どんな業種であれ、職場では日々さまざまな世代や立場の人と接する機会がありますよね。世代が違えば育ってきた環境も違うものです。すると、ものの見方や価値観にも差が生まれます。

そんな若手とのギャップに、頭を悩ませている人も多いはず。ですが、価値観の違いが気になるあまり、知らず知らずのうちに「これだから若者は……」という偏見を持って接してしまっていませんか?

アンコンシャスバイアス研究所代表理事の守屋智敬さんは、自分の中にある無意識の偏見や思い込み(アンコンシャスバイアス)を自己認知できていないことが問題だと指摘します。

以下ではキャリア女性が、部下や周りの人、そして自分自身に対して抱きやすい無意識の思い込みを紹介します。試しに、本記事を読みながら「これって私の偏見や思い込みでは?」と自問してみてください。それだけでも、自分の思い込みや考え方の傾向に気付くきっかけになり、問題の早期解決につながっていくはずですよ。

部下との関係がうまくいかない人が抱いている「無意識の思い込み」6選

■1:「教えたとおりにできない人は能力がない」と思っている

やり方が間違っていない?
やり方が間違っていない?

自分の作業をこなしながら、若手の新入社員や新人を教育するのは大変ですよね。

貴重な時間を割いて指導しているのに、部下がなかなか成長しない……そんなとき、無意識に「この人は教えられたとおりにできないから能力がない」と考えてしまいがち。ですが、こうした一部の情報だけで能力がないと決めつけると、部下が育たなくなる危険性があると守屋さんは言います。

「人にはそれぞれに個性があり、やり方も身につけ方も人それぞれです。自分が教えたとおりにできないからというだけで『能力がない』と決めつけてしまうと、本来の能力が発揮されなくなったり、過度に部下の評価を下げてしまったり、仕事の機会を与えることができなくなったりしてしまいます。つまり、こうした決めつけをしてしまうことで、部下が育たなくなるかもしれないのです。

もし、部下が教えたとおりにできないのであれば、教え方を変えてみる、丁寧にフォローしてあげる、ほかの同僚や先輩のアドバイスも受けるように促してみるなど、関わり方を変えてみるといいでしょう」(守屋さん)

部下が教えたとおりにできないのは、能力がないからではなく、教え方が合っていないからなのかもしれません。「自分がこう教わったのだから、このやり方が正解」と思い込んでいたことに気が付けば、きっと別のアプローチの仕方を見つけられるはずです。

■2:「上司の言うことには従うのが当たり前」と思っている

部下の考えを無視していない?
部下の考えを無視していない?

軍隊では、上司の命令は絶対……ですが、一般の職場では必ずしもそうとは限りません。

そんなことは誰でも理解しているでしょう。にもかかわらず、部下がこちらの指示に従わなかったとき「上司の言うことを聞かないなんて生意気だ」と感じてしまうのは困りもの。もしかすると、相手には何か別の考えがあるかもしれないからです。

「部下は上司の言ったことに従うのが当たり前という思い込みを持って部下に接すると、部下が自分なりの考えを持たなくなったり、意見が言えなくなったりする危険性があります。

部下がこちらの指示に従わないのは、実は従っていないように見えているだけかもしれません。そんなときは『ひょっとして言ったことが伝わっていないのでは?』『部下なりに気になることがあるのでは?』と自問し、念のため部下に確認を取るようにしましょう。思いこみに振り回されないためには、事実を確認することが大切です」(守屋さん)

仮に部下の意見が通っていれば、上司のミスリードを防げた、というケースもあり得ます。もし部下が指示に従っていないように見えたら、まずはきちんとヒアリングを。

■3:「時短勤務を希望する社員は仕事への意欲が低い」と思っている

先入観で判断していない?
先入観で判断していない?

自分が部下の立場だったころは「部下は上司より先に帰ってはいけない」という暗黙のルールがあった、という人も多いのではないでしょうか。

だからこそ、自分よりも先に帰ったり、時短勤務を申し出たりする部下に対して「あの人はやる気がない」と感じてしまうことがあるかもしれません。しかし、守屋さんは「部下が時短勤務を希望する理由は、仕事への意欲という心理的な問題とは違う次元の可能性がある」と待ったをかけています。

「時短勤務の希望は、仕事への意欲が低いからとは限りません。部下なりに置かれた環境の中で、限られた時間をどう使うかを選択した結果です。仮に同じ1時間の成果で比較したとき、限られた時間のほうがフルタイム勤務よりも効率が上がるかもしれません。

部下が時短勤務を希望するのは、仕事への意欲という心理的な問題ではなく、プライベートの問題をはじめとした時間的・物理的な理由がほとんど。まずはどういう理由で時短勤務を希望しているかをしっかりヒアリングすることです。場合によっては、上司が環境を整えることで時短勤務という選択をしなくて済む可能性もあり得ます」(守屋さん)

部下にもその人なりの都合があることでしょう。時短勤務=やる気がない、という勝手な思い込みで部下の評価を下げてしまうのは誤り。先入観だけで判断せずに、きちんとコミュニケーションを取れれば、余計な誤解が生じないで済みますね。

■4:「仕事よりプライベートを優先する部下は昇格意欲が低い」と思っている

部下に自分と同じ水準を求めていない?
部下に自分と同じ水準を求めていない?

口を開けば趣味の話、週末にしょっちゅう旅行している……そういう人に対して、「あの人は遊んでばかりいて、仕事は二の次だ」と感じていませんか?

