日本で生活している限り、常について回るのが印鑑(印章)。実印は良いものを持っていても、日常的な認め印や、ビジネスシーンで使う印鑑などはどうだろう、三文判で済ませている男も多いのではないだろうか。地位ある男であればなおさら、筆記具と同様に、印鑑は良いものを使わねばならない。対をなす朱肉入れもまた然り、なのである。

そこでおすすめしたいのが、日本伝統の鋳鉄技法で、仕上げに渋を焼き付けた丁寧なつくりが特徴の「ババグーリ」の南部鉄器の朱肉入れ。使うほどに鉄肌の落ち着いた味わいや光沢が増し、愛着が深まっていく。ここでは日本古来の伝統で作られた南部鉄器の朱肉入れの魅力を紹介する。

鉄の重さが愛着につながる日本伝統素材の文房具

「ババグーリ」とはインドのグジャラート地方で採れる瑪瑙(めのう)のことだ。デザイナーのヨーガン・レールは「自然がこのような美しいものを用意しているのだから、飾りもののような不要なものはつくりたくない」と著書で語る。自分の店で使う備品も、市販には彼の美意識に適うものがなく、「プラスチックの朱肉入れは使いたくない」とデザインしたのが、鉄の鋳物を素材とした朱肉入れだ。

「ババグーリ」の南部鉄器の朱肉入れ 

●『南部鉄器 朱肉入れ』¥13,000 [直径6.2 ×高さ2㎝](ババグーリ/ヨーガンレール) その他/私物
●『南部鉄器 朱肉入れ』¥13,000 [直径6.2 ×高さ2㎝](ババグーリ/ヨーガンレール) その他/私物

 製作を担当したのは、東北・盛岡にある南部鉄器工房「釜定」の宮伸穂氏。祖父の代に建てた築100年を超える土間で、手作業でつくられる。何度か試作を重ね、表情が欲しいと、蓋の表面をわざと荒々しく仕上げて完成したと聞いた。鉄の重さが安定感をもたらし、使うほどに鉄に色ツヤが増していく。デスクの上では風格さえ醸し出す。引くべきところも、足すべきところもない。機能と美しさがせめぎ合いながらデザインが成立しているからだ。

日本古来の伝統で作られた南部鉄器の朱肉入れは、「用の美」を体現した日常品の傑作だ。是非とも手に入れていただきたい。

※価格はすべて税抜です。※価格は2016年春号掲載時の情報です。

この記事の執筆者
TEXT :
小暮昌弘 エディター
BY :
MEN'S Precious2016年春号「書斎の名品 」より
メンズクラブ編集長を務めた経歴をもつベテラン編集者。ファッション以外にも、モノや歴史、文学など幅広い知識を持つ。その経験豊富な知識を生かし多彩なジャンルで執筆する経験豊かな編集者。
クレジット :
撮影/戸田嘉昭、唐澤光也(パイルドライバー)スタイリスト/石川英治(tablerockstudio)文/小暮昌弘