同じメディアの人間でも取り扱うジャンルによって見た目はズイブン違う。ファッション雑誌やウエブのひとは、やっぱり「圧倒的に」お洒落です。男も女も編集者もライターも、一目で「ああこのひとは業界」という空気をまとっている。特に雑誌の巻頭のファッションページを担当するようなエディターは、「勝負!」というかんじで、目を見張るようなコーディネイトをしているから、すぐにわかる。だからこういうひとたちと一緒に普通の居酒屋なんかにいくと、店のなかに〈ややや〉という声なき声が充満するのである。
9割が女性という美容メディアのひとは、肌や髪、爪が、それはきれい。やっぱりビューティという看板を背負ってるんだな。毎日のように新製品を試しているわけだしね。新製品発表会などで同席するとフワ~っとした気分になってこれはこれで悪くない。
まったく普通のひとと変わらないメディア人もいる。たとえば自動車雑誌の編集や記者の方。彼らの関心は一にも二にもクルマなんであって、自分の見た目は、さほど関心がないのだろうね。非常にマジメです。おたくっぽいひとも少なくない。仕事上そういう方たちに接することがほとんどないぼくなど、自動車メーカーの記者会見に顔を出したりすると若干〈ややや〉となってしまうのであります。
では、映画関係のメディア人はどうであるか。
これはね、ちょっとユニークですよ。
現代日本を象徴していると言おうか、マスコミ試写会場には高齢者が多いのである。
おそらく映画評論家、ライターさんだと思われるが、70代アップの方がいくらでもいらっしゃる。おそらく映画雑誌の編集などを経て評論やライティングをしている、そういう方たちなのではないだろうか。
お洒落だとか、ファッショナブルとか、そういうインプレッションではない。プロ中のプロというのかな、たとえ試写の途中で居眠りをして、はっと目を開いた瞬間ですら彼らは「あの、きみねえ、ぼくは映画1万本以上観てるんですよ」とオーラを発している。こわいですよ~。いわゆる大御所ですな。
最初はびっくりしましたがね、ぼくはこういう「大御所力」はけっこう好き。だって「経験」と「下積み」がキチンと評価されるということだもの。そしていまもいい仕事をいるはずです。そうでなければ生き残っていけない結果社会ですから。
たまたま手許にある日本経済新聞夕刊には2016年版の「今年の収穫」というタイトルで映画評論家5氏が3本選んでいる。これこそ映画メディアでの「大御所力」を如実に示す、動かぬ証拠ですよ。大御所筆頭の白井佳夫さんは80代、女性大御所の渡辺祥子さんは70代、宇田川幸洋さん、中条省平さん、村山匡一郎さんの3人は60代。おそらく5人の平均年齢は70歳を超すと思われます。
それぞれの映画美学のあるひとたちだから3本といってもハリウッド作品あり、『シン・ゴジラ』あり、アジア映画ありでバラバラなんですが、かぶっているのが2作ある。『この世界の片隅に』(片淵須直監督)と『ハドソン川の軌跡』(クリント・イーストウッド監督)だ。
年齢だけは大御所の端っこに連なるぼくも、イーストウッド監督の『ハドソン川』は、オモシロサ、見応え感において比類なしのエンタテインメント作で、宇田川さん、中条さんの選に大賛成。2016年のベスト「メンプレシネマ」に推したい。
航空パニックものと息詰まる法廷劇をシームレスに合体させた映画術はまったくお見事。ハリウッドにおいても「大御所力」はまだまだ健在であることを見せつけてくれたわけであります。
- TEXT :
- 林 信朗 服飾評論家