これまで長い間イタリアは、カクテル後進国だったといっても過言ではないだろう。というのも、ボトルから注いでそのまま飲めるワインがあるのだから、あえて“混ぜて作る”飲み物に目がいかなかったのは当然といえば当然である。
ナルディーニのグラッパ・カクテルに注目!!
ところが、ネットのおかげで様々な情報がたやすく入るようになり、その結果、イタリアでも若い世代を中心にワイン以外のドリンク世界に足を踏み入れるようになった。
2000年初頭に爆発的に増えたクラフトビールがその第一段階で、第二段階はクラフトジンである。共通するのは、ワインに比べればはるかに少ない資金で自分好みのドリンクを手がけられ、出来上がりまでの時間も短いから、次から次へと新しいものが作れる。
アルコールへの関心は一度生まれたら体でも壊さない限り拡大の一途を辿るので、今はウィスキー、そしてミクソロジーが注目の的になっているというわけだ。
ワイン王国のイタリアでは日陰の存在だったカクテルが注目される訳
イタリア人はそもそも、食べること、美味しいものを作り出すことに貪欲で、その才にも長けている。彼らが、発想や工夫次第で新しい美味しさを作り出せるミクソロジーに夢中になるのもごく自然な流れだ。
ミラノではスタイリッシュなバーが次々とオープンし、フィレンツェでは数々のバーが参加するカクテル・ウィークが定着してきている。さらにローマやボローニャでもカクテル・コンテストが開催されるなど、その勢いは当分衰えそうにない。そしてこの動きに連動して、イタリア各地で昔から製造されているリキュールやグラッパにもミクソロジーの原材料として注目が集まるようになってきている。
新しいものを追いかけているうちに、足元に素敵な宝物が眠っていることに気づいたという次第である。
日本とイタリア合同チームによるアペリティーヴォの提案
こうしたイタリアのミクソロジーシーンを、日本でも体験できるイベント「アペリトーキョー」が、去る11月19日に、東京・広尾のイタリアンバール「ピエトレ・プレツィオーゼ」で開催された。
発起人はフィレンツェ初のシークレットバーとして知られる「ラスプーチン」のヘッドバーテンダーであるダニエレ・カンチェッラーラ、ベバレッジ・ジャーナリストのフェデリコ・ベッランカだ。
テーマは、「100%イタリアのミクソロジーによるアペリティーヴォ」。アペリティーヴォとは、食前酒と訳すのが一般的だが、そもそもは19世紀のトリノで生まれた、仕事帰りにバールで一杯グラッパやリキュールを楽しむ習慣のこと。
時代が下がり、ヴェネツィアでプロセッコとビターと炭酸水で作るスプリッツが登場し、アペリティーヴォといえばスプリッツとなり、さらに軽食やおつまみも一緒に楽しむようになったのである。
このイベントでは、さらに一歩進んで、イタリア産の原材料のみで作るオリジナルカクテルをアペリティーヴォとして提供された。
特に今回の主役となったのは、イタリア最古のグラッパメーカー「ナルディーニ」のグラッパとリキュール、そしてトスカーナのクラフトジン「ジネプライオ」とコーヒーリキュールで、ダニエレがこれらを使った4種類のカクテルを披露。
おつまみには、トスカーナのトリュフ食品メーカー「サヴィーニ・タルトゥーフィ」のトリュフ風味のナッツやポテトチップス、トリュフとともに塩水漬けにしたペスキオレ(小粒の桃)が並んだ。
この「アペリトーキョー」は、イタリアの隠れたリキュールや蒸留酒を紹介しながら、その様々な使い方を知ってもらうのが目的であり、そのためには打ち上げ花火的に一回で終わらせず、継続して発信していく予定である。
次回は規模を拡大し、紹介するリキュール・蒸留酒類も増やして、「アペリトーキョー2020」を開催すべく、すでに始動しており、今年の秋以降には本格的にイタリア式アペリティーヴォの提案は本格化するはずだ。今年はメイド・イン・イタリーのカクテルに注目したい。
シークレットバー「Rasputin(ラスプーチン)」
- Borgo Tegolaio 21r Firenze
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト
- PHOTO :
- MadMike