次号のメインは、編集長自らによる大物作
家のロングインタビューと決まり、新米女性
の私がそのまとめに指名された。
 ベテラン編集長はコツを言った。まず一流
ホテルの料理に招き、そこではビールくらい
にしておく。人は腹が満足すると何かしゃべ
りたくなる。ほどよいところでバーに移り、
奥のソファ席で本題に入ると。
 料理を前に私は紹介され、作家は口を開い
た。
「出版社の入社試験は倍率がすごいらしいね、
面接は何を訊かれたの?」
 質問してじっとにらんでいたのが編集長で
したと答えると、作家はからからと笑った。
「美人だったからじゃないの」
「いえそんな」とりなして、場がやわらいだ。
 バーに席をうつし、編集長はバーテンダー
に用意させた「グレンモーレンジィ 18年」を
すすめた。作家は初めてのようで、口に含ん
でじっくり味わい、グラスを置いた。
「深い森を抜けると花畑になり、蜜蜂も舞っ
ている。渡る風の香りは遠くに果樹園がある
ことを教え、その下は薬草だろう。腰を降ろ
した尻に胡桃が当たった」
 インタビューは順調にすすみ、作家は上機
嫌で帰った。
 それを文章化した原稿は編集長から三度戻
され、私は頭をかかえた。ある日編集長が来
て言った。
「初めにウイスキーを出し、感想を言わせた
だろう。あの言葉を思い出しなさい」
 ……そうか。私は入社面接でそうされた。
不意をついた質問に、その人の発想や裸の言
葉、言いまわし癖が出るのか。きっかけをつ
かんだ書き直しは、やや修正のすえ掲載され、
後日呼ばれた。
「○○先生が、また飲みたいと言ってたよ」


グレンモーレンジィが堪能できる、今宵のおすすめバー

グレンモーレンジィ 18年

 1843年、スコットランド・ハイランド地方の海岸沿いの小さな町、テインで生まれたグレンモーレンジィ シングルモルト・スコッチウイスキー。スコットランド産の大麦のみを使用。

 最高級のオーク樽で熟成、“テインの男たち”と呼ばれる熟練の職人たちの技で丁寧に仕上げられた 「完璧すぎる(Unnecessarily Well Made)」ウイスキーは、伝統と最新技術を融合させるパイオニアとして高い評価を受けている。そんなグレンモーレンジィの特徴であるフルーティーでフローラルな風味は、スコットランドで最も背の高いポットスチルで生まれている。

 今宵の一杯は、完璧なバランスでウイスキー初心者から愛好家まで多くの人に愛されているグレンモーレンジィのラインナップから、じっくりと時間をかけて熟成され、深みを増したレアモルト、18年を。

 この類い希なるウイスキーは、パパイヤなどのエキゾティックな果実や花の香りに加えて、丸みのあるバニラ香、濃厚な味わいが特徴だ。

 また、味わいを封じ込めた美しいボトルを眺めるのも楽しい。

 今回紹介する名店「バー ハイランダー」には、かのジョン・レノン氏が来日時に好んで座ったコーナーが、往時のまま残されている。スコットランドの進軍太鼓を流用したテーブルは、グレンモーレンジィの生まれたウイスキーの聖地・ハイランド地方をほうふつとさせる意匠だ。グレンモーレンジィ 18年は、その名もジョン・レノンシートと呼ばれるこの一角に、誠にふさわしい風格を備えている。

 多くの賓客をもてなしてきた、日本を代表するグランドホテル、ホテルオークラ東京。費やされた時間のみが醸し出す佇まいこそ、グレンモーレンジィ 18年に相応しい。1973年の別館開業以来、オープン当時と変わらぬしつらえで迎えてくれる、スコティッシュバー「バー ハイランダー」では、200種類を越えるスコッチウイスキーの銘柄から、このグレンモーレンジィ 18年を指名する紳士も多く、芳醇な香りと濃厚な味わいを、ゆるりと楽しんでいくという。

 飲み方は、やはりストレートが良い。ノーズを包み込むような大ぶりの開口部を持つウイスキーグラスで供されるストレートは、「バー ハイランダー」の、グレンモーレンジィ 18年への深いリスペクトが感じられる。深い森から花畑へと渡る薫風の如くに、グラスの中で展開するドラマチックな変化を、寿(ことほ)いでいただきたい。

バー ハイランダー

45年前から変わらぬ、ランプのシャンデリアや赤と緑のタータンチェックの絨毯など、本場そのままのデザインを担当したのは、英国有数のデザイナー、ケニルワース男爵。店名は、イギリス・グレートブリテン島北部、スコットランドのハイランド地方を元に名付けられた。

 そこは、グレンモーレンジィの生まれた地、そのものである。東京にいながらにして、英国の雰囲気を濃厚に感じることの出来る、希有な場所だろう。カウンターでひとり食後酒を楽しむのもよし、これも開業以来使い続けている、ジェントルメンズクラブの如き椅子に身を預け、親しき友と語らいの時間を持つのも良し。紳士の社交場として、今も変わらぬ燻し銀のような存在感を放っている。

~ tonight’s bar ~

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この記事の執筆者
1946年生まれ。グラフィックデザイナー/作家。著書『日本のバーをゆく』『銀座の酒場を歩く』『みんな酒場で大きくなった』『居酒屋百名山』など多数。最新刊『酒と人生の一人作法』(亜紀書房)
PHOTO :
西山輝彦