ドイツの文具メーカーの製品には、思わず惹きつけられてしまう魅力がある。ファーバーカステル、モンブラン、ペリカンなど、さまざまな名品を送り出してきた歴史的ブランドが、多くのジェントルマンの心を射止めてきた。そんな中、日本の老舗刃物店「木屋」がドイツの刃物メーカー、アドラーに特注したハサミをご存じだろうか。
子供の頃、毎朝父親が丹念に髭を剃っていたナイフが、ドイツ西部に位置する刃物で有名な町・ゾーリンゲンを知った初めかもしれない。
学生のとき、日本橋木屋のウインドー越しに包丁や鋏の形状が面白く、様々な刃物に見入っていた中に、そのゾーリンゲンに本社を置くアドラーの鋏もあった。
仕事柄「鋏」とは切っても切ることのできない間柄だが、「バカとハサミは使いよう」と言うように、2枚の刃を指で挟んで上手く切るには、指と鋏の最先端が一体化していなければならない。
毎晩帰宅すると鋏を片手に新聞を読む習慣だが、紙を切る「サクサク」とした耳に心地よい音なくして、一日の終わりは来ない。
アドラーの昔ながらのベルト式鍛造ハンマーもいまだ現役と聞いて納得。服づくりもまた手間とひまをかけて丁寧につくり込んだ物は、使い手に心が伝わるもの。
それにしても昨今の新聞や雑誌には、切り抜きたくなる記事が少ないのは淋しい限り。アドラーの鋏がいつでも仕事を待っているというのに。
美しい見た目、見事な切れ味、全身鋳造。どれをとっても完璧な作りである、アドラーのステンレスハサミ。今となってはお目にかかることも難しい全身鋳造だ。この歴史を感じさせる芸術品を是非とも手にしていただきたい。
※価格はすべて税抜です。※価格は2016年春号掲載時の情報です。
- TEXT :
- 赤峰幸生 インコントロ代表
- BY :
- MEN'S Precious 2016年春号 静謐なる「書斎の名品」より
- クレジット :
- 撮影/戸田嘉昭、唐澤光也(パイルドライバー)スタイリスト/石川英治(tablerockstudio)構成/堀 けいこ 文/赤峰幸生