渡辺直美さんのテレビCMが印象的な脱毛サロン「キレイモ(KIREIMO)」。創業5年で全国に70店舗を展開するなど、急成長を遂げている注目の企業・株式会社ヴィエリスのブランドですが、その舵を取っているのは、38歳の女性経営者・佐伯真唯子さん。

株式会社ヴィエリスSEO佐伯真唯子さんが笑顔の写真
株式会社ヴィエリスCEO佐伯真唯子さん

女性が活躍できる会社づくりを通して、社内のジェンダー平等や、女性が働きやすい環境づくりを推進。その実績から国連に招かれ、社内での取り組みについて、国連で2年連続スピーチしているという、佐伯さんの働きかたとは? 日本の女性進出の壁、約1,600人の社員のマネジメントや、今後の国連での取り組みなどについて、お話を伺いしました。

佐伯真唯子さん
株式会社ヴィエリスCEO
大学卒業後、同大学のグループ会社にて、企画事務スタッフとして勤務。「女性の活躍している業界で働きたい」と、美容の道へ行くことを決意、美容専門学校に入学。卒業後、美容業界数社でエステティシャンとして、現場での経験を積み、32歳で現在の株式会社ヴィエリスに、創業メンバーとして入社。2019年3月より代表取締役社長に就任。現在38歳。
ヴィエリス

社員の仕事の「結果だけでなくプロセスを評価」し、社内SNSで迅速に情報をキャッチ

Precious.jp編集部(以下同)――約1,600人の社員を抱える経営者として、佐伯さんなりに心がけていること、マネジメント論や経営論を教えてください。

そんな、マネジメント論とか、経営論とか、特にないんです(笑)。でも、ヒアリングをとても大事にしています。現場にも行きます。マネージャーのリアルな声、現場のスタッフの声。経営者だからと言って「ワーワー」と一方的に、何かを言うのではなく、まずヒアリングをする、そしてそこに課題を見つけて、アクションを起こす、その繰り返しです。

例えば、ある現場の一スタッフが「こんなことで悩んでいる」という事があるならば、1,600人も社員がいれば、同じ悩みを抱えている社員も、きっと他にもいるはずです。そういう声を聴いて仕組みを変えたり、制度を変えたりしています。

――ES(従業員満足度)を重視していると聞いています。ESを上げるために、佐伯さんが経営者として心がけていることは何でしょうか?

先ほどのヒアリングもそうですが、結果だけでなく、プロセスを評価するようにしています。結果は後でついてくると信じているからです。トップダウンではなく、社員ひとりひとりが、自らやる気を持って動いてもらえるよう、社内SNSなどを活用してコミュニ―ションを図り、可能な限り早く対応しています。社内SNSのすべてを読んで、迅速に動いています。

お客様や現場スタッフという「相手の立場に立つ」ことが大切

現場へ行って直接スタッフからヒアリングをすることもしばしば(上段一番左が佐伯さん)
現場へ行って直接スタッフからヒアリングをすることもしばしば(上段一番左が佐伯さん)

――社員から、どのようなCEOだと思われていると思いますか?

怖いときは、怖いんではないでしょうか。基本的に怒ることはないのですが、怒ることがあるとしたら、それはいつも同じことで、「お客様」のことを考えていない発言があったとき、または一緒に働いている仲間を軽視するような発言が見られたときは、ものすごく怒ります。「自分がその立場だったら、どうなの?」と問いただします。

自分自身が、過去にエステティシャンとして、現場で働いていたときにいろいろ思うことがあったからこそ、今、CEOになっても、当時の気持ちを忘れずに「もし自分がその立場だったら」という視線を、常に持つようにしています。

そして、社員ひとりひとりとの距離は、近くありたいと思っています。ハートとハートで握手しないと、本音でぶつかれないですし、信用して仕事ができないと思いますので、気軽に話しかけてもらえるように気をつけています。

――御社は、業界内でとても離職率が低いと伺っていますが、それはなぜだと思いますか?

そうですね。弊社では、社員ががより長く、楽しく働けるように、13通りの雇用形態があって、働き方を自分で選べるようになっています。また、キャリアのステップアップができるような人事制度を設けています。

また、弊社の男性社員の割合は2%以下なのですが、男性の管理職もおりますし、男性だから、女性だからということなく、平等に、ジェンダーを意識せずに働いてもらえていると思います。個人に能力とやる気があれば、男女関係なく、引き上げています。

仕事を「真剣に楽しむこと」が成功のコツ

――多くの社員や、新規ビジネスを抱え、毎日お忙しいと思うのですが、どのように毎日を乗り切っているのでしょうか?

都度、都度、「自分がどう楽しむか」ということを考えています。例えば、国連でのスピーチなども、とても緊張するんですけど、「楽しんじゃえ!」と真剣に楽しみました。会議でも、社員との面談でも、「自分が楽しめなければ、周りは楽しめない」、と思い、真剣に楽しむことを心がけています。

でも実は、会社を立ち上げてから1年間くらいは、ずっとピリピリしていました。「周りのスタッフが自分に何を求めているか」、がわからなくて。ひとりで「臨戦態勢」みたいな感じでいました。「素の自分を出したらいけない」「素の自分では戦えない」って。不安とプレッシャーで、目先のことしか見えず、鎧を着て兜をかぶって戦っていました。

でも、ある時、「鎧を着ていても鎧の隙間から狙われる」、ということがわかり、鎧と兜を脱いだんです。そしたら、とっても楽になりました。そして、気がついたんです。

「なんでひとりで戦おうと思うっていたんだろう? 周りにこんなに優秀な人たちが、沢山いるのに」

って。素の自分を出せるようになったら、離職率も下がって、業績も上がりました。

――そうすると、佐伯さんご自身が変わったことで、周りも変わったということですか?

大勢の社員に囲まれている佐伯さん
「褒める文化」を取り入れて、風通しの良い社風を実現

そうですね。私が周りを信頼して、細かいことに口を出さなくなったので、社員が「怒られるから頑張らないと」ではなく、「信頼されてるから頑張りたい」というように変わったように思います。その結果、業績や離職率に変化があったと考えられます。

また、弊社ではSNSを活用し、「褒める文化」を積極的に推奨しています。例えば、他店からヘルプで来てくれたスタッフについて、「ヘルプ先なのに、率先してフロントに立ち、上手に回している姿は立派でした‼ ありがとうございます!是非また来てほしいです☆」など、ポジティブな意見を、社員がSNSで発信してくれています。

社員がSNSを通じて、人を「褒める」ことで、社員みなのモチベーションがあがり、さらに社内の雰囲気がよくなるというスパイラルが起こります。この「褒める文化」を取り入れたことで、風通しのよい社風を実現できていると思います。


「女性がより働きやすい環境」を実現するための取り組みとは?

続いて、ここからは佐伯さんがなぜ、国連に呼ばれたのか?についてお話を伺っていきます。

「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」という言葉、聞いたことがあるでしょうか?

これは、「継続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略称で、2015年に国連サミットで採択された、世界的な取り組みの17の大きな目標です。

SDGs17項目
SDGsの17の項目

貧困をなくしたり、質の高い教育を受けられたり、作る責任と使う責任を考えたり、海や緑の豊かさを守ったり…。いま、日本や世界が抱えている自然環境・人間関係の課題を、2030年に向けて解決していきましょう、という大きな枠組みです。

「ジェンダー平等を実現する」。そのためには、女性自身の意識が変わることが重要

――このSDGsを企業として実行したことから、佐伯さんは国連で2年連続でスピーチをされたということですが、どのようなお話をされたのでしょうか?

国連SDGs.推進会議でスピーチをする佐伯さん
「国連N.Y.本部SDGs推進会議」でスピーチをする佐伯さん ©2019 SGDs FOUNAP

1年目の2018年は、弊社(KIREIMO)における現状報告と、なぜSDGs.No.5(※)に取り組んでいるのか、ということについてお話ししました。そして今年の2回目は、昨年からの今年までの取り組みの結果報告と、さらに次に何をしていくのか、についてお話をさせていただきました。

※SDGs.No.5「ジェンダー平等を実現しよう」ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る目標のこと
SDGs.No.5のロゴ
SDGs.No.5 ジェンダー平等を実現しよう

――ジェンダー格差は、どのような取り組みを行うことで、改善されると考えていらっしゃいますか?

まず、女性自身が意識を変えなければいけないと思います。働き続けるということは、とても大変なことです。男性の中には「一生働いて家族を養わなければいけない」、という意識を持って働いている人が多いのに対し、女性の中には「人間関係が面倒だから」とか「仕事がつらいから」などの理由で、「主婦になろう」という気軽な考えを持っている方が見受けられます。

女性が自立する気持ちをもたなければ、仕組みだけあっても、何も変わらないと思います。

――その、「自立する気持ち」を持つために、女性に何が必要でしょうか?

まず、自分に自信を持つこと。そして、自分の人生を歩む、ということでしょうか。「家族に言われたから、子供を産む」とか、「ご両親に言われたから、結婚する」ではなく、自分で自分の人生を決めることが大切です。

――自立している女性が、頑張っても活躍できないフィールドも、現状あると思うのですが?

それは、そのフィールドにおけるルールを、男性がつくってきたからだと思います。男性に向けられたルールを、女性に当てはめようとしているから、上手くいかないのかなと思います。「妊娠したら」「出産したら」といった、男性が根源的にはわからないことに対してルールをつくっても、それがすんなりと女性に当てはまるとは、思えませんよね。どうしてもトップダウンに近い、押しつける感じになってしまう部分が出てきます。

女性に当てはまるルールは、女性がつくる。もしくは、男性と女性が一緒につくるのが良いのではないのでしょうか。

日本は世界的に見ても、ジェンダー平等ではないという事実

――世界の先進国の中でも、日本がジェンダー平等後進国である理由は、なぜだと思われますか?

伝統と文化が影響しているからだと考えられます。「やまとなでしこあるもの、3歩下がって歩くべし」、というような。また、親の世代を見て「女性は結婚したら、家を守るのが当たり前」とか、「子供を産むのが当たり前」と思っている方も少なくありません。

弊社でも、若い社員で、親御さんから働くことを反対されている、というようなことも聞いています。そういう日本の伝統や文化が、女性の社会進出を阻む、ひとつの要因となっているように思います。また、日本人女性には「インポスター症候群」(※)の方が多くいます。「自分なんて」と、自己否定してしまう、その症状も、ジェンダー平等後進国である理由のひとつだと考えています。

※インポスタ―症候群とは、必要以上に自分を過小評価してしまう症状のこと

――女性がより働きやすい環境をつくるために、今後どのような取り組みをされていくのでしょうか?

「こんな私なんかのような人間に、誰がついてくるの?」という、昔の私のような思いを持つスタッフが、社内でもまだいます。自立していない、またはインポスタ―症候群のスタッフに対して、もっと自分を認めて、キャリアを積めるような活動を、社内ではやっていきたいです。

そして、社会的な活動としては、チャウドリー国連大使より指名を受け、6月に新しく発足したNGO団体の、副委員長に就任しました。

「FOUNAP Committee for Women's Equality and empowerment in Working Environment」というNGO団体で、女性のエンパワーメント(自立性推進)を応援する委員会です。この委員会を通じて社内だけでなく、社会においても、女性躍進の推進、働く力を応援していきたいと考えています。

発足したNGO団体のミーティングの様子
発足したNGO団体の打ち合わせの様子 ©FOUNAP

以上、株式会社ヴィエリス・CEO佐伯真唯子さんに、マネジメント、SGDsの取り組みと、今後の活動などについてお伺いしました。

「1,600人の従業員を抱え、国連という大舞台でスピーチをした、女性経営者」という肩書きからは、まったく想像がつかない、しなやかで笑顔を絶やさない素敵な女性でした。

インタビューの間も常に笑顔で、冗談なども交えながら、まさに「自分が楽しむ」ことを実践されていた佐伯さん。非常に和やかな雰囲気で、始終笑いの絶えないインタビューとなりました。エステティシャンとして、現場で働いた経験があるからこそ、現場スタッフの気持ちを理解して、マネジメントをされているということがわかりました。

周囲の社員を信頼し、また社員からも信頼される、トップダウンではない、風通しの良い社風を感じることができました。

佐伯真唯子さん、この度は貴重な機会を頂戴し、ありがとうございました。今後のさらなるご活躍をお祈りしております。

この記事の執筆者
新卒で外資系エアラインに入社、CAとして約10年間乗務。メルボルン、香港、N.Yなどで海外生活を送り、帰国後に某雑誌編集部で編集者として勤務。2016年からフリーのエディター兼ライターとして活動を始め、現在は、新聞、雑誌で執筆。Precious.jpでは、主にインタビュー記事を担当。
公式サイト:OKAYAMAYUKIKO.COM
EDIT&WRITING :
岡山由紀子