3つ星シェフ、ミシェル・ブラスも参加したフィンランドのFood & Art
ここ数年、北欧発のガストロノミーが話題になること久しいがその中心は常にレネ・レゼピのNOMAに代表されるデンマークであり、北欧4ケ国の中でもフィンランドは最も出遅れていたと言わざるを得ない。事実北欧ガストロノミーを知る一つの目安である「ミシュラン・ノルディック」の2017年版ではデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの4ケ国に加え、新たにアイスランド、フェロー諸島を加えた6ケ国のレストランが評価されているが、最も評価が高いのはやはりデンマークだった。一時閉店中だったNOMAをのぞいてもコペンハーゲンの3つ星Geranium、同2つ星alocを筆頭に星を持つレストランは合計25件。ついでスウェーデンがストックホルムの2つ星Oaxen Krogなど11件。ノルウェーは星付きレストランの合計こそ5店だが、オスロにはノルウェー唯一の3つ星Maaemoがある。そしてフィンランドはヘルシンキに1つ星レストランが4件あるが2つ星以上はまだ存在していないのだ。しかし北欧の短い夏の間、世界中からシェフを招聘して地元北欧シェフ勢らとコラボレーション、地元食材を使って新たなガストロノミーの可能性を提案しているのがこのFood & Artなのだ。
会場となるマンッタは森と湖に囲まれた小さな町なのだが、夏のある時期だけ北欧中から美食家が集まる、北欧ガストロノミーの首都となる。マンッタの人口はわずか6000人。19世紀に企業家グスタフ・アドルフ・セラキウスが豊富な水と森林にひかれて林業と製紙業を興し、現在のマンッタの基礎を作る。美術収集家でもあったグスタフ・アドルフ・セラキウスの死後、そのコレクションやゲストハウスは財団に寄贈されてイエスタ・パヴィリオンとそれに併設する旧館イエスタ美術館、グスタフ博物館の3つの美術館が作られた。これがマンッタが森の中の芸術都市といわれる所以である。
Food & Artを主催するのは、ヘルシンキの1つ星Oloなどを所有するFood CampFinland。同社のCEO、Riika Kannas リッカ・カンナスと、フィンランド年間最優秀シェフ賞に輝くなど同国を代表するスター・シェフ、Pekka Teräväペッカ・テラヴァが中心となり、フィンランドの料理レベル向上と、料理とアートの融合をテーマとしたFood & Artを企画。2015年にはイタリアからローマの1つ星Glass Hostariaの女性シェフ、クリスティーナ・ボウワーマンを招聘。そして昨年の2017年はフランスの3つ星シェフ、ミシェル・ブラスを招き、Food & Artの知名度は飛躍的に向上した。
2018年度はホストシェフでもあるペッカ・テラヴァを中心に地元フィンランドからボキューズドールの代表チームが参加。隣国スウェーデンからは同じく同国を代表するトップシェフ、Paul Svenson/ポール・ズヴェンソンが参加。そして今年5月、ミラノで行われたサン・ペレグリノ・ヤングシェフで日本代表の藤尾康浩さんが優勝したことは記憶に新しいが、その藤尾さん以下5名のヤングシェフが招聘された。こうした世界選抜シェフチームが北欧の短い夏を締めくくる3日間、美術館内でポップアップ・レストランを展開し、食とアートを融合させて美食家たちを大いに楽しませるイベント、Food&Artが行われるのだ。その模様は次回(9月21日配信)に詳しく。
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト