仕事には真面目に取り組んでいるのに、気が付くと複数の業務に追われる状態になっていて手がまわらなくなった、という苦い経験はありませんか?

自分では一生懸命に作業を進めているつもりでも、仕事ができる人と成果に差が出てしまう……もしかすると、その原因は作業効率の違いだけではないかもしれません。

アンコンシャスバイアス研究所代表理事の守屋智敬さんによると、物事を都合の良いように解釈したり、自分の価値観に合わないものを切り捨てたりする、などといった無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)によって、結果的に仕事を抱え込んでしまう人もいるのだそうです。

自分がもってしまっている無意識の思い込みに対処するためには、その思い込みに気が付くことが何よりも大切。本記事では、仕事を抱え込んでパンクしやすい人の中にある無意識の思い込みを紹介していきます。

忙しすぎるとそれだけ自分の思い込みに気付くことも難しくなり、問題が大きくなる一方です。そうなる前に思い込みに気付き、仕事への取り組み方を改めましょう。

激務でパンクしやすい人が抱いている「無意識の思い込み」6選

■1:「誰かに仕事を任せられない」と思っている

遠慮しすぎていない?
遠慮しすぎていない?

自分が忙しいときは、きっと周りも忙しい……そう考えると、ほかの人に安易に仕事を振ると迷惑がかかるのではないか、と思えますよね。守屋さんも「部下に遠慮してしまって、仕事を任せることができないという声をよく聞く」と言います。とはいえ、自分の手がまわらない状態なら、ほかの人の手を借りるのが妥当。

「仕事を任せられないという遠慮は、『迷惑と思われるかも』『反感買うかも』などといった思い込みから生まれます。たしかに作業を丸々お願いするのは、さすがに相手も大変かもしれません。まずはお願いする内容を変えることです。

例えば、これだけやってもらえればうれしいという分量に仕事を細かく分けたり、まずはここまでやってほしいという小さいゴールを設定したり、といった工夫をすると良いでしょう。また、お願いしたら感謝の言葉を忘れないことも大事です」(守屋さん)

職場内には、声を掛ければ手伝ってくれる人がいるものです。仮に手伝ってもらうのが難しくても、自分の状況を周りに知らせておけば、困ったときにフォローしてもらえるかもしれませんね。

■2:「仕事を断ってはいけない」と思っている

なんでも引き受けていない?
なんでも引き受けていない?

頼まれ事にNOと言えない人が、職場にひとりはいるものです。なかには、本当は断りたいけれど、自分の評価を気にするあまり、渋々引き受けてしまうと人もいるでしょう。ここにも注意すべき思い込みが潜んでいます。

「上司や他部署からの仕事を断ることができないのは、『断ると嫌われるかもしれない』『自分の評価が下がるかもしれない』という思い込みから生まれます。何でも引き受けてしまうと、上司や他部署から『あの人に頼めばなんでもやってもらえる』という思い込みをつくり、余計な仕事まで振られる可能性が高くなるので気を付けましょう。

振られた仕事を断るときは、いきなり断るのではなく、引き受けるかどうかの判断基準を、上司や他部署とすり合わせることです。それでも仕事を引き受ける場合は、チームのミッションに合うかどうか、キャパシティーに見合うかどうかのいずれかで判断しましょう。『●●のための仕事なら引き受けます』『●●に見合わなければ引き受けません』といった形で、事前に周りと確認しておけば、無理な仕事を引き受けずに済むはずです」(守屋さん)

周囲から「何でも仕事を引き受けてくれるお人好し」というレッテルを貼られてしまうと、ますます断わりづらくなる危険性あり。引き受けるかどうかの基準をしっかり定めておくことが問題解決のポイントです。

■3:「どれも緊急だからすべて対応しないといけない」と思っている

優先順位がおかしくない?
優先順位がおかしくない?

作業に取り組んでいる最中に、優先度の高い別の作業が舞い込んでくることはありますよね。その結果、前の作業をうっかり忘れてしまったり、内容が疎かになってしまったりすることもしばしば……。

こうした仕事の優先順位の問題について、守屋さんは「ただ単に自分で緊急と勘違いする、上司に『緊急だ』と言われただけでそう信じ込む、といった思い込みから生まれます」と説明します。

「ひとことで緊急といっても、すべてがすべて緊急とは限りません。誰でも仕事は早くしてほしいと思うものです。そこで、緊急と判断するための基準をつくることが大切になってきます。一番緊急なのは、仕事の成果に最も直結しているお客さま(または成果を決める外部の人、クライアント)。

上司や社内の他部署のことよりも、お客さまのことのほうが緊急である可能性が高いと言えます。この仕事は誰のためなのか、何のためなのかを確認して、優先順位を決められる判断基準を明確にしておくようにしましょう」(守屋さん)

仕事を上手にさばける人ほど、作業の優先順位を的確に判断しています。その作業は誰のためのものか、何のためにするのかを考えれば、優先順位が見えてくるでしょう。

■4:「仕事をしていると安心できる」と思っている

ワーカホリックになっていない?
ワーカホリックになっていない?

