ニコル・オートモビルズより「アルピナ・スーパー・スポーツ・ディーゼル体験試乗会」の案内が編集部に届いた。もちろん迷う必要など微塵もなく、すぐに参加の意思を伝える。何よりもこの試乗イベント、ルートの途中には富士スピードウェイでのサーキット走行が組み込まれていたることから、アルピナの本性を暴くには絶好の機会なのだ。
つくりも走りもとことんジェントリィ
ニコル・オートモビルズがアルピナの1号車、B7ビターボを日本に導入したのが1979年。今年で40周年を迎えるわけだが、その間に約5,300台のアルピナが日本の道に放たれてきた。少ないと感じるかもしれないが、現在でもアルピナのファクトリーから誕生するモデルは年間でわずか1,700台ほど。大量生産の効かない、ハンドメイドならでは精密さと上質な仕上げにこだわるがゆえ、その規模はどうしても小さくなる。だから、この日本の累計販売台数でも十分に大きな意味があるのである。こうしてオリジナルのBMWとはひと味違った魅力的なパフォーマンスと、品のある佇まいによって、徐々にその知名度を上げ、多少なりとも車に興味を持つ人にとって「アルピナ」は特別な存在としてすっかり定着した。
一方、BMWにはMシリーズというスポーツモデルがある。果たしてアルピナとの違いは? そして最新のアルピナのディーゼルモデルのパフォーマンスとはいかなるものか? それを知るために、スタート地点である世田谷のニコルのショールームに向かった。そこで筆者を待っていたのは、6世代目の3シリーズベース(F30型)をベースとした「D3ビターボ」と新型BMW X3ベースの「XD3ビターボ」である。
まずはD3だが、相変わらず美しいアルピナホイール、そしてホイールアーチとタイヤの隙間が綺麗に見えるように車高を調整する気配りによって、足下が引き締まっていて美しい。をキッチリと引き締めている。ボディサイドにはアイコニックなアルピナストライプ、ノーズの下部には小さく誇らしげにALPINAのエンブレムが与えられ、その佇まいには独特の存在感がある。これ見よがしではない、このさりげなさにこそ、スポーツカー好きの男性はもちろんだが、女性ドライバーにも愛される一因があるし、何よりもアルピナオーナーにとっての誇りになると思う。
さっそくD3ビターボで乗り出してみる。市街地では意外なほど大人しい。低回転からキッチリとトルクが立ち上がるため、アクセルの踏み込みも少ないままに流れに乗る。おまけにこの手のスポーツモデルにしては、サスペンションのストローク感がたっぷりしていて乗り心地がいいというか、上質なサルーンの味わいだ。静粛性が保たれた車内で音楽を楽しみながら、ゆったりと市街地を走る様子は、まさにラグジュアリーサルーンのしつらえなのだ。
精密極まるディーゼルのトルクでサーキットを駆け抜ける
だが、東名高速に乗り込み、アクセルをググッと踏み込むと、それまでお淑やかだった表情が一変した。ビターボ、つまり大小2基のシーケンシャルツインターボを装備し、専用設計されたD3の3リッター直6エンジンは257kW(350ps)と700Nmというパフォーマンスを躊躇なく発揮する。そのパフォーマンスは0~100km/h加速が4.6秒、巡航最高速度は276km/hに到達するが、その片鱗を垣間見せる。アッという間に制限速度に達するため、少しばかりじれったさもあるが、今日はこの後、サーキット走行もあると考えると随分と寛容になれる。
ゆったりとクルージング体制に入った高速走行でも、スタビリティの高さはまったく変わることがない。高速ではかすかなエンジン音とシューという風切り音を伴って、ひたひたと走り抜ける。実に快適な高速クルージングを楽しみながら御殿場に到着し、次に周辺のカーブが連続するワインディング、うねった路面の郊外路などを走る。ここで何よりも感心したのはダイナミックなハンドリングと上質な乗り心地との絶妙なるバランスである。十分な静粛性を保ちながら、スポーティな走りをあらゆるシーンで提供してくれるのだ。そんなことに感心しているうちに、クルマはいよいよ富士スピードウェイへ。
