淑女はパリが好きだ。ほぼ全員(断言)。若かりし頃、女性ファッション誌やカルチャー誌で美意識を育みながら大人になった彼女たちは、そこに特集されていたフランス映画に、パリブランドのファッションに、パリ発のスイーツに傾倒しながら青春時代を過ごしているからだ。もちろん教養ある淑女たちはアートにも明るい。
そんなパリ好き、フランス好き淑女たちに見せたい写真展「パリ地方およびノルマンディー、印象派を巡る旅 2018 夏」が、去る9月に開催された。今後巡回予定につき、ぜひこの目で確かめていただきたい。名品を愛する紳士の心にも刻まれること請け合いである。
単なる「あの場所の昔と今」とは違う感動体験
モネ、ルノワール、ゴッホ、ミレー、ドガ、マネ、など印象派の巨匠たちが描いた名画の情景を、1世紀の時を超えた今、同じ場所を巡って写真に描き出す…。そんな素晴らしい旅を実行し、シャッターを切ったのは小川康博氏。東京ベースでありながら、海外で高い評価を得ているフォトグラファーだ。
この試みが面白いのは、名画を並べて展示された写真が、単に場所を示すものでもなければ、都市計画資料によくある「あの場所の昔と今」といった時代比較にはまったくなっていないこと。むしろその逆で、名画に描かれた風景の不変性を捉え、かけがえのない原作のストーリーはそのままに、優れた実写版映画でそれを見返すような楽しさがある。
心理描写を溶け込ませることに長けた小川カメラマンの妙技は、当時、巨匠たちが肉眼で見、自らの心情を筆のタッチにトランスレーションさせ、ある意味自由に描いたその世界観を、一枚の写真に見事に映し出していることだ。ご本人に伺ってみると「長時間そこに佇み、風景と自然が調和し、名画の世界観を切り取る瞬間というのは、ほんの数秒間だった」という。ゴッホの「カラスのいる麦畑」の撮影では、滞在中、空はずっと厚い雲が覆っていたそう。もうあと数十分で移動しなくてはならない、というスケジュールの中、突然光が差し込み、空が明るくなり、ゴッホが描いた、風に撫でられる麦畑が眼前に広がったのだそう。
今もそこにあるという奇跡
そして何よりも素晴らしいのは、100年以上前に印象派の巨匠たちが描いたパリ地方やノルマンディーの風景が、今なおそこにあり、その世界観を体験できるということだ。小川氏の撮影が行われたのは、2018年夏。写真の数々は、今年でも来年でも、私たちもそこを訪れれば、印象派の巨匠たちが魅了された風景に出会えることを教えてくれる。
写真展を見て興がのったら、フランスへ赴いて印象派の名画に描かれたパリ地方やノルマンディーの風景をご自身の脚で巡ってみてはいかがだろうか。ひとりでも十分楽しいし、もし身近にパリ好きな淑女がいれば、ぜひお誘いを。巨匠が描いた本物の名画も拝めるかの地の美術館で、ふたりだけの「時空を超えた旅」を満喫できるだろう。
参考ウェブサイトFrance.fr
- TEXT :
- 林 公美子 ライター