12月公開の「大人の女性が観るべき映画」4選
映画ライター・坂口さゆりさんが厳選した、「大人の女性が観るべき」映画作品を毎月お届けする本シリーズ。今回は、2018年12月公開の映画、『アリー/ スター誕生』、『彼が愛したケーキ職人』、『葡萄畑に帰ろう』、『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』の4作品をご紹介します。
■1:『アリー/ スター誕生』|ヒューマンドラマ
生まれ変わったら人の心を震わすような歌手になりたいーー。そう真剣に思ってしまったほど、主演ふたりの「うた」にKOされてしまいました。映画『アリー/スター誕生』は、ウェイトレスとして働きながら歌手を夢見るアリー(レディー・ガガ)のサクセスストーリーであり、国民的歌手ジャクソン(ブラッドリー・クーパー)との愛の物語です。
正直に告白しますが、この映画を見るまでレディー・ガガの“素顔”をまともに見たことがありませんでした。いつもコスプレのイメージばかりが先行していて……。ところが、ガガ演じるスーパースター・ジャクソンへの愛を歌にするアリーの可憐さと言ったら! 鼻にコンプレックスを抱いているアリーがジャクソンの前で気にする姿もなんとも乙女。涙を頬につたわせながら彼への思いを絶唱する姿には、心を動かさずにはいられませんでした。
一方、クーパーにも脱帽です。何しろ彼はコメディーから恋愛もの、戦闘ものまで変貌自在のイケメンスター。本作ではナイーブな演技で売れっ子シンガーとして美声を轟かせるだけでなく監督にも挑戦し、こんな愛の映画を撮ってしまうとは。先が読める王道シンデラレラストーリーを期待以上に楽しませてくれた力量はお見事です!
ふたりの歌がなぜここまで魂に響くのか。愛を乗せた音楽の力に心ゆくまで酔いしれてください。
作品詳細
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『アリー/ スター誕生』
監督・出演:ブラッドリー・クーパー 出演:レディー・ガガ、アンドリュー・ダイス・クレイ、デイヴ・チャペルほか。12月23日(日)から全国公開。
■2:『彼が愛したケーキ職人』|ヒューマンドラマ
主人公は、恋人を突然失ったドイツ人のトーマスと、夫を不慮の事故で亡くし息子を育てるイスラエル人のアナト。同じ男性を愛したふたりはイスラエルで互いに惹かれ合っていく。恋愛映画とひと言では言えない、性も人種も超えた人間の絆を描いた、心がじんわり温まる物語です。
ベルリンのカフェでケーキ職人として働くトーマス(ティム・カルクオフ)は、イスラエルからときどき出張でやってくるなじみの客オーレン(ロイ・ミラー)と出会い、恋に落ちます。とはいえ、オーレンにはイスラエルに妻子がいて、ドイツの出張のたびにトーマスと時間を過ごしているのでした。
「また1か月後に」とエルサレムへ帰っていったオーレンですが、その日を最後にトーマスとはぷっつりと連絡が途絶えてしまいます。何度電話しても繋がらず、トーマスは意を決してオーレンの会社を訪れます。すると、オーレンは不慮の事故で亡くなったと言うではありませんか。悲しみが癒えないトーマスは、やがてエルサレムへ向かうことを決意。オーレンの妻アナトの経営するカフェを訪れ、そこで働き始めます。
一方、アナトも夫の死から立ち直ろうと必死に生活を立て直そうとしていました。トーマスはユダヤ教の厳格な食物規定に反しないよう注意しながら、オーレンが好きだった菓子やケーキをつくり始めます。彼の菓子が評判を呼び、アナトのカフェは軌道に乗り始め、次第にふたりの距離が縮まっていくのですが……。
相容れないはずのユダヤ人とドイツ人、異なる性嗜好、日常生活に根付くユダヤ教のしきたり……。結び合うことのなかったふたりが、オーレンの死によって結び合わされる。人を愛することの素晴らしさが静かに、深く沁みてくる感動の物語です。
作品詳細
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『彼が愛したケーキ職人』
監督・脚本:オフィル・ラウル・グレイツァ 出演:ティム・カルクオフ、サラ・アドラー、ロイ・ミラー、ゾハル・シュトラウス、サンドラ・シャーディーほか。
YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開中。
■3:『葡萄畑に帰ろう』|ヒューマンドラマ
8000年の歴史を持つワイン発祥の地ジョージア(グルジア)から届いた、エルダル・シェンゲラヤ監督21年ぶりの新作。権力社会への風刺をユーモアとファンタジーで包んだ人生賛歌となっています。
政府の要職に就いていたギオルギ(ニカ・ダヴァゼ)は、大臣に出世。自ら座り心地の良い椅子を手に入れてご満悦です。妻を早くに亡くした彼は、ちょっと折り合いが悪い娘はいるものの、可愛いひとり息子、そして義姉とともに生活。さらに、ヴァイオリニストだったドナラ(ケティ・アサティアニ)との愛も手に入れ、順風満帆の人生を味わっていました。ところがある日、ギオルギは大臣をクビにされ、家からも退去しなければならないことに……。
欺瞞と忖度、騙し合いにまみれた政治の世界を、ユーモアあふれたファンタジーにして見せてくれたシャンゲラヤ監督は1933年生まれ! 権力争いの中で失墜した主人公が、故郷の葡萄畑でジョージア人らしい生活と精神を取り戻し、家族を再生させようとする物語の背景には、平和で幸せな社会を繰り返し潰されてきた過酷なジョージアの歴史があるといいます。
暗くて過酷な現実をそのまま描いたら、誰もそんな映画は見ないでしょう。だって現実の方が辛いんですから。悲惨なこともオブラートに包んで笑いで見せる。それこそが人々の大きな武器になるってことを、シェンゲラヤ監督はよくご存じなのでしょう。
作品詳細
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『葡萄畑に帰ろう』
監督・脚本:エルダル・シェンゲラヤ 出演:ニカ・ダヴァゼ、ニネリ・チャンクヴェタゼ、ケティ・アサティアニほか。
12月15日(土)から岩波ホールにて公開。
■4:『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』|ドキュメンタリー
ヴィヴィアン・ウエストウッドは何歳になってもパンクだ〜! ドキュメンタリー映画『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』を見たら、思わずそう叫びたくなってしまいました。
多くのハイブランドがコングロマリット(多業種にまたがる複合企業)に属していますが、ヴィヴィアン・ウエストウッドはシャネルやエルメスと同じ独立系(!)だと私自身、改めて気づかされました。にもかかわらず、ブランドは世界数十か国100店舗以上を展開していますが、このドキュメンタリーを見ているとそれも納得。彼女がブランドの価値を高めているのは間違いありません。
ヴィヴィアンは御年77歳。元気に第一線で活躍し続けられるなんて、同じ働く女性としては憧れ、理想です。インタビューでいきなり「過去の話は退屈だわ」なんて先制パンチを食らわしたり、離婚理由を「私の知的好奇心が満たされなかったから」と切り捨てたり。そんな痛快な姿にも痺れました。
デザイナーとして成功した後に経営に失敗して無一文から再出発した話、25歳年下パートナーとの関係、ショーに対する情熱……。彼女の創作の秘密も私生活もつまびらかにしヴィヴィアンの魅力を浮き上がらせた本作。彼女が面白すぎて、何度も身を乗り出しながら本人や関係者の話を聞いてしまいました。
いま仕事がうまくいってない、元気が出ない、やる気が出ない……そんなどんよりした気分に覆われている読者の方がいらしたら、ぜひ本作でヴィヴィアンからパワーをもらってはいかがでしょうか。
作品詳細
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『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』
監督:ローナ・タッカー 出演:ヴィヴィアン・ウエストウッド、アンドレアス・クロンターラー、ケイト・モス、ナオミ・キャンベルほか。
12月28日(金)から角川シネマ有楽町、新宿バルト9ほか全国順次公開。
- TEXT :
- 坂口さゆりさん ライター
- WRITING :
- 坂口さゆり