フィレンツェで年に2回行われる、メンズファッションの展示会「ピッティ・イマージネ・ウォモ」を支えているのは、イタリア全土に散る、大小さまざまなファッション企業だ。また、目立った重工業を持たない南部4州(カンパーニア、カラブリア、プーリア、シチリア)のファッション産業は、農業や観光産業と並び、地域経済への貢献度も高い。

カンパーニア州都とナポリ県都を兼ねるイタリア第3の都市・ナポリは、南部4州の中心でもある。遠景に、美しきヴェスヴィオ山を望む。
カンパーニア州都とナポリ県都を兼ねるイタリア第3の都市・ナポリは、南部4州の中心でもある。遠景に、美しきヴェスヴィオ山を望む。

「ナポリ・ミーツ・ザ・ワールド」とは、南部4州の経済振興を狙い、ファッション産業を紹介する商談会であり、世界的な成功を得ている〝キートン〞や、〝マリネッラ〞などの次を狙うブランドの横顔はさまざまだ。

創立10年未満のブランドや、OEM製造からの脱却組もいるが、20世紀初頭の創業以来、愚直にものづくりを続けてきた老舗も多い。

いずれもナポリブランドが成功する鍵は手仕事にあることを熟知しており、事業規模に応じてコストのかかる手仕事の比率を柔軟に変えている。

それを支える職人層の厚さも、ナポリブランドの多様性を支えているようだ。 国際的に成功したブランドは成長のため、トータルアイテムをそろえ始めるのが常道だが、出展各ブランドからは徒に規模を追わず品質とセンスで勝負したいという自負が覗く。

わずか12名の小さな工房がつくる高品質なナポリシャツ

アヴィーノ・ラボラトリオ・ナポレターノ

オーナーのフランチェスコ・アヴィーノ氏自ら、カッティングにいそしむ。シャツ専業メーカーとしてのこだわりでもある。
オーナーのフランチェスコ・アヴィーノ氏自ら、カッティングにいそしむ。シャツ専業メーカーとしてのこだわりでもある。
  • 定番の大きく羽根の開いたワイドカラーのシャツ。ボタンホールのかがりから、生地の縫い合わせまで一切の協がない。
  • 高品質なストックから選び出された生地を丁寧にアイロンがけするところから、製作プロセスが始まる。
  • 古くなり使われなくなったアイロンの基部は、生地の裁断時に有用な重しとなる。

フランチェスコ・アヴィーノ氏が率いるナポリシャツブランド、アヴィーノ・ラボラトリオ・ナポレターノは'05年にシャツ専業メーカーとなった。ここのシャツは、アームホールと前後の身頃との精緻な面合わせや、柔らかくカーブする襟羽根など、手仕事の見せ場を豊富に持つ。従業員わずか12名の家族企業だが、各国の目利きバイヤーの細かい注文にも柔軟に対応してファンを増やした。創業時はスーツもつくったが、あえてシャツ専業を選択し、ブランド価値を高めた戦略が奏功した例だ。

「ナポリ・ミーツ・ザ・ワールド」で発見したナポリブランド

  • 【マッシモ ラ ポルタ】創業40年以上の歴史を持つシャツメーカー。12か所もの手縫い箇所を持つ、手仕事が生みだすシャツが白眉だ。
  • 【カラブレーゼ ダル 1924】ブランドの歴史は1920年代に遡り、ネクタイやチーフなどを中心に展開している。
  • 【マルズッロ】創業者のマルズッロは「スーツは絵画のようなもので、ネクタイは、その最終的なブラシストロークである」と言い、その哲学は今に引き継がれる。
  • 【ジャンジ】 2016年にリブランド、イタリア語ではダンディの意味を持つ。バルバと似た、ミドルプライスのブランドだ。
  • 【ジェルマーノ】1952年創業のパンツ専業ブランド。ジャケットやカジュアルと使い回しに優れたデザインが持ち味。
  • 【フランネルベイ】総合ファクトリーブランドとして、ジャケット・スーツを手がけ始めた。

シャツ、パンツ、タイ、チーフなどの小物が多く、どれもナポリスタイルを感じさせる。ブランドを超えてコーディネートしても違和感がないのは、ナポリブランドという名の下に、一定の協業が生まれているとみることもできる。各国のバイヤーもその点に注目していた。

現代のクラシックな紳士服は、イタリアを中心に発信されている。南部4州の生みだすアイテムは、手仕事による品質の精度を維持することで、更に広い商圏で受け入れられるだろう。地元のプライドが世界的な価値を生む。

目利きの服好きたるわれわれも、プライドを持ってナポリブランドを選ぶことになるはずだ。

※2017年春号取材時の情報です。

この記事の執筆者
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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2017年春号手仕事が生みだすナポリブランドのプライド!より
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