4月公開の「大人の女性が観るべき映画」4選

映画ライター・坂口さゆりさんが厳選した、「大人の女性が観るべき」映画作品を毎月お届けする本シリーズ。今回は、2019年4月公開の映画、『マックイーン:モードの反逆児』、『バイス』、『芳華-Youth-』、『パパは奮闘中!』の4作品をご紹介します。

■1:『マックイーン:モードの反逆児』|ドキュメンタリー

© 2018 A SALON GALAHAD PRODUCTION. ALL RIGHTS RESERVED.
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こんなに美しくて哀しいドキュメンタリー映画を観たことがないーー。観終えたとたん、しばらく呆然としてしまった映画『マックイーン:モードの反逆児』。告白しますが、人物ドキュメンタリーを観て涙したのは初めてです。すでに4月2日に編集部から本作の記事が配信されていたにもかかわらず、「今月のオススメ映画から外すことはできない!」と、あえてこちらでも紹介させていただきました!

アレキサンダー・マックイーンについて詳しくはなかった私は、まず、彼の出自から一流デザイナーになるまでの道のりに圧倒されました。英国の労働者階級に生まれた人間が一角の人物になるにはどれほど大変かという話を聞いたことがあるからです。サッチャー元首相がそのわかりやすい例。故・アンソニー・ミンゲラ監督も訛りで出自がわかってしまうのが英国だと語っていましたし、紅茶の入れ方でも出身階級がわかってしまうためミルクを入れるタイミングを注意されたという友人もいました。普通に考えたら労働者階級の、何もしていない16歳の少年が超一流デザイナーになるということはまずありえないことなのではないかと思います。

© 2018 A SALON GALAHAD PRODUCTION. ALL RIGHTS RESERVED.
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では、なぜそれが可能になったのか。それは本名リー・アレキサンダー・マックイーンの貪欲なまでの服づくりに対する情熱でした。彼は心底服づくりが好きで、自分の思いを表現できる場をファッションに見出したのです。

休職中だった彼は仕立て職人が人手不足だと聞いて、16歳で母に背中を押されて老舗テーラーに飛び込みます。そこで服づくりの基礎を1から学び技術をマスターしては次のテーラーやアトリエへ貪欲にステップアップ。生地の構造と立体を学んだり、服づくりが技術でないことだけを学んだり。カネもコネも何もないのに単身イタリアへ渡って、その卓越した技術ですぐにロメオ・ジリの助手になってしまいます。

職人は技術を目で盗むと言いますが、まさに彼は「一生懸命注意深く見て」学んだ職人です。帰国後はファッションの名門セントラル・セントマーチンズ大学へ入学し、卒業コレクションで運命が変わります。『ヴォーグ』の編集者で彼の支援者であり友人でもあったイザベラ・ブロウと出会うのでした。

© 2018 A SALON GALAHAD PRODUCTION. ALL RIGHTS RESERVED.
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一見、どんなに突飛で斬新なファッションも、しっかりとした基礎がなければ生まれない。それはどんな仕事にでも通じることだと、改めてマックイーンに教えられました。普通を好まず、「最悪の気分か浮かれた気分でショーから帰ってほしい」というマックイーンの言葉には、自分のもてるすべてを投影させてつくり上げるファッションショーへの矜持が覗きます。

映画は彼の華やかなデザイナーとしての歩みを映し出すと同時に、ジバンシィのディレクターとして、また、マックイーンのデザイナーとして年に15回もショーを行うような激務に追われ病んでいく姿も映し出していきます。ショーを基軸に構成されたドキュメンタリーだけに、時間を追うごとに変化していった彼の体型や顔色も一目瞭然。最愛の支援者イザベラを亡くしたときの悲しみに満ちた顔はいつまでも頭を離れず、悲しみのなかでつくり上げたコレクションの美しさも脳裏に焼き付いています。

