機能美あふれる「ベージュ×黒」で脚を長く、足先を小さく
19世紀のファッションの常識を覆し、ジャージー素材の服や、リトルブラックドレスを生み出したガブリエル・シャネルが、15年のブランクを経て、パリモードに復帰したのは、1954年のこと。現在、私たちが愛するキルティングバッグやツイードジャケットといったシャネルの名品は、その直後から次々に誕生しています。
1957年に発表された「バイカラーシューズ」もそのひとつ。ベージュにトウだけを黒く切り替えたスリングバックシューズです。当時、靴は単一色が主流でバイカラーは画期的。その快適な履き心地と美しさ、昼夜を問わず映える上品さが、女心をとらえたのです。
そこには3つのメリットがありました。肌色になじむベージュで脚を長く見せること。黒のトウでつま先の汚れを目立たせず、足を小さく見せること。そしてストラップから、古くさいバックルを外し、内側にゴムを入れてフィット感をもたせたことです。60年を超える時を経て、今なお新鮮であり続けるには確かな理由があったのです。
![靴[素材:ゴートスキン、ヴィスコース、ヒール:6.5cm]¥90,000(シャネル) [Precious2018年10月号074-075ページ]](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/d/3/720mw/img_d37aa2599b4f8f50b6fd0818238ff20486927.jpg)
ベージュ×黒の定番モデルです。スクエア気味のラウンドトウに、丸みを帯びたスクエアヒール。バックストラップはアシンメトリーになっています。さりげなく煌めくシャネルのロゴと美しいカーブを描く計算されたカッティングがポイントです。
Variation
![靴[ヒール:1cm]¥74,000(シャネル) [Precious2018年10月号75ページ]](https://precious.ismcdn.jp/mwimgs/0/f/720mw/img_0fe34d29e55a3762e368534fb4b980b079990.jpg)
マドモアゼルのアイディアを引き継いで、1984年にカール・ラガーフェルドが提案したのが、バイカラーのバレリーナ。フラットシューズのなかでも圧倒的な上品さがあります。
職人たちの細やかな手仕事が名品を生み出す
75以上の製作工程が求められる「バイカラー」のスリングバックシューズは、ラグジュアリーの極み。まず、カール・ラガーフェルドとクリエイションスタジオがスケッチを起こし、細かく採寸されたデータがイタリア屈指のファクトリーに送られ、木型がつくられます。
そして最先端の技術を駆使した工房でも、基本は熟練の職人による繊細な手仕事。その技と経験がなくては、どんなに上質な素材でも、シャネルの掲げる美しさの基準に達することはできません。
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正確に切り出される型紙。/©CHANEL
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レザーを職人の手作業で木型に取り付ける。/©CHANEL
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ヒールに付ける羨望のCCロゴ。/©CHANEL
マドモアゼルが愛した男性ファッションがヒントに
マドモアゼルが考案した服の数々が、紳士服からアイディアを得ていることは、よく知られています。バイカラーの靴も、男性のレジャーシューズからアイディアを得たものでした。1920年~30年ごろ、テニス、ゴルフ、ヨットなど、上流階級の男性たちの遊び場では、靴のつま先に黒い革があてられて、汚れが目立たないようにしてあったのです。その実用性とかっこよさを、マドモアゼルが女性のパンプスに取り入れ、都会的に解釈したといわれています。
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1937年、バレエダンサー、セルジュ・リファールの肩の上で微笑むマドモアゼル。当時すでに、足元には底厚でつま先が黒い、カジュアルなサンダルを履いていたのがわかります。Ph/Jean Moral?Brigitte Mora
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- 戸田嘉昭・小池紀行・宗髙聡子(パイルドライバー)