その相手が部下なら「昇格意欲が低いに違いない」といった考えに囚われ、結果的に部下との確執を生んでしまうかも……。守屋さんは「部下の昇格意欲が低いと決めつけてしまうと、職場内に仕事優先の風潮をつくってしまい、部下の心身が疲れてしまう可能性がある」と警鐘を鳴らしています。

「仕事よりもプライベートを優先することは、生活基盤を整え、心身を健全に保つには大切なことです。たとえ部下がプライベートを優先することに違和感があっても、部下の生活や心身を守ることも上司の大きな仕事だと思って受け入れましょう。優先順位が違うだけで、必ずしも仕事をないがしろにしているわけではない可能性があるからです。

仕事はプライベートと比べるものではありません。限られた時間の中で部下が最高の成果をあげられるようにフォローしたり、環境を整えたりすることに集中してみてはどうでしょうか」(守屋さん)

プライベートよりも仕事を優先してきたという人ほど、周りの人にも同じ水準を求めてしまいそう。万が一、部下がプライベートを優先しているように見えたとしても、それが相手の生活や心身を守ることにひと役買っていると考えれば、きっと受け入れられるでしょう。

■5:「若手は年上への配慮がない」と思っている

「若手は年上への配慮がない」と思っている人いない?
「若手は年上への配慮がない」と思っている人いない?

先輩と後輩の上下関係は、育ってきた環境によって考え方がさまざま。とはいえ、目上の人への気遣いができない若者を見て「最近の若者だからしょうがないな」と呆れてしまうこともありますよね……。ところが「そうした偏見が世代間ギャップをさらに大きくしてしまう」と守屋さん。

「この場合、配慮がないことが問題なのではなく、年齢だけで上下関係をつくってしまうことが問題なのです。年上であっても若手に配慮することは大切。若手だからと決めつけては、若手が委縮したり、年上には関わりたくないと思われてしまったりするかもしれません。また、上司の側が年上社員というだけで若手に対して横柄になってしまうことも考えられます。

人への配慮は、年齢や立場、属性に関係なく大切なことであり、配慮はお互いにすることです。人には『配慮してもらったから、こちらも配慮したくなる』という心理があります。相手に配慮してもらうには、こちらから配慮する姿勢を示しましょう」(守屋さん)

与えられる人から与える人になるということが、年下から尊敬される人になるための秘訣なのですね。

■6:「自分の認識は常に正しい」と思っている

ひとつのやり方に固執していない?
ひとつのやり方に固執していない?

思い込みは他人に対してだけでなく、自分自身に対しても存在します。

特に仕事のキャリアが長いほど「これまでの自分のやり方は正しい、それに反論する部下は正しくない」という思い込みに囚われがちなので、早めの気付きが肝心です。

「人の脳には、自分の都合の良い情報しか見ない、情報を自分の都合の良いように解釈するという性質があります。さらに、成功した経験があればあるほど、自分の認識が正しいと信じるようになります。しかし、必ずしもその認識が正しいとは限りません。

できるだけ多くの人の意見や解釈に耳を傾けると、自分の認識とは違う点が見つかるでしょう。無理に反対意見を取り入れる必要はありませんが、『そういう意見もあるんだ』と受け入れることが大切。『反対意見を言ってもらえたおかげで方向性が見えた』、『適切な判断ができた』などと感謝の気持ちを示すのが、受け入れるということなのです」(守屋さん)

部下から反対意見や問題点を指摘する意見が出てきたら、思い込みに気付くチャンス。まずは意見を出してくれたことに「ありがとう」と言うようにしてみましょう。

最後に、部下から信頼を得るためのポイントを守屋さんに伺いました。

「部下が上司に求めることを調査した結果によると、多くの部下は上司を信頼し、ついていきたいと考えているようです。これは、単に仲良くなるという意味ではありません。上司が部下に迎合するのではなく、お互いに信頼し合い、意見を言い合える関係こそが、良い関係なのです。

部下との関係を深めるためには、こちらから積極的に相手と関わるようにしましょう。次に、部下に仕事を任せること。もしうまくできないなら、やり遂げられるようにサポートしてあげることも上司の役目です。最後に、上司の意見がブレないこと。仕事を進める際の決定権は上司にあります。方向性をしっかりと定めて判断を下すことで部下の迷いがなくなり、『この上司にならついていける』と信頼してくれるでしょう」(守屋さん)

部下との関わりが少ないと、それだけ相手への思い込みも強くなってしまいます。まずは積極的に部下と関わることが信頼関係を築く第一歩。最終的に「上司に守ってもらえる」という安心感を与えることが、部下から信頼を得るためのカギです。

部下に対する思い込みや偏見があるのはダメ……と考えてしまいがちですが、そもそも思い込みや偏見を完全になくすことは不可能。大切なのは、自分の考え方の傾向を知るという小さな気付き。その傾向を理解して上手に対処することが、無意識の思い込みで部下との関係を悪化させないためのコツだと覚えておきましょう。

守屋智敬さん
一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所 代表理事
(もりや ともたか)モリヤコンサルティング代表取締役。都市計画事務所、人材系コンサルティング会社を経て、2015年にモリヤコンサルティングを設立。これまでに、2万人以上のリーダー育成に携わってきた。近著に『あなたのチームがうまくいかないのは無意識の思いこみのせいです』(大和書房)などがある。
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この記事の執筆者
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WRITING :
上原 純
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