多忙な日々がしばらく続いた後、時間に少し余裕ができたとき、なぜか不安になった経験はありませんか? このように、仕事があると安心という思い込みは、長時間労働や残業を増やしてしまう危険性があるので注意。

「仕事をする=存在価値が認められているという思い込みから、安心感が生まれるので、そこから逃れたくないという思い込みも生まれ、ひらすら仕事をやってしまうというのは問題です。周りに対して『いつも忙しそうで声をかけられない』というイメージをつくってしまい、だんだん周りとの関係が希薄になるということも考えられます。

以前は、仕事はやっているだけで認められ、評価される時代がありました。しかし今は、どんな仕事でどんな成果を出したかが評価される時代です。『やること』よりも『省くこと、やめること』に価値が生まれる時代とも言えます。できるだけ仕事をしないで最高の成果をあげるにはどうするか、という考え方に変えてみることが大切です」(守屋さん)

長時間労働が評価されるという価値基準は、もはや過去のもの。もし心当たりがあれば、より短時間で同程度の成果を上げられるような工夫をするように心がけてみましょう。きっと今以上の評価を得られるはずです。

■5:「自分にしかできない(自分でやるほうが安心)」と思っている

属人化していない?
属人化していない?

自分にしかできない仕事を任されていると、職場内での存在価値が増し、一層やりがいを感じることでしょう。しかし、その仕事は本当に自分がやらなければいけないのでしょうか? その判断が、結果的に仕事の抱え込みを生んでしまっていませんか?

「人を信じることができない、あるいは自分の存在価値を守りたいという考えに囚われて生まれるのが、自分にしかできない、自分でやるほうが安心という思い込みです。自分の思ったとおりの理想を実現しないといけない、失敗はできないという思いが強い人ほど、こうした問題が生まれやすい傾向にあります。

完璧でなければ本当にダメなのか、自分の思ったとおりでなければ本当にいけないのか、というように、一度ゴールを確認してみましょう。ひとりでできないことをやるためにチームがあり、自分とは違うメンバーがいるからこそ自分だけではできないことができるようになるのです。そう考えて、自分だけでやるということのリスクを回避するようにしましょう」(守屋さん)

仕事はチームで取り組むことがほとんど。チームのために自分がいるからこそ、自分の評価が上がるということは充分あり得ます。

■6:「ほかの人より早く帰ることはできない」と思っている

残業を正当化していない?
残業を正当化していない?

部下が上司より先に帰ることに対して快く思わない風潮は、昨今の職場でもありがち。ですが、守屋さんは「残業する空気が蔓延する可能性がある」と指摘しています。

「上司が帰ることができなければ、部下も帰ることができず、職場全体に残業する空気が蔓延するかもしれません。場合によっては、部下の心身が健全でなくなる可能性もあります。これは集団同調性バイアスと呼ばれるもので、『ほかの人と同じようにしなくてはいけない』という無意識の思い込みから生まれます。

解決策として、突発的な緊急の仕事がない限り『今日のゴールはここ』と一日の始まりに決めて、そのゴールを判断基準に帰るということを習慣にしてみましょう。決めたゴールを達成して帰ることに、誰も文句は言えないはずです」(守屋さん)

ほかの人より先に帰れない空気は、自分の行動で変えることができると信じ、その一日の目標を達成したら帰るという習慣を周りにも広めてみてはどうでしょうか。

最後に、仕事を抱え込みやすい人の特徴について守屋さんに伺ってみました。

「仕事を抱え込みやすい人には、自分を必要以上に大きく見せようとする傾向があります。このタイプの人は、まずセルフイメージを変えることから始めてみましょう。例えば『誰かと比べられなくていい』、『失敗しても大丈夫』、『競争に勝たなくてもいい』というように自分に言い聞かせることで、仕事に対するスタンスが変わってくるはずです」(守屋さん)

また「こうあらねばならぬ」という強い理想をもっていて自分に厳しい人は、他人にも同じ水準を求めがちなので要注意。「理想に合わないからダメ!」ではなく、理想に向かって努力することに意義があると心得ましょう。

仕事を抱え込んでしまうのは、周囲への遠慮や自分への周りの評価などにまつわる無意識の思い込みが原因のひとつ。仕事はチームでこなすものだと理解し、メンバーと上手に協力できる環境を整えることで、いつもパンク寸前という状態から脱却しましょう。

守屋智敬さん
一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所 代表理事
(もりや ともたか)モリヤコンサルティング代表取締役。都市計画事務所、人材系コンサルティング会社を経て、2015年にモリヤコンサルティングを設立。これまでに、2万人以上のリーダー育成に携わってきた。近著に『あなたのチームがうまくいかないのは無意識の思い込みのせいです』(大和書房)などがある。
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この記事の執筆者
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WRITING :
上原 純
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