マックイーンがマックイーンであるために、命を削りすべてを尽くし続けたショーの数々。今も色褪せるどころか観る者の心を引っ掻き続けます。

天才デザイナーの壮絶な人生を描き切った!映画「マックイーン:モードの反逆児」が今週公開

作品詳細

  • 『マックイーン:モードの反逆児』 
  • 監督・脚本:ピーター・エテッドギー 監督・製作:イアン・ボノート 音楽:マイケル・ナイマン 出演:リー・アレキサンダー・マックイーン、イザベラ・ブロウ、トム・フォードほか。
  • TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中。

■2:『バイス』|社会派エンターテイメント

© 2019 ANNAPURUNA PICTURES,LLC. All rihgts reserved.
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今年のアカデミー賞作品賞ほか8部門にノミネートされた映画「バイス」は、息子ブッシュ大統領時代の米国で副大統領を務めたディック・チェイニーを描いた社会派エンターテインメントです。「閑職」と言われる副大統領の地位を逆手に取り、大統領を操って強大な権力をふるった彼の半生を描いているのですが、先月紹介した「ビリーブ 永遠への大逆転」とは逆パターンで、妻の“内助の功”がこれまたすごかった!

イェール大学を中退し、ワイオミング州で電気工となったチェイニー(クリスチャン・ベール)は酒癖の悪いダメ男。そんな彼が“世界最高の権力”を手に入れたのは、ろくでなし夫の尻を猛烈に叩いた妻リン(エイミー・アダムス)のお陰と言っても過言ではありません。

© 2019 ANNAPURUNA PICTURES,LLC. All rihgts reserved.
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警察に2度も厄介になった彼に、当時恋人だったリンが激昂し、「今度こそあなたが態度を改め気を引き締めて世に出るよう奮起しなきゃ別れるわ。…変われる? それとも期待するだけ時間の無駄?」と強烈な檄を飛ばします。愛する人にここまで言われたら、それはもう期待に応えるしかないでしょう。チェイニーは「2度と君を失望させないよ」の言葉どおり、紆余曲折しながら弁の立つリンと共に権力の中枢へと上っていくのです。

しかし、この映画を観て改めて気づくのは、権力に取り憑かれた“悪魔”を生み出すのは国民一人ひとりという事実。イラン戦争に加担した日本人にとっても耳が痛い話でもあります。

作品詳細

  • 『バイス』
  • 監督・脚本:アダム・マッケイ 出演:クリスチャ・ベール、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェルほか 配給:ロングライド
  • TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中。

■3:『芳華-Youth-』|青春ラブストーリー

© 2017 Zhejiang Dongyang Mayla Media Co., Ltd  Huayi Brothers Pictures Limited  IQiyi Motion Pictures(Beijing)Co., Ltd  Beijing Sparkle Roll Media Corporation  Beijing Jingxi Culture&Tourism Co., Ltd  All rights reserved
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映画『芳華-Youth-』は、中国の文化大革命から中越戦争を背景に、軍で歌や踊りを披露し兵士たちを慰問する役割を担う歌劇団(=文工団)に所属する若者たちを描いた青春ラブストーリー。すっかり忘れていた過去への甘酸っぱい思いが湧いてくるような映画です。

中国の文化大革命をテーマにした映画と聞くと、「悲惨な話なの?」と眉をひそめる人もいるかもしれません。でも、例えば「太陽の少年」(1994年)など、文革を背景にした青春映画はこれまでも少なくありませんでした。本作を監督したフォン・シャオガン監督自身、軍の歌劇団(=文工団)に所属した経験があり、当時を「素晴らしかった」と振り返っています。そんな若き日の好ましい記憶を、同じように文工団に所属していた原作者ゲリン・ヤンとともに蘇らせました。

