往年のGTをほうふつとさせる魅惑のV12モデル
「812スーパーファスト」の比類なき自由度 

北米で人気を博した名車の系譜

エンジンを前輪の後ろに積む"フロントミッドシップ"レイアウトだ。
エンジンを前輪の後ろに積む"フロントミッドシップ"レイアウトだ。

 多くの自動車メーカーがそうであったように、フェラーリはレース主体の活動から市販車製造に力を入れるようになった1950年代以降、多くの販売が見込める北米を見据えたモデルを開発した。硬派なだけでは、一部のスポーツカー好きにしか支持はされない。必要なのは2名分の荷物が積めるスペースと、信号の少ないまっすぐな道をひたすら走るうえで効果を発揮するオーバードライブ付きのトランスミッション、そして長時間走行での疲労を軽減するしなやかな足回り。もちろん、気分が華やぎ、快適に過ごせるラグジュアリーな演出も不可欠だ。そうした条件をクリアしたGTが、1959年に登場した、その名も「400スーパーアメリカ」だ。クーペとカブリオレ、ふたつのスタイルをもつフェラーリの野心作は発売後も改良が続き、1964年に「500スーパーファスト」へと発展する。

現代に蘇った"デイトナ"

彫刻のごとき造形美は、緻密な空力性能の追求の結果でもある。
彫刻のごとき造形美は、緻密な空力性能の追求の結果でもある。

 そして今年5月、日本で最新の12気筒エンジン搭載モデルが披露された。モデル名は「812スーパーファスト」。フェラーリ史上、最もパワフルな800馬力の6.5リッターV型12気筒自然吸気エンジンを積む、2人乗りのスーパースポーツカーだ。至高のエンジンを収めたノーズ部分は長く、サイド部分のえぐれからリアフェンダーの盛り上がりを経て高い位置で切り立つ、ハイエンドのスタイリングをもつ。それは、かつての「500スーパーファスト」の後継モデルにして、"デイトナ"の愛称で人気を誇った「365GTB/4」(1968~73年)へのオマージュといっていい。優美にしてスポーティというフェラーリの伝統を受け継ぐこの最新モデルは、静止状態から100km/hまでわずか2.9秒という圧倒的なパフォーマンスを誇る。何よりも、800馬力の最高出力を発揮するのは実に8500回転であり、最大トルクも7000回転と、その強心臓ぶりはレーシングカーそのものだ。

スポーツ性と快適性の融合

フェラーリ初の電動パワーステアリングを始め、ハイテク装備がドライバーをサポートする。

 

ラゲッジスペースも十分な広さを誇る。「スーパーファスト」を名乗る理由は、むしろこうしたGT的な部分にあるのではないか。

 「812スーパーファスト」はスーパースポーツカーであり、GTでもある。長年のレース活動で培われた電子制御技術を積極的に投入し、ドライバーに過大な負担を強いらずとも理想的なスポーツドライビングを堪能できるうえ、ラグジュアリーで実用面にも配慮した室内空間は、旅をするうえでも不足はない。すなわち車名の「スーパーファスト」とは、自身の歴史に誇りを持ちながら、それに甘んじることなく研鑽を重ねてきたフェラーリによる、「比類なき自由度を実現した究極のスポーツカー」を指し示していると、解釈できる。すでに受注は始まっていて、今年中にもデリバリーが始まるという「812スーパーファスト」。ステアリングを握れる日が待ち遠しい。

〈フェラーリ・812スーパーファスト〉

全長×全幅×全高:4657×1971×1276㎜
排気量:6496cc
エンジン:V型12気筒DOHC
最高出力:800CV/8500rpm
最大トルク:718Nm/7000rpm
駆動方式:2WD
トランスミッション:7速F1 DCT
価格:3910万円(税込)
フェラーリ・ジャパン http://www.ferrari.com/ja_jp

この記事の執筆者
TEXT :
櫻井 香 記者
2017.6.29 更新
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。