本記事は、美容ジャーナリスト・エッセイストの齋藤 薫さんによる、春の「ベージュ」の着こなしについてのエッセイです。
最愛カラーのもつ透明感は、女性にとって永遠の憧れ
映画の世界では「いい女」はベージュを着るというセオリーが存在する
映画の衣装を担当するスタイリストは、ひと目で相手を魅了する「いい女」を登場させるシーンには、ベージュの服を着せることが多いという。白でも黒でもない、もちろんピンクでもない。ベージュのシンプルな服こそが、いい女の制服であるからと。
映画の中の服は、ファッションを超えて人間性を語るものとなる。だからベージュを選ぶ女の知性やバランス感覚、人としての優しさや包容力までをそこに描くため、人を一瞬で惹きつける女には、迷わずベージュを着せるのだろう。
「ベージュの似合う女になりたい」
そういえば、ガブリエル・シャネルもベージュをこよなく愛し、ジャージーのスーツもコンビの靴にもベージュを配して「ベージュの女王」と呼ばれた。いやそもそも、ベージュを初めて色として主役にし、洗練の極みという役割をもたせたのはシャネルだったと思う。
しかも、働く女性にとってとりわけ重要な色と位置づけた。出勤もランチも、そしてカクテルパーティも、ベージュと黒の服装でいれば、朝から晩まできちんとしていられると。ベージュのもつ社会性や礼儀正しさ、穏やかな盛装感にもスポットを当てたのだ。
そうした理由