「本物の家具」がもつ魅力を味方につけてもらうために、インテリアエディター「D」が厳選した大人のためのインテリアアイテムをご紹介する連載。身長156cmと小柄なエディターが、実際に家具を触ったり、座ったりしながら、女性ならではの視点でインテリア名品の魅力を掘り下げます。第9回はノルスタジオの「ウームチェア」。1948年にエーロ・サーリネンによってデザインされた、ミッドセンチュリーを代表する名作です。
どんな体勢をとっても優しく包み込んでくれる「ウームチェア」
名作家具の写真集で見ていたよりもずっと大きく、これがあの「踏ん張っている細いスチール脚に支えられて、キュッとした座面が浮いている、サーリネンのひとりがけソファ」と、同じ椅子とは思いもしませんでした。
ウーム(Womb)=子宮を思わせる、有機的な形状と、さまざまな姿勢をとっても包み込まれるような感覚からその名が付けられたとか。それならば、名作家具だからと言って他人行儀ではなく、お近づきになろうかと、いろんな体勢で座ってみました。
私と同じ身長のKnoll広報の方のアドバイスで、肘掛けにチョイ掛けしてみました。安定感があって、何かしながらちょっと腰掛けたいときにもいい高さです。新しいラブソファとしても使えそうです。
リラックスしてる相手にちょっと寄り添う感じで話すと、いつもよりもいろんなことがスムーズに進む気がしませんか? その懐の深さが名作家具のもつ底力かもしれません。
MoMA所蔵作品でもあるミッドセンチュリーを代表する椅子「ウームチェア」
ノル社の創業者ハンス・ノルの妻でありデザイナーであった、フローレンス・ノルからの「たくさんのクッションの中で丸くなれる、バスケットのようなチェア」というリクエストから生み出されたウームチェア。エーロ・サーリネンによってデザインされた、ミッドセンチュリーを代表する名作ソファです。
スチールパイプで軽やかに浮遊させたバスケットのような有機的なシェルは、デザインされた1948年当時の新素材・新技術だったFRPを張りぐるみにすることで実現しました。置くだけで空間が決まる、70年たっても色褪せない、完成度の高いデザインです。
誰もが知っている名作家具をたくさん生み出したノル スタジオ (Knoll Studio)
ノル スタジオは、世界的に知られている20 世紀モダンデザインを体現する家具メーカーです。1938 年にニューヨークで、ドイツ生まれの家具商の息子ハンス G・ノル(当時24 歳)によって設立されました。ドイツの美術学校「バウハウス」と、アメリカの美術大学院「クランブルック」双方のデザイン思想と関係を経て発展したのです。
ハンスのビジネスパートナーであり妻である、フローレンス・ノルとふたりで続けてきたビジネスモデルは、現代でもなお脈々と受け継がれています。彼らの親交から、ミース・ファン・デル・ローエやエーロ・サーリネン、ハリー・ベルトイアなど、当時の時代の先端を行く建築家やデザイナーとの画期的なコラボレーションが生まれ、20世紀のデザインに多大な影響を与えることとなります。
ミッドセンチュリー時代に数々の名作を生み出した、エーロ・サーリネン
ウームチェアをデザインしたエーロ・サーリネンは1910 年生まれ、フィンランドのキルッコヌンミ出身の建築家、プロダクト・デザイナーです。
クランブルック美術アカデミーの教授でもある父親、エリエル・サーリネンの助手を務め、そこでチャールズ・イームズと出会います。1940年、共同で製作をした「オ-ガニックチェア」がMoMAのコンペで最優秀に選ばれました。ノル社のためにチューリップチェアに代表される数々の家具デザインを手がけたり、ニューヨーク ケネディー空港TWAターミナルを設計したりと、アメリカのミッドセンチュリー期における重要な役割をはたしたデザイナーのひとりです。
問い合わせ先
- Knoll ショールーム
- 営業時間/11:00〜19:00
- TEL:03-6447-5405
- 住所/東京都港区北青山1-2-3 青山ビル1F
- TEXT :
- 土橋陽子さん インテリアエディター
公式サイト:YOKODOBASHI.COM