ティモシー・エべレストはブリティッシュ・テーラーの中では異色の存在だろう。

サヴィル・ロウを本拠地とするテーラーが多い中、彼の本拠地は今やトレンドの発信地となったショーディッチエリア。’70年代の伝説のテーラー「トミー・ナッター」を経て、有名ブランドのクリエイティブディレクターを勤めた後、自身のブランド「ティモシー エベレスト」を創立。’90年代には新たなサヴィル・ロウの血統として「リチャード ジェームス」らと共に「ビスポーク・ムーブメントの旗手」と謳われた。2010年には英国ファッション産業に対する貢献が認められ、MBE勲章も授与している。

 今回は創業者にしてデザイナーのティモシー・エべレスト氏を迎え、「ティモシー エベレスト」が表現しているもの、その「ブリティッシュネス」とブランドの哲学について語ってもらった。

すべてはショーディッチから始まった

伊勢丹新宿店メンズ館でのオーダー会を終えて、インタビューに答えるティモシー・エべレスト氏。穏やかな語り口な印象的だった。
ブランドの象徴であるスピタルフィールズフラワーは、エべレスト氏がアトリエを構えるエリアに由来する。

 イーストロンドンにあるショーディッチエリアはクリエイターやアーティストが集まり、今ロンドンの中で最も活気のあるエリアとなっている。このショーディッチエリアにあるスピタルフィールズは、17世紀にユグノー教徒がフランスのリヨンからこの地へ移住し、彼らの主要産業であった絹織物を行った土地だ。今でも絹織物職人の住居跡を、この地に見ることができる。ロンドンの中でも、特にクラフツマンシップに繋がりの深い場所だ。

 彼のビスポーク・アトリエはここスピタルフィールズのエルダー・ストリートに位置する、1724年に建築されたジョージアン様式のタウンハウスだ。ここにアトリエとワークルームがあり、自身で改造、ペンキまで塗ったというインテリアは、彼の家に招かれたようなリラックスした雰囲気がある。

「ここはクラブがたくさんあって、若い頃よく遊びに来たエリアです。25年前はこのエリアの方が賃料が安いということもあって、自分で始めるにはいい場所だと思いました。テーラリングに対してサヴィル・ロウとは異なる視点を持つ、新しいこのエリアから始めようと思ったんです」

 エベレスト氏は英国、さらにこの地のクラフツマンシップへの敬意と愛情をこめて、彼らがデザインしたとされるマルベリーリーフの「スピタルフィールズフラワー」をブランドの織レーベルとした。「ティモシー エベレスト」のスーツについているこの「スピタルフィールズフラワー」からも、いかに彼がこの地と英国の伝統を愛しているかが、よくわかる。

アイコニックな映画との深い関わり

エヴェレスト氏は映画のコスチュームも数多く手掛けてきた。
クラシックな美しさを現代的に表現するスーツに袖を通してみたい、というファンが、今回も多数来店した。

 エベレスト氏はメンズウェアを志した若い時から、スティーブ・マックイーン主演の映画『トーマス・クラウン・アフェアー』や、マイケル・ケイン主演の『イタリアン・ジョブ』といった1960年代の映画、特に彼らが作中で着用しているスタイリッシュなスーツに魅かれていたという。

「今でこそこれらの映画はメンズウェアの世界でも有名になりましたが、私が若い頃は有名ではありませんでした。『トーマス・クラウン・アフェアー』で富豪の主人公はロールス・ロイズを運転し、バトラーがいるような生活をしているが、人生に飽きている。そこで絵画泥棒になろうと思うわけですが、良いテーラーのもとで誂えたスタイリッシュなスーツを着ている。つまり、彼は伝統の価値を理解し、それに感謝しているわけですが、それを新しい視点から捉えている。私が『ティモシー エベレスト』で行っていることも同じです」

 この言葉を裏付けるように、エべレスト氏は特にハリウッド映画の衣裳関連の仕事も多く、『ミッション:インポッシブル』や『つぐない』など多くの映画のコスチュームを手がけている。このように英国の伝統的なスーツにあるクラシックな美しさを現代的な表現で行っているのが「ティモシー エベレスト」なのだ。

メンズウェアの伝統を新しい感覚で捉える

日本の顧客の好みも熟知したエべレスト氏が、おすすめのスーツを紹介してくれた。
こちらが本文で紹介している2着。ファブリックやディテールにこだわり抜くことで、異なるテイストを表現している。

「私たちが行っているのは常に新しい方向性で伝統を見据えるということ。テーラリングの伝統を守ることも重要ですが、今のマーケットで求められているのは何か、何が起こっているのか。その時代との関連性を持つことが重要で、それが『ティモシー エベレスト』が長くお客様に愛されている理由だと思います」

 実際に、エべレスト氏は日本にも頻繁に訪れ、トランクショーなどで日本の顧客のリクエストも肌で実感している。最近は1970年代のファッションも再び注目されていることから、今季はトミー・ナッターから着想を得たスーツを紹介してくれた。

「グレンチェックのスーツは、トミー・ナッターが顧客であったザ・ビートルズのリンゴ・スターに作ったスーツを元にしたもので、彼のシグネチャーである2ボタンにシングルブレスティッド、ドラマティックな3ピース・スーツです」

 ファブリックは現代の需要に合わせて、ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(VBC)製の3シーズン着用できる、軽めのウェイトを選んでいる。

「これとは反対に、正統派の英国調のネイビースーツは重めの仕立て映えがする、ホップサック生地を使用しています。ピークドラペルの2ボタン、カッティングを際立たせたスーツで、柔らかなシェイプがあり、胸回りから肩、袖にかけてのドレープはやや強調してあります。通常と違うのは、トラウザーズがブリティッシュミリタリー仕様にしてあることで、こうしたディテールのデザインがスーツのテイストに違いを生むのです」

 伊勢丹新宿店メンズ館では「ティモシー エベレスト」が提唱する「ブリティッシュネス」の哲学を反映したスーツを幅広く展開。実際に店頭で、その哲学を体感してみてほしい。

 

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この記事の執筆者
ジャーナリスト。イギリスとイタリアを中心にヨーロッパの魅力をクラフツマンシップと文化の視点から紹介。メンズスタイルに関する記事を雑誌中心とする媒体に執筆している。著作『サヴィル・ロウ』『ビスポーク・スタイル』『チャーチル150の名言』等。
公式サイト:Gentlemen's Style