9月公開の「大人の女性が観るべき映画」4選
映画ライター・坂口さゆりさんが厳選した、「大人の女性が観るべき」映画作品を毎月お届けする本シリーズ。今回は、2018年9月公開の映画、『散り椿』、『プーと大人になった僕』、『世界が愛した料理人』、『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の4作品をご紹介します。
■1:『散り椿』|時代劇
岡田准一さんの殺陣のうまさは知っていたものの、これほどとは! 映画『散り椿』で岡田さんが見せる剣豪という看板に偽りなし。朴訥で不器用ながら、愛する女性のために命を懸けて闘う男にすっかり釘付けになりました。
享保15年。藩の不正を訴え出たものの認められず、故郷・扇野藩を出た瓜生新兵衛(岡田)は、病床にある妻・篠(麻生久美子)から最期の願いを託され、妻亡き後8年ぶりに故郷に戻ってきます。新兵衛が今さらなぜ帰郷したのかとざわつく藩内。やがて新兵衛は同じ道場で共に四天王の異名を轟かせたかつての親友で、篠と恋仲だったと思われる采女(西島秀俊)と対峙することに……。
岡田さんの殺陣に加えて、撮影も特筆に値します。今や時代劇の制作にはお金がかかるため、建物ひとつをとっても時代を感じさせる重厚なセットを組むことは難しい時代。本作では黒澤映画を始め、名キャメラマンとして日本映画界に君臨してきた木村大作さんならではのこだわりが随所に光ります。木村監督3作目にして初の時代劇は、徹底的に「美しい時代劇」となりました。
なにしろ木村監督、黒澤監督のように本物を造れないなら本物を使ってしまおうと、時代劇として前代未聞の全編オールロケを敢行。重厚な建造物からは時代の風情が、また、風が渡り光がこぼれる木々からは香りが立ち上るよう。四季折々の空気感や温度もしっかりと感じさせてくれます。
脚本は黒澤 明の助監督を長年務め、黒澤作品を彷彿させる映画を撮り続ける小泉堯史。これほど見応えのある、心揺さぶられる時代劇を今の時代に見られることの幸せを噛み締めたい。黒澤映画の流れを組む本格時代劇と、しっとりとした情感あふれる愛の物語をじっくり味わってください。
作品詳細
- 『散り椿』
- 監督・撮影:木村大作 出演:岡田准一、西島秀俊、黒木 華、池松壮亮、麻生久美子、緒形直人、新井浩文、柳楽優弥、芳根京子、駿河太郎、渡辺 大、石橋蓮司、富司純子、奥田瑛二ほか。
- 9月28日から全国東宝系にて公開
■2:『プーと大人になった僕』|ヒューマンドラマ
あのディズニーの人気キャラクター「くまのプーさん」が実写映画になりました! ロンドンを舞台に、主人公のクリストファー・ロビン(ユアン・マクレガー)と100エーカーの森を飛び出したプーさんと仲間たちが繰り広げるハッピーな物語です。
子どものころにクリストファー・ロビンが大親友のプーに交わした「100歳になっても、きみのことは絶対に忘れない」という約束。でも時が経つにつれ、結婚し出兵し、日々忙しく仕事をするクリストファー・ロビンはそんな約束もすっかり忘れてしまいます。会社からはリストラ案件を託され、家では妻と娘との約束を果たせず悩むクリストファー・ロビン。そんな中、なぜか突然プーが目の前に現れて……。
仕事に忙殺されて心を亡くしていたクリストファー・ロビンの姿にハッとする人は少なくないのでは。観る人もまた、自身の大切な人やことに思いを馳せることになりそう。子ども向け映画でしょ、と思ったら大間違い。ちょっと疲れた大人たちにこそ観てほしい、心を取り戻せそうな1作です。
作品詳細
- 『プーと大人になった僕』
- 監督:マーク・フォスター 出演:ユアン・マクレガー、ヘイリー・アトウェル、ブロンテ・カーマイケル、マーク・ゲイティス、ジム・カミングスほか。
- 全国公開中
- ウォルト・ディズニー・ジャパンの公式サイト http://disney.jp/Pooh-Boku
■3:『世界が愛した料理人』|ドキュメンタリー