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物語の始まりは、文化大革命真っ只中の中国。ある日、軍で歌や踊りを披露し兵士たちを慰問する文工団に、ダンスの才能を認められた17歳のホー・シャオピン(ミャオ・ミャオ)が、模範兵のリウ・フォン(ホアン・シュエン)に連れられ、入団してきます。実父が労働改造所に送られ、新しい家族にいじめられていた彼女にとって、そこは新しい人生の旅立ちの場。シャオピンは早速、父に制服姿を見せたくて撮影をして送ろうとするのですが、軍服がすぐに支給されなかったため手元になし。そこで彼女は同室となった学友ディンディン(ヤン・ツァイユー)の制服を持ち出してしまい……。

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シャオピンと、彼女が密かに憧れるフォンのふたりを軸に、共に文工団で過ごす団員たちの日々が綴られていきます。兵士として真剣に踊り、演奏する若者たち。仲間たちと笑い合い、恋心を抱いたり、玉砕したり。時代に翻弄され、文工団が解散し、大人になった彼らの胸を去来するものは何なのか。どんな国であっても、どんな激動な時代にあっても、若者たちの心は変わらないものだと気づかせてくれます。

作品詳細

  • 『芳華-Youth-』
  • 監督:フォン・シャオ・ガン 出演:ホアン・シュエン、ミャオ・ミャオ、チョン・チューシー、ヤン・ツァイユー、リー・シャオファン、ワン・ティエンチェン、ヤン・スー、チャオ・リーシンほか。
  • 4月12日(金)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

■4:『パパは奮闘中!』|ヒューマンドラマ

© 2018 Iota Production/LFP – Les Films Pelléas/RTBF/Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma
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ある日突然妻が幼い子どもたちふたりを置いて失踪してしまうーー。映画「パパは奮闘中!」は、家を出ていった妻の代わりに、父親が仕事と子育てを必死に頑張るヒューマンドラマです。

オンライン販売の倉庫で働くオリヴィエ(ロマン・デュリス)は残業続きで、ろくに妻のローラ(ルーシー・ドゥベイ)と話す時間もなくすべての家事は妻任せ。とはいえ、その日早出のオリヴィエは妻にコーヒーを入れてもらってキスを交わして出勤。まさか子どもたちの通う学校から「迎えがこない」と呼び出されることになろうとは思ってもいませんでした。家に帰ると、ローラの衣服や身の回りの品はすべて空っぽ。喧嘩もしていないし心当たりもないオリヴィエは途方に暮れることに……。

© 2018 Iota Production/LFP – Les Films Pelléas/RTBF/Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma
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妻が出ていった原因は一切語られず、父親がどのように仕事と育児を両立していくかが見どころです。妻の視線で見れば「わかるわかる」と思う女性は少なくなさそう。ふたりの子どもたち(カワイイ!)と格闘していきながら、パパがパパになっていく姿を、今やフランス映画界で欠かせない俳優として人気のデュリスが演じています。父親の一大成長記。できればパートナーとそろって観たい映画です。

© 2018 Iota Production/LFP – Les Films Pelléas/RTBF/Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma
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今回、ロマン・デュリスにインタビューしました。後日掲載しますので楽しみにしてください!

作品詳細

  • 『パパは奮闘中!』
  • 監督・脚本:ギヨーム・セネズ 共同脚本:ラファエル・デプレシャン 出演:ロマン・デュリス、レティシア・ドッシュ、ロール・カラミー、バジル・グランベルガー、レナ・ジラード・ヴォス、ルーシー・ドゥベイほか。
  • 4月27日(土)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
この記事の執筆者
生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画をはじめ、芸能記事や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。最近いちばんの興味は健康&美容。自身を実験台に体にイイコト試験中。主な媒体に『AERA』『週刊朝日』『朝日新聞』など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』ほか。 好きなもの:温泉、銭湯、ルッコラ、トマト、イチゴ、桃、シャンパン、日本酒、豆腐、京都、聖書、アロマオイル、マッサージ、睡眠、クラシックバレエ、夏目漱石『門』、花見、チーズケーキ、『ゴッドファーザー』、『ギルバート・グレイプ』、海、田園風景、手紙、万年筆、カード、ぽち袋、鍛えられた筋肉
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