正解は…1:日本ではきれいな水が潤沢だったが、欧米ではそうではなかった です。
当時の欧米では、加熱しない飲み物は食品衛生上危険である、という考え方がありました。庶民がきれいな水を簡単に手に入れられる国、というのは、世界的にもそれほど多くなかったのです。
ちなみに明治24年といえば西暦1891年で、世界初の電気冷蔵庫が誕生したのは、27年後の1918年のことです。
そんな頃でも、きれいな水が潤沢な日本では、昔から夏になるとキュウリやスイカを川や井戸で「冷やして食す」という発想と文化が定着していました。ですので自然と「コーヒーも冷やしたらおいしそう」ということになったのかもしれません。
「冷たいコーヒー」を飲む地域は日本以前にも存在していたものの、製法や味はまったく別で、欧米には定着せず…
とはいえ「アイスコーヒーは日本発祥!」と言い切るのは、やや語弊があります。正確には、「ホットコーヒーと同等に薫り高くおいしく飲める、冷たいコーヒー」を編み出し、定着させたのが日本、ということになるでしょう。
日本のアイスコーヒーより古い「冷やしたコーヒー」の情報として、フランスの文献に、アルジェリアのマサグランという町の、冷たいコーヒーについての記述があるそうです。1830年から1962年まで、アルジェリアはフランスの植民地でした。この時期にフランス人が、マサグランで飲んだ冷たいコーヒーを「マサグラン」という名称の飲み物として、本国に持ち帰って紹介したとか。しかし、本国ではあまり普及しなかったようです。
当時のフランスの「マサグラン」、もしくはマサグラン現地で飲まれていた冷たいコーヒーは、「ホットコーヒーを水で薄めて冷たくしたもの」だったようです。また、フランスの「マサグラン」は、ブランデーやワインなどのお酒や砂糖、果汁が加えられたコーヒー・カクテルに進化していた、という説もあり、どちらにしても、日本で生まれたアイスコーヒーとは方向性が違う上、定着しませんでした。
このほか、アメリカのコーヒー協会が、夏季のコーヒー消費量の落ち込み回避のため、1914年に「水出しの冷たいコーヒー」を打ち出した広告が残っています。しかしあまり受け入れられず、アメリカの家庭では現在でも、夏はアイスティーのほうがポピュラーなようです。
水出しコーヒーの発祥地は、インドネシアだと言われています。現地で収穫できるコーヒー豆が苦みとエグみの強いロブスタ種だったことから、味をやわらかくするために、水出しを考案したのではないか?と言われていますが、水出し抽出の起源がいつなのか?という記録は確認できませんでした。
現在でも、日本的なアイスコーヒーを飲む国は意外と少ない
実は現在でも、日本人がイメージするような、ブラックでも飲める「アイスコーヒー」を楽しむ地域は、世界的にも非常にわずかだとか。
1990年代に入ってシアトル系のコーヒーショップチェーンが日本的なアイスコーヒーを商品化したため、アメリカやカナダの都市部では一部供されているようです。
しかし、それ以外の国や地域でアイスコーヒーをオーダーすると「氷の入ったグラスとホットコーヒーが出てきた」「生クリームやアイスクリームたっぷりの、甘いものが出てきた」「コーヒーミルクシェイク的なものが出てきた」など(笑)、日本人が想像するような、シンプルなアイスコーヒーには、なかなか出会えないと言います。
コーヒーは種類によって、ホットで抽出したものを冷ますと風味が落ちるもの、酸化してしまうものなど、クセがあります。日本では「アイスコーヒー用の豆」や「水出しコーヒー用の豆」など、アイスコーヒーにすることを前提にしたブレンドや、焙煎法のコーヒー豆もいろいろ販売されていますよね。
そこまで細やかに「シンプルなアイスコーヒー」に真剣に向き合っているのも日本人だけ、ということかもしれません(笑)。
しかし、チーズやチョコレートなども、日本人の職人の手によるものが本場で認められている、という現状を鑑みると、外国からの訪問者に、あなたの愛するカフェのアイスコーヒーをふるまってみる、というのも、素敵なおもてなしになるのでは?
日本人の繊細な味覚と探求心は、世界に誇れる大きな魅力なのだと思います。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- BY :
- 参考資料:「cofeemaccaコーヒーをもっと身近に」coffemecca編集部/「冷蔵庫の歴史」Peitism/「short history of coffee advertising 」all about coffee/「コーヒー好きの集まるブログ リュウの世界」
- ILLUSTRATION :
- 小出 真朱