東名高速を走っていると、富士演習地に近いあたりで自衛隊の車両としばしば行き逢う。その中でも“73式小型トラック”の造形が好きで、見つけると斜め後方から眺めたりする。カーキ色のその車体は市販4WD車のいわばミリタリー・バージョンだ。対戦車用の60式106mm無反動砲を装備できるタイプもあった旧型の通称「ジープ」には、とくに惹かれる。一般向けと地続きのレアなプロフェッショナル用プロダクトには、スペックの魅力に加えて特別なオーラが備わるものだ。ブライトリングの「クロノマット JSP」もそうした性格が強い。
男の物欲を刺激するブライトリングのクロノグラフ
ブライトリング「クロノマット JSP」
伝説のライダータブ
そもそも1984年の初代クロノマットは、フレッチェ・トリコローリ=イタリア空軍エアロバティックチームのためにつくられた腕時計だ。コンペティションを勝ち抜くためにパイロットの声を徹底的にあつめ、いままでにないかたちのクロノグラフが出来上がった。そのディテールの中でも最大の特徴といえるのが“ライダータブ”だ。片回転ベゼルの「15」と「45」、ゼロと「30」の対角線に取り付けられたそのタブは、手袋をつけたままでベゼルを回す時の手掛かりに最適で、セットしたゼロ分からの経過時間を計る絶好の目印でもあり、衝撃からガラスを守る障壁でもあった。
凄腕のエリート空軍パイロットのための工夫は、一般時計ファンも酔わせた。明らかなオーバースペックは、もしもの時に備えるスーパースペックとして熱狂的に受け入れられたのである。ライダータブは25年存続し、2009年のモデルチェンジで姿を消した。その伝説的なディテールを日本限定で復活・装備した、ありえないモデルが「クロノマット JSP」なのである。
自社開発ムーブメント「キャリバー 01」
しかも「クロノマット JSP」は、自社開発に成功したムーブメント“キャリバー 01”を搭載する。パワーリザーブは70時間、24時間調整可能な日付表示を持ち、公的機関にクロノメーターの精度を認められたクロノグラフ・ムーブメントだ。500メーター防水性能を誇り、5年間の保証も付く。
航空計器のように視認性が高い文字盤
現行のクロノマットとの違いはライダータブだけではない。バーインデックスを両側に蓄光を配したデザインに変更し、文字盤のスクエアパターンを無くして質感を変えた。さらに2009年までにはなかった、15分ごとに反復するベゼルのスロープは装備しており、むしろ初見の新鮮さを見せる。プロの計器であるからといって、無骨一辺倒なわけではない。
73式小型トラックの60式106mm無反動砲は、実は米軍が装備する「M60」をルーツとする日本バージョンだ。もっとも厳密な品質を要求される軍用製品も、性能を発揮するためにカスタマイズをためらわない。
「クロノマット JSP」も同じことだ。ブライトリングは渾身の最新クロノグラフに、伝統的な装備を、ユーザーのためにあえて復活させた。その日本限定モデルは、最新のスペックに最適のパフォーマンスを持つのである。
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- TEXT :
- 並木浩一 時計ジャーナリスト