イタリアにおける生物多様性=ビオダイバーシティは、こと食材の世界においても顕著で、EU認定のDOP、IGP食品もイタリアはヨーロッパ最多である。
しかし本来、食におけるビオダイバーシティと流通とは相反することでその独立性が保たれ、特定の地方で作られる稀少食材やマイナー食材、家内制手工業による小規模生産食品などは現地に行かなければ食べられなかったのが20年前までのイタリアだった。
食をテーマにしたフードコート「FICO フィーコ」
イタリアの食文化の全てを知る!
しかしEATALYはそうしたイタリア全土の食材を一手に集め、ミラノ、トリノ、フィレンツェなど都市部でもごく日常的に入手できる流通経路を開発したのだ。パンテッレリアのカッペリやヴァッレ・ダオスタのワイン、テスタローリなどイタリア各地の食材がショッピングカートに詰め込まれ、誰もがごく普通に買い物している光景を見るとイタリアも変わったな、と思うことひとしおだ。
食の全てがそろう!
そのオスカー・ファリネッティによる最新の試みがFICO、これはFabbrica ItalianaContadina=の略であえて訳すならば「イタリア式農業工場」となるだろうか。
またイタリア語のFICOとは英語でいうCOOLに相当するスラングでもある。屋内8ha、屋外2haに広大な敷地には40社の生産者と45のレストランがあり、会議場やミニ・パヴィリオン、上映ホールなども備えている。
すなわち食のテーマパーク、といってしまえば簡単だがFICOでは食材が生まれる現場を見せることで、子供から大人まで幅広く食の意識を高めることを目的とし、最終的にはそうした食材が味わえ、購入できるシステムとなっているのだ。
イタリアの伝統を学ぶ
8haの館内も広大だが、屋外では動物が飼育されており、誰もが見学できるようになっている。例えば最近ではパルミジャーノ・レッジャーノでもモデナ在来種である赤牛、ヴァッカ・ロッサ・モデネーゼが珍重されているが、直に目で見たことがある人は少ないだろう。
しかしFICOではヴァッカ・ロッサ・モデネーゼはじめキアニーナ、ファッソーネ、ピエモンテーゼなどイタリアを代表するブランド牛はじめ、豚、羊、山羊、ウサギ、鶏などが実際に飼育されているのだ。
また、屋内ではグラナ・パダーノ、モッツァレッラ、パスタなどを作るブースもあり、その工程がガラス越しに見学できるようになっており、常時ワークショップが開催されている。こうしたブースをひとつひとつ見て行くとわかるが、実はほとんどが地元エミリア・ロマーニャ州の生産者で、農業の一大生産地である同州の底力を感じさせるような構成となっている。
世界に冠たるパルミジャーノ・レッジャーノとグラナ・パダーノ、プロシュット・ディ・パルマ、クラテッロ・ディ・ズィベッロ、モルタデッラ・ディ・ボローニャなどなど、FICOを見学して回ることはエミリア・ロマーニャのテロワールを短時間で感じることにもつながる。
この手法はおそらく他の地方でも応用することが可能だ。例えばピエモンテ、ヴェネト、トスカーナなど食におけるキラーコンツを多く持つ地方には、それぞれのテロワールをテーマとしたFICOが誕生してもおかしくない。イタリアにおけるフードビジネスのトレンドと、伝統的食材について学ぶなら今のFICOは必見である。
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト