代々木上原の予約制レストラン「HITOTEMA」。美食家たちが足繁く通うその理由は、主宰する谷尻直子さんが作る“現代版おふくろの味”。れんこんの肉詰めや麻婆豆腐など、奇をてらわないメニューながらも、その味はどことも似て非なる忘れられない一品ばかり。今春、発売された待望のレシピ本も、「今まで見たことがない!」とその美しさが話題です。

名著、ベストセラーと呼ばれるレシピ本は数あれど、「誰かに贈りたくなるレシピ本」というのは、そう多くないですよね。きっとそれは、本の装丁、写真のクオリティ、そして値段。このいずれかが、“贈り物にはちょっと…”と躊躇させるからだと思います。でも、料理家・谷尻直子さんのレシピ本は、そのいずれもクリアした、まさに大人の女性のギフトにふさわしいレシピ本なんです。
週に1回、12席限定で開く予約制レストラン「HITOTEMA」の誕生秘話

2015年4月。渋谷区富ヶ谷にひっそりとオープンした予約制レストラン「HITOTEMA」。その誕生のきっかけは、谷尻直子さんが自宅でもてなす手料理に感動する人たちの多さに、ご主人(建築家の谷尻誠さん)が気づいたこと。
「元々、料理が好きでホームパーティを開く機会は多かったんです。それが妊娠を機に、赤ちゃんのためにも外食より自炊のほうがと、ますますその機会が増えて。主人が仕事から戻ると、毎週のように友人がダイニングテーブルを囲んでいましたね(笑)」
テーブルを囲むみんながとても楽しそうだったこと。加えて直子さんが「いつかご飯屋さんをやりたいな」というつぶやきに即座に反応したご主人。なんと、元ラーメン屋だという物件をあっという間に見つけてきて、彼女の背中を後押ししてくれたそう。
当時、第一子を妊娠中(!)だった直子さん。
「初めての子育てに家庭のこと、全部両立できるのかと、当時は不安だらけでした。だから何度も何度も考えた末に、週に1回だけオープンすること。予約は顔の見えるFacebookのみで受けるスタイルにたどり着きました」
料理家・谷尻直子さんのレシピを惜しみなく公開した『HITOTEMAのひとてま』

オープン後は、評判が評判を呼び、クチコミでその名が知られるように。訪れるゲストの顔ぶれには、“美食家”と呼ばれる面々をはじめ、舌の肥えた大人のゲストが多いのも、「HITOTEMA」の特徴。
「HITOTEMAの料理は、豪華なごちそうはありません。普通に手に入る材料で、シンプルに作る、ささやかな家庭料理です。わざわざ外食に“家庭料理”を選んでくださるのですから、日常を日常以上にしたいという想いは大きいです」
本の表紙にもなった「HITOTEMA麻婆豆腐」は、彼女が1年中誰かのために作っている得意料理。

レシピを見て驚くのは、本当に何も特別な調味料を使っていないという点。
「ポイントはたれの配合と異なる食感を引き出す鶏肉の切り方でしょうか。主人が大切な方をお店に連れてくるときは、必ずこれをリクエストされます。誰にでもこれを食べさせたいみたい(笑)」
実際にライターも作ってみたが、家族から大好評。「毎週食べたい」と初めて言われる料理に。
また、元々スタイリストとしてファッション業界で活躍していた直子さんだけに、シンプルな料理を引き立てる美しい食器類、盛り付けなどもセンス抜群。女性ゲストから「それ、どこで買えますか?」と聞かれることも多いそう。『HITOTEMAのひとてま』は、テーブルコーディネートの参考書としての嬉しい面もあるんです。
また、すべての料理に英語表記があり、海外の友人に贈っても喜ばれること必至。写真集のような装丁で、リビングやダイニングに置かれていても、さりげなく絵になります。
メニュー監修など、今後の活動にも注目

お店がオープンして4年経ち、少しずつ発酵するように店が育っている実感があるという谷尻直子さん。
「今後は次の世代に家庭料理というバトンを渡すためにも、料理教室も増やしたいし、漆や金継ぎなど日本の器の文化も広めたいし、コーディネートの提案もしていきたいです。他のレストランさんや飲食ブランドさんのメニュー開発や監修などもどんどん実行したいです」
小さなキッチンから、夢は大きくふくらんでいます。

- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- Kazuhiro Fukumoto(MAETTICO)
- WRITING :
- Yoshie Chokki
- Styling :
- Yukiko Sugano(TABLE MAINIA)