日本酒好きならば訪れたい、銘酒を味わえる酒蔵「農口尚彦研究所」

いまでは和食の世界に留まらず、あらゆる飲食店で提供され、海外での需要も伸びている日本酒。しかし、過去には安価な酒類や洋酒の普及で戦後何度も危機的な状況を迎えたことも。

その荒波のなか、いまでは当たり前に飲まれている「吟醸酒」を世に広め、吟醸酒ブームの火付け役に。また、戦後失われつつあった「山廃仕込み」の技術を復活させ、山廃仕込み復権の立役者ともなった「酒造りの神様」という異名をもつ人物の存在なくしては、現在の日本酒の広まりはなかった言っても過言ではありません。

その人が、農口尚彦さん、御年86歳。2度の引退を経て、最後の仕事として若者にその技術を伝承すべく、2017年に酒造りの現場に復帰しました。

農口尚彦さん
農口尚彦さん

全国の酒蔵で杜氏として働いてきた農口さん。農口尚彦研究所という自らの名を冠した酒蔵の建設場所に選んだのは、石川県下の小松市。市内から車で約30分の山中にある酒蔵に併設された宿舎に住み、若い蔵人たちと寝食を共にしながら酒造りに取り組んでいます。

バス停から少し坂を上った先に、蔵が見えてきます。バスの本数は1日数本程度なので、アクセスには車が必須です。
バス停から少し坂を上った先に、蔵が見えてきます。バスの本数は1日数本程度なので、アクセスには車が必須です。
農口尚彦研究所は周囲を山に囲まれた、美しい水をたたえる地に建てられています。
農口尚彦研究所は周囲を山に囲まれた、美しい水をたたえる地に建てられています。
12月から2月は美しい雪景色も楽しめます。
12月から2月は美しい雪景色も楽しめます。

こちらでは2階の見学コースからガラス越しで酒造りの様子を見ることができます。時期によっては酒をつくる蔵人や農口さんの姿を見るチャンスも大いにあり。その年齢を感じさせない農口さんの姿を見てから飲むお酒は、また格別のものとなるでしょう。

農口さんが目指すのは、「米の旨味を感じ、美しい余韻とともに消えていく、キレの良い日本酒」。ANAの国際線ファーストクラスおよび欧米路線ビジネスクラスでも、農口尚彦研究所のお酒が提供されています。

2階のギャラリーでは、農口さんの歴史を振り返る展示も。
2階のギャラリーでは、農口さんの歴史を振り返る展示も。

また、創業初年度に醸した2017ヴィンテージのなかで最高のロットを農口氏自ら厳選。約1年間に渡って徹底的に熟成管理を行った限定シリーズの第1弾「LIMITED EDITION NOGUCHI NAOHIKO 01 VINTAGE 2017」が発売中です。こだわりのオリジナルボトルは、石川県を代表する美術家である大樋年雄さんがデザインしています。

LIMITED EDITION NOGUCHI NAOHIKO 01 VINTAGE 2017 ¥35,000(税別)
LIMITED EDITION NOGUCHI NAOHIKO 01 VINTAGE 2017 ¥35,000(税別)

まるで一幅の絵画のようなテイスティングルーム「杜庵(とうあん)」

農口尚彦研究所にはテイスティングルーム「杜庵(とうあん)」を併設。テイスティングと酒蔵の見学スペースの観覧がセットになった完全予約制の日本酒体験プラン「酒事(しゅじ)」は、日本酒の魅力を五味五感で提供しています。

こちらの空間をディレクションしたのは、九谷焼人間国宝 𠮷田美統さんとデザイナーの大樋年雄さん。酒蔵がある石川県小松市が茶道の裏千家ゆかりの地であることに敬意を表し、茶室をイメージしてデザインされています。西面の大きな窓外には四季折々の田園風景が。今回私が訪れた際には、日本画の大家・東山魁夷のやわらかな筆致を思い起こさせる雪景色が広がっていました。

こちらでは、季節に合わせた地元の酒肴や和菓子とのペアリング、酒器の形状・素材、温度による味わいの変化を体験できます。見学や試飲体験ができる酒蔵は増えていますが、ここまでのこだわりを持ってコースを組まれているところはまだまだ少ないです。アクセスは少し大変ですが、このためにもう1泊旅程を延ばす価値はありですよ。

テイスティングルーム「杜庵(とうあん)」での日本酒体験プラン「酒事」は、事前予約コース制。予約は無料会員ホームページの「酒事」のページから。料金は¥5,000(税別)
テイスティングルーム「杜庵(とうあん)」での日本酒体験プラン「酒事」は、事前予約コース制。予約は無料会員ホームページの「酒事」のページから。料金は¥5,000(税別)
仕込み水の源流の地での飲み比べをここまでのおもてなしで体験できるのは稀。
仕込み水の源流の地での飲み比べをここまでのおもてなしで体験できるのは稀。
美しい九谷焼の盃とともに和菓子でテイスティング。
美しい九谷焼の盃とともに和菓子でテイスティング。
夕刻になり、陽が落ちるとまた違った光景に。
夕刻になり、陽が落ちるとまた違った光景に。

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この記事の執筆者
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WRITING :
北本祐子
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