「私、オレンジハイボール」
 そのバーに遅れてやってきた彼女は、カウ
ンターに座るなり言った。バーテンダーは、
にっこりうなずいてバックバーからウイスキ
ー、グレンモーレンジィ オリジナルを置き、
これでしたねと送る視線に、かるく微笑んで
応える。
 やるなあ。
 つきあい始めて一年。「バーってわからな
いの」と言っていた彼女にあれこれ教えるの
は楽しい自己満足にもなった。俺いわく「バ
ーでは二杯飲む。最初はスタンダードのロン
グドリンク、次は自分の好きなショートをじ
っくりと」云々。
 それが今や。いつか「進境いちじるしいね」
に「へへへ」と笑う顔がよかった。
 バーテンダーが仕上げのオレンジ皮をピー
ルすると、彼女は「この時が好きなの」とつ
ぶやいてグラスを少し上げ、乾杯のポーズを
とった。「バーで乾杯してもいいが、決して
グラスを当ててはいけない」も教えてある。
「…………おいしい」
 ほんとにおいしそうだ、進歩したなあ。ち
ょっとテストしてみるか。
「どこが気に入った?」
「ハイボールって単純なだけに男っぽいで
しょ。それをぐんぐん飲む女もちょっと、と
思っていたときこれが出て、女性も頼みやす
いの」。なるほど。「味は?」「エレガント
で爽快」。おお、その通りだ。
 俺の言った「一杯めは早めに飲み終える」
を守ってか、次を注文するようだ。何だろう。
「グレンモーレンジィのストレート」
 バーテンダーが目を見張った。
「ハイボールで味を憶えたので、ストレー
トも知りたくて。飲み方はおまかせします」
 同じく目を見張る俺に、やや顔の赤くなっ
た彼女は小声でささやいた。
「私をバー好きにしたのは貴方よ」
 言わない後半は「責任とって……」という
目だった。


グレンモーレンジィが堪能できる、今宵のおすすめバー

グレンモーレンジィ オリジナル

1843年、スコットランドのハイランド地方の海岸沿いの小さな町、テインで生まれたグレンモーレンジィ シングルモルト・スコッチウイスキー。スコットランド産の大麦のみを使用。最高級のオーク樽で熟成、“テインの男たち”と呼ばれる熟練の職人たちの技で丁寧に仕上げられた 「完璧すぎる(Unnecessarily Well Made)」ウイスキーは、伝統と最新技術を融合させるパイオニアとして高い評価を受けている。そんなグレンモーレンジィの特徴であるフルーティーでフローラルな風味は、スコットランドで最も背の高いポットスチルで生まれている。

 さて、今宵の一杯は、完璧なバランスでウイスキー初心者から愛好家まで多くの人に愛されているグレンモーレンジィ オリジナルをオレンジハイボールで。

名バーテンダーと呼ばれる銀座のバーの主人が出してくれたオレンジハイボールは、一般的なハイボールのレシピよりやや強め。聞けば、グレンモーレンジィ オリジナルがもつ柑橘系のアロマを際立たせるため、敢えてオレンジピールも添えないシンプルなスタイルで供される。まさに、このウイスキーならではのそのかぐわしき匂香を、最初に口にしたときから飲み干す際の余韻に至るまで楽しめるように。九州訛りが残る彼のゆったりとした口調に、いつも気持ちが解きほぐされる。

MORI Bar

日本を代表する名バーテンダーが営むMORI Bar。この9月にオープン22年目を迎えた、正真正銘の銀座の名店だ。カウンターの深みのある色艶は、積み重ねた歳月によって磨き込まれたもの。目の前に本が並んだ、少し奥の席にひとり座る常連客が多いという。

~ tonight’s bar ~

  • MORI Bar TEL:03-3573-0610
  • 東京都中央区銀座6-5-12 新堀ギタービル銀座10F

問い合わせ先

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この記事の執筆者
1946年生まれ。グラフィックデザイナー/作家。著書『日本のバーをゆく』『銀座の酒場を歩く』『みんな酒場で大きくなった』『居酒屋百名山』など多数。最新刊『酒と人生の一人作法』(亜紀書房)
PHOTO :
西山輝彦