スペインのバスク地方にあるミシュラン三つ星レストラン「アスルメンディ」のシェフ、エネコ・アチャ・アスルメンディと、日本の寿司店「すきやばし次郎」を世界に冠たる名店へと導いた世界最年長の三ツ星料理人、小野二郎の話を中心に、名だたる料理人たちが(故人となったロブションも!)料理に込める熱い「Soul」を綴った美食ドキュメンタリーです。
「食べる幸せを共有したくて料理をつくる」と言うエネコが影響を受けたのは、料理上手な祖母と母。食べるのが好きで料理を追求し始めたと言います。調理は家庭料理と変わらず、ただ、計量や品質管理を徹底し、最高の状態で出せるように手をかけるのだとか。彼は店でシェフとは呼ばせず、「職人」であることに誇りを感じているそう。
そんなエネコはやがて、オバマ大統領をはじめ世界中の政治家や芸能人、そして世界のトップ料理人が尊敬してやまない小野二郎に会うため、「すきやばし次郎」を訪れます。二郎さんの「自分の仕事を好きでやれば楽しいからいつまでもやれると思うんですよ」という言葉は、料理人に限らず「働く」人にズシンと響くのでは。
たとえここに出てくるレストランへ通う機会がないとしても、お客様に笑顔になってもらいたくて心を込めて料理を追求し続ける料理人たちの姿勢は、十分堪能できるはずです。
作品詳細
- 『世界が愛した料理人』
- 監督・脚本:アンヘル・パラ、ホセ・アントニオ・ブランコ 出演:エネコ・アチャ「アスルメンディ」、マルティン・ベラサテギ「ラサルテ」、カルメ・ルスカイェーダ「サンパウ」、ジョエル・ロブション「ジョエル・ロブション」、石田廣義・石田登美子「壬生」、山本征治「龍吟」、小野二郎・小野禎一「すきやばし次郎」、服部幸應、マッキー牧元、マイケル・エリス「ミシュランガイド」。
- 9月22日からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
■4:『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』|社会派ドラマ
タイ国の映画史上歴代1位の大ヒットを記録した『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』。筆者も高校生版『オーシャンズ11』という触れ込みに誘われて観ましたが、確かにこれは面白い! 熾烈な受験戦争を生き抜かなければならないアジア各国で大ヒットしたのは当然かもしれません。
主人公は小学生のころからずっと成績がオールAで中学生では首席、天才的な頭脳を持つ女子高生リン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)。裕福でなく父子家庭で育った彼女ですが、明晰な頭脳を見込まれ、お金持ちの多い進学校に特待奨学生として入学します。彼女は最初に友人になった、かわいいけどちょっとおバカなグレース(イッサヤー・ホースワン)をテストからある方法で救います。その方法を知ったグレースのBFパット(ティーラドン・スパパンピンヨー)は、グレースに「カンニングビジネス」を持ちかけて……。
リンが編み出す「消しゴム方式」や「ピアノ・レッスン方式」のカンニング方は笑っていられますが、クライマックスの世界各国で行われる大学統一入試「STIC」で仕掛けられるカンニングシーンは28分! ハラハラドキドキ、観ているこちらが緊張で吐きそうになるほど。受験戦争の歪みや貧富の格差などもしっかり練り込んだ注目の青春社会派ドラマです。
作品詳細
- 『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
- 監督・脚本:ナタウット・プーンピリヤ 出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、チャーノン・サンティナトーンクン、ティーラドン・スパパンピンヨー、イッサヤー・ホースワンほか。
- 9月22日から新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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- TEXT :
- 坂口さゆりさん ライター
- WRITING :
- 坂口さゆり