ナポリの巨匠、ルイジ・ダルクオーレ氏が来日した。

 御年73歳。今なお現役で、イタリアのみならず、世界中の顧客のためにオーダー会を行い、世界に1着だけのスーツを届けている。

 熟達したハンドワークが紡ぎ出す着心地は、ひとたび袖を通しただけで違いがわかるほど、といわれている。稀代の服好きであり、かねてよりダルクオーレ氏の服づくりに興味を抱いていたモータージャーナリストの松本英雄氏が、極上の着心地の秘密に迫る。

その道50年のマエストロ、ルイジ・ダルクオーレ

インタビューに答えるルイジ・ダルクオーレ氏。長年着込んでいるという自身がはおっているジャケットは、体に馴染み、とてもいい風合いを醸し出している。
インタビューに答えるルイジ・ダルクオーレ氏。長年着込んでいるという自身がはおっているジャケットは、体に馴染み、とてもいい風合いを醸し出している。
緻密な採寸を経て仕立てられるスーツは、ナポリのサルトリアらしく柔らかい着心地と男らしいシルエットが特徴。次回のオーダー会は2019年2月を予定。採寸後、半年後に仮縫い、さらに2〜3か月で納品となる。オーダー価格はスーツで約50万円〜。
緻密な採寸を経て仕立てられるスーツは、ナポリのサルトリアらしく柔らかい着心地と男らしいシルエットが特徴。次回のオーダー会は2019年2月を予定。採寸後、半年後に仮縫い、さらに2〜3か月で納品となる。オーダー価格はスーツで約50万円〜。
−−ダルクオーレさんは、生まれも育ちもナポリですか?
「ええ、そうです。1945年に生まれ、学校を卒業すると、当時の庶民の子供たちと同じように、私も仕事に就きました。初めは陶器づくり。16歳でドイツに渡り、ハイデルベルグに近い小さな村の工場で働いていました」
−−服作りに興味を持つには、もう少し後ですか?
「19歳の時です。サルトリアに通っているうちに興味が増していき、丁稚奉公するようになって、23歳で独立することができました」
−−ということは、もう50年も服づくりに携わっていらっしゃるのですね。影響を受けたスタイルなどございますか?
「昔から映画を見るのが好きなので、スターの着こなしには随分と刺激されました。ハンフリー・ボガートやケーリー・グラントですね。彼らはとてもエレガントな俳優で、ダブルのスーツがとてもよく似合っていました。サルトを始めた頃はふたりの着こなし、1930年代のアメリカンスタイルの服をよくつくったものです」
−−イタリアの人たちも、アメリカのスタイルに影響を受けているんですね。
「そう。50年代や60年代のイタリア俳優も、実にエレガントでした。あの時代は仕立屋に行ってスーツを作るのが普通だったんです」

極上の美と心地よさは綿密な採寸から生まれる

小さなアームホールに、シャツのように袖をいせ込んで縫いつけた「雨降り袖」が、 極上の着やすさを生む。
小さなアームホールに、シャツのように袖をいせ込んで縫いつけた「雨降り袖」が、 極上の着やすさを生む。
ジャケットをはおる松本氏。サンプルとはいえ、首から肩にかけてが吸い付くように馴染んでいる。
ジャケットをはおる松本氏。サンプルとはいえ、首から肩にかけてが吸い付くように馴染んでいる。
−−ところでダルクオーレさんが仕立てる服は、とても着心地がいいと聞いています。今日お召しになっているジャケットも、とても馴染んで見えます。
「どんな服でも体に馴染んでいて『着尽くしてる感じ』が、とても大切です。このジャケットは23年前に作ったものですが、当時と着心地の良さはまったく変わっていません。洗濯機でガラガラと洗っていますけどね」
−−一見シャープに見えるけど、実はコンフォタブルで動きやすい。その秘訣は?
「動きやすさの一番のポイントはアームホールです。すごく小さくつくっています。だから腕を上げても、わき下がつれることはないのです。ほら、このジャケットをはおってみて」(サンプルの一着を松本氏がはおる)
−−確かに! 本当に腕が動かしやすいですね。それに着心地が柔らかいし軽い!
「素材を吟味し、芯材の入れ方やパーツの付け方に工夫を凝らすことで服の重さが分散されているからでしょう」
−−ハンドメイドの良さは着心地だけでなく、着たときの美しさにも現れますね。とても立体的です。
「体に布や型紙を当てるやり方ではなく、綿密な採寸で数値を細かく出すことで、立体感を出しています。美しいプロポーションを生み出す要は、正確で緻密な数値です。これさえ徹底していれば、生地の硬軟にかかわらず、シルエットは同じように作れます」

 ダルクオーレ氏の、詳細なデータに基づくハンドワークのクリエイション。ナポリのサルトリアが培ってきた妙義は、かしこまった装いでは窮屈さを我慢するのが当たり前と思っているわれわれに、軽やかで艶のあるスタイル、エレガントの真髄を教えてくれる。

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この記事の執筆者
女性ファッション誌、ビューティ誌を中心に執筆活動を行ったのち、しばしの休眠を経て現場復帰。女性誌時代にクルマ記事を手掛けていたこともあり、またプライベートではライフステージの変化に合わせて様々な輸入車を乗り継いできた経験を生かし、クルマを核とした紳士のライフスタイル全般に筆を執る。