先導車に追従しながらのサーキットコンボイで、もちろんレースではないので追い越し禁止。それでもホームストレートを駆け抜け、第1コーナーのブレーキングポイントでは220km/hを超えるぐらいまで速度は上がっていた。ここで感じたのは、しっかりとサスペンションは締め上げられているのだが、ストロークも程よいという点。しかも、ステアリングフィールはリニアで実にシャープに切れ込んでいくのだが、荒々しい反応をダイレクトには返してこない。拍子抜けするくらい、平和にサーキット走行を楽しむことができるのだ。BMW Mが「サーキットを走るマシン」=アスリートとすれば、アルピナは総じて一般路でもサーキットでも、紳士然とスポーツ走行をこなす万能選手だ。こうした違いを考えるとMとアルピナはライバルというより、お互いに補い合うような関係だと理解できそうだ。
心のゆとりを残して真の贅沢を味わう
サーキット走行を楽しんだところで、東京への帰路にと用意されたのが最新のXD3ビターボである。ベースは3.0リッター直6ディーゼルターボエンジン搭載のBMW X3となるわけだが、アルピナ流儀で仕上げられたエンジンは最高出力が245kW(333ps)で最大トルクは700Nmを発生する。この試乗会の数日前に、たまたまテストをしたBMW X3 M40dの最高出力が240kW(326ps)、最大トルクが680Nmだったので、アルピナXD3ビターボの方が少しパワフル。だがむしろM40dよりも紳士的でソフト、どちらかといえば控えめな感覚がある。特に高速走行では、スポーツモデルならではの堅さを感じる事もほとんどなく、驚くほどたっぷりとしたストローク感を感じながら何とも平和なクルージングである。もちろんそこからアクセルを踏み込めば、怒濤の加速体勢へと瞬時に移り、0~100km/hを4.9秒、0~200km/hを21.9秒という加速力と、最高速254km/hという俊足ぶりを2トンオーバーのボディで披露してくれるのだ。だが、それはあくまでもドライバーの心のゆとりとして残しておき、今は平和に走ろう、という感覚にさせてくれる。
当然のようにM40dも高速クルージングはなんとも平和なのだが、どうしても「速く走ろうよ」という誘惑に駆られてしまう。もうこの辺の味わいの差はどっちがいいとかというものではなく、好みの問題だ。それにしてもM40dの感触が十分に残っているなかでのXD3の試乗は、Mとアルピナの性格の違いを再確認するうえでは実にいいタイミングだった。要するに強烈な加速やシャープなハンドリング、そして卓越したドライビング・ダイナミクスの表現方法が違うということである。
過酷ともいえるサーキットで鍛え上げられたBMWテクノロジーを、ふんだんに投入したBMW Mモデル。一方のアルピナはMと同等のパフォーマンスを、より分かりやすく、より扱いやすく、より親しみが持てるように調教したといえそうだ。そして試乗を終えて改めて感じたのは、2台のアルピナがディーゼルのネガティブな印象をこれまで以上に取り去ってくれたことだった。
<D3ビターボ>
全長×全幅×全高:4,645×1,810×1,445㎜
車重:1,660kg
駆動方式:FR
トランスミッション:8速AT
直列6気筒DOHCツインターボ 2,992cc
最高出力:257kw/4,000rpm
最大トルク:700Nm/1,500~3,000rpm
価格:¥10,310,000(税込)
<XD3ビターボ>
全長×全幅×全高:4,718×1,897×1,655㎜
車重:2,015kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速AT
直列6気筒DOHCツインターボ 2,993cc
最高出力:245kw/4,000rpm
最大トルク:700Nm/1,750~2,500rpm
価格:¥10,940,000(税込)
問い合わせ先
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ニコル・オートモビルズ TEL:0120-866-250
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- TEXT :
- 佐藤篤司 自動車ライター