19世紀のフランスで隆盛を誇った高級トランクメーカー「モロー・パリ」。20世紀初頭には一旦活動を休止するものの、2011年に長い眠りから覚めた、由緒正しき老舗だ。創業時のトランクに使われていたアイコンをはじめ、伝統が息づくレザーコレクションは、使い込むほどに風合いを増し、持ち主の手になじんでいく。
2018年10月、グランドオープンした日本橋三越本店に、新たな「モロー・パリ」のブティックが誕生した。メンズプレシャスファッションディレクターの山下英介が足を運び、クラフツマンシップの真髄をリポートする。紳士に合うおすすめのアイテムもピックアップしたので、あわせてご覧いただきたい。
最近、モノにときめいたことがありますか? by 山下英介
どこかで見たような街並み、ショップ、そしてファッション……。グローバル化が進むこの世界において、もはや「まだ見ぬ名品」なんて存在しないと思っていた。
そこそこお洒落で使い勝手がよく、しかも手頃なプロダクトが身のまわりに溢れるのに反比例して、その国の文化そのものをまとったかのような『ニオイ』のあるモノは、刻一刻と姿を消しつつあるのだ。
そんな、文化が均質化していく時代の只中に生まれたのが、「モロー・パリ」である。いや、「よみがえった」と表現したほうがよいのかもしれない。なぜならこのブランドは、19世紀のフランスで隆盛を誇った高級トランクメーカーであり、20世紀初頭には一旦活動を休止するものの、2011年にフェドール・ジョージ・サヴチェンコ氏の手によって長い眠りから覚めた、由緒正しき老舗だからである。
約1世紀にも及ぶ休眠期間中に、現代人の移動手段やライフスタイルは大きく変貌を遂げた。もちろん、新生「モロー・パリ」のコレクションは、そんな私たちのニーズを汲んだ、モダンで洗練されたバッグばかりである。しかしその製品には、私たちが忘れかけていた「手の温もり」が、そして「フランスの文化」が確かに息づいている。
使い込むほどに風合いを増し、持ち主の手になじんでいくレザー。数枚の革を重ね、磨き込むことによって精悍な表情をまとった、美しいコバ。肉厚なレザーをひと針ひと針貫く、極太の手縫いステッチ……。
「モロー・パリ」のバッグづくりを支えるのは、フランスの職人たちが長年にわたって継承してきた、伝統の技術である。加えて創業時のトランクに使われていた「柳の細枝を編んだ格子柄」や、ロイヤルブルーのロゴマークといったアイコンもよみがえらせ、19世紀パリの美意識を現代に伝えている。
そう、「モロー・パリ」のバッグはほかのどの国でもない、フランスという国だからつくりえたプロダクトなのである。
息づくパリのクラフツマンシップ
私が初めて「モロー・パリ」と出合ったのは、2015年のこと。偶然足を踏み入れたパリのショップは、真っ青に塗られた壁や、無造作に飾られたアンティークのトランクなど、あたかも19世紀のパリを彷彿させる、濃厚で少々ミステリアスな空間だったことを覚えている。そのときに購入したバッグこそ、ブランドのアイコン的バッグである『ブレガンソン』。
以来毎日のように使い込んでいるが、タンニンなめしのベビーカーフは、えも言われぬ風合いに育ち、もはや道具を超越したかけがえのない相棒だ。
ちなみに私は日々大量の荷物をバッグに詰め込むタイプなのだが、ボディとハンドルをステッチだけで接合しているのにも関わらず、革の裂けやステッチのほつれがまったくない点にも感心させられる。しかしさすがに酷使しすぎ。そろそろハンドルのコバくらいは、ケアしたほうがよいかもしれない……。
そんなときは、日本橋三越本店にある「モロー・パリ」ショップに向かうとしよう。バッグから小物にいたるまで、パリの本店にも負けない品揃えをほこるこのニューショップでは、バッグのケアはもちろん、「パーソナリゼーション」も可能。
豊富な書体や色を駆使し、イニシャル刻印やペイントを施すこのスペシャルオーダーによって、そのバッグにはあたかも19世紀のトランクを彷彿させる個性が宿るのだ。
先日このショップで行われたイベントで、フランス人ペインターの作業風景を見学したのだが、バッグを縫うのに匹敵する手間のかけようにはおおいに驚かされた。これもまた、遺すべきパリの伝統的クラフツマンシップであろう。
「モロー・パリ」のバッグを使っていると、実感させられる。世界には、まだまだ美しいモノが、そしてそれを支えるクラフツマンシップが残っているということに。そして私は、ショップで丹念なケアが施された『ブレガンソン』を抱えて、再び旅に出るのだ。
問い合わせ先
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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