「画廊から和菓子屋に転身」した店主がつくる「生わらび餅」

和菓子の中でも、比較的親しみのあるものとして認知されている「わらび餅」。その美しい見た目と味わったことのない感覚に今、SNSでも話題になっているのが、下北沢から徒歩約3分の場所にある「甘味処 甘寛(あまひろ)」の「生わらび餅」です。

店主の青山真浩さんは、画廊勤務を経て和菓子店の店長に。8年ほど和菓子づくりの技術を学んだのち、2019年2月に「甘味処 甘寛」をオープンしたそうです。

「甘味処 甘寛」の入口の画像
「甘味処 甘寛」の入口。ビルの2階にあります

■食感を重視するために、水分量を日によって調整

「甘味処 甘寛」の「生わらび餅」
「生わらび餅」¥1.000(税抜)

「生わらび餅は」は注文を受けてからつくられるため、できたてホヤホヤです。口にすると驚くのが、その食感。想像を遥かに超える瑞々しさと、トロリとしていながらも程よく感じられる弾力……。お客さんのほとんどが「生わらび餅」を注文するのもうなずけます。

実は青山さんは、日によって「生わらび餅」に加える水分量を調整しているそうです。

箸でつまんだわらび餅がのびている画像
箸でつまむと、この通りびよーんと伸びます

「わらび餅を練りながら、手の感触やヘラから伝わってくる重さなどを確認します。“自分がおいしいと思う食感や弾力”に到達するまで、少しずつ水を足していくのがポイントです。

水分量はもちろん大事ですが、使っている材料や作る工程などすべての要素が合わさった結果、『生わらび餅』独自の食感や弾力が実現できているのです」(青山さん)

つくり置きをしないのも、すべては「生わらび餅」の食感のため。手間暇はかかるものの、この方法がベストなのだそうです。

「生わらび餅」のおいしさをより際立たせるのが、きな粉と黒蜜です。きな粉は、深煎りと浅煎りの大豆を使用しています。焙煎の異なる大豆を使用しているため、ほろ苦く風味豊かなきな粉になるのだとか。

自家製の黒蜜は、濃厚ながらも甘さ控えめ。香り高いきな粉と相性抜群です。

きな粉と黒蜜の画像
主役級の美味しさを誇るきな粉と黒蜜

ここで、青山さん流の「生わらび餅」の食べ方を紹介してもらいました。

「ひと口目は、何もつけずに食べていただくことをオススメします。まずは、わらび粉の繊細な香りや、ほんのり感じられる甘さなど、わらび餅そのものの味を楽しんでください」(青山さん)

生わらび餅の下には、かき氷状に削られた氷が敷かれています。実はこの氷にも秘密が。できたてのわらび餅が冷水でさっと締められた後、氷の上でゆっくりと冷えていく過程をイメージしているそうです。

「お客様が『生わらび餅』の写真を撮ったり、一緒に来た友人と話したりしているうちに、いい具合に冷えて、食べごろを迎えることを想定しています。もちろん、すぐに食べていただいてもおいしいですよ」(青山さん)

満席の店内には、「生わらび餅」の写真を撮るお客さんの姿もちらほら。「思い思いの時間を過ごしてほしい」という、青山さんの心遣いが感じられます。

■大正ロマン風の内装の裏側にあるストーリー

「甘味処 甘寛」の内観
懐かしさと温かみの感じられる空間 ※画像は店舗提供

「甘味処 甘寛」の特徴とも言えるのが、大正ロマン風の内装です。ドアを開けると、目に飛び込んでくるのはステンドグラスやレトロなランプシェードなど。大正時代にタイムスリップしたかのような感覚に陥ります。

そして、ひときわ存在感を放つのが、店内に飾られた竹久夢二の代表作「黒船屋」。

竹久夢二の「黒船屋」
漆黒の黒蜜に映る竹久夢二の「黒船屋」

以前から「黒船屋」が好きだったという青山さん。甘寛を始めるにあたり、「黒船屋」を飾ることを前提とした内装にしようと考えたことから、店のコンセプトが固まったそうです。

しかし、肝心の絵が手に入りません。帆走した結果、かつての勤務先である画廊のオーナーが見つけてくれ、オープン前日にプレゼントしてくれたそうです。

なんとも素敵なエピソードですね。


生わらび餅のほかにも、卓上に置かれた七輪で焼ける「いそべ餅」や、おしるこ、通年食べられるかき氷などのメニューもあります。複数のメニューを注文して、誰かと分け合いながら食べても楽しそうです。

大正ロマンの雰囲気に浸りながら、懐かしいようで新しい「生わらび餅」をいただくのも乙なもの。まずは食べて、そのおいしさを体感してみることをオススメします。

問い合わせ先

  • 甘味処 甘寛 
  • 営業時間/12:00〜20:00(L.O.19:30)
  • 定休日/月曜日
  • TEL:03-6804-9287
  • 住所/東京都世田谷区北沢2-9-24 博雅ビル2F
この記事の執筆者
フリーランスのライター。企業の採用サイトやパンフレット、女性向けの転職サイト、親向けの性教育サイトなどで取材記事を執筆。好きなもの:中村一義、津村記久子、小川洋子、マンガ、古いもの、靴下など
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WRITING :
畑菜穂子