み入れると、レセプション&ピクニック広場でまず、ピクニックバスケットがサーブされます。

アスルメンディのエントランス
アスルメンディの入り口すぐにあるレセプションスペース
アスルメンディのピクニックバスケット
アスルメンディのピクニックバスケット

一口サイズのかわいいアミューズブーシュ4種類をバスクの白ワイン、チャコリと一緒にいただく楽しいひと時が、コース開始の「儀式」なのです。

アスルメンディのシェフたち
グリーンハウスで説明をしてくれた料理人
アスルメンディのグリーンハウス
植物の間に隠されたアミューズを探して食べるという演出

たくさんの料理人がきびきびと動くキッチンに入り、目の前で仕上げられたスペシャリテの「トリュフ風味の卵」を味わった後は、さまざまなプランツが集められた「グリーンハウス」へ移動。室内のグリーンのあちこちにアミューズが隠れているため、それを探し出して食べるというお茶目な演出です。

このアクティビティの後にやっとダイニングルームへ移り、テーブルについて食事が始まるという訳です。

バスクの豆とイベリコハムのスープ
着席してからの8皿目。初夏の時期だけに出回るバスクの柔らかなバスクの豆を、うま味たっぷりのイベリコハムのスープ(ゼラチン)でゆるく寄せ、カリカリのコーンブレッドを添えた皿
オマール海老のロースト
オマール海老のローストは9皿目。小玉ねぎのマリネを添え、ロブスターを煮出して作ったソースを敷いて
キノコのアヒージョ
キノコのアヒージョは10皿目。パスタに見立てたキノコをオリーブオイルで煮込み、キノコのエマルションを添えたもの。あつあつの卵黄の天ぷらを崩せばもう一種類のソースに
チョコレートやマカロンが入ったスイーツボックス
15皿の料理の後に3皿のデザート、最後にカフェと一緒にサーブされる小菓子ボックスは宝石箱のよう。ホワイトチョコレートのボンボンやヘーゼルナッツのチョコレート、ラズベリーのマカロンなど

「世界のベストレストラン50」にランクインする美食の世界、エネコシェフのお料理を少しお伝えできましたでしょうか。全26皿と小菓子という長いコースも、楽しさにわくわくしながら次の皿を待っているとあっという間。

アスルメンディのメイン営業はランチなのですが、私たちが伺ったのはディナータイム。さまざまなサステナブルな取り組みは明るい時間帯しか見ることができないため、また別の機会を見つけて訪れたいと思っています。

東京でアルスメンディの味をいただける!西麻布「ENEKO Tokyo」

じつは昨年から、アスルメンディのお料理を東京でも味わえるようになりました。エネコシェフが2017年9月、六本木に「エネコ東京」をオープンし、世界最先端のバスク料理を東京で体験できるようになったのです。

「アスルメンディ」のスペシャリテも味わえますし、ピクニックバスケットに始まり、バルコニーでアミューズをいただいた後、ダイニングルームに場所を移してコースに臨むスタイルもスペインと同じ。エネコシェフも年に数回訪日し、キッチンを預かる磯島仁シェフとスペインでのメニューを共有しているそうですよ。機会があればぜひ、最新のバスク料理を体験してみてはいかがでしょうか。

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EDIT&WRITING :
佐々木ひろこ