なにげなく使っている「言葉」を改めて美しいと感動できる
■1:『翻訳できない世界のことば』 著=エラ・フランシス・サンダース、訳=前田まゆみ
だれかに道をたずねたとき、お礼を言って歩き始めた途端、教わったばかりの行き方がわからなくなることがある。方向音痴な私などは、今までの人生で数え切れないほど経験した。それをハワイ語で「’AKIHI」というらしい。へえ、と思う。あの現象に専用の名前があったとはなあ。
『翻訳できない世界のことば』には、そんな言葉がたくさん紹介されている。ほかの国の言語ではそのニュアンスをうまく表現できない「翻訳できないことば」たちを集めた本なのだ。
例えば、マレー語の「PISAN ZAPRA」は「バナナを食べるときの所要時間」とのこと。面白いなあ。そんなの人によるんじゃないかと思うけど、そもそもバナナという食べ物の身近さが違うんだろう。
日本語の例も幾つか挙げられている。例えば「KOMOREBI」。その意味は「木々の葉のすきまから射す日の光」。木漏れ日か! 現象としては当然外国にもあるだろう。でも、日本独自の表現だったとは。そう思って改めて見ると美しい言葉だ。
INTRODUCTION
「翻訳できない言葉」を世界中から集めた小さなブログ記事を書籍化。言葉の背景にある文化や歴史が、著者の豊かな感性で解説される。想像力を盛り上げるおしゃれなイラストも魅力の一冊。世界7か国で刊行予定。
■2:『詩めくり』 著=谷川俊太郎
日本語を再発見するには、『詩めくり』もいい。タイトルからわかるように、これは日めくりのパロディである。だから、日付の下に数行の短い言葉が並んでいるだけ。でも、諺(ことわざ)でも教訓でもお告げでも日記でもない。そこには放し飼いになった言葉の魅力があふれている。
七月四日
うちゅうのはじまりにはなんにもなかった/なんにもないからなんでもなかった/なんでもないからなんでもできた/そのときぼくはじぶんをうんだ/これ書いた子の母親色っぽいでえ/と担任は言った
INTRODUCTION
正月から毎日1篇ずつ、1年間をかけて書かれた366個の短詩。“日めくり”ならぬ“詩めくり”は、最初から読み込むもよし、自分の誕生日を味わうもよし。自由なスタイルで詩そのものを堪能できる。
※本記事は2019年1月7日時点での情報です。
- PHOTO :
- 市原慶子
- EDIT :
- 本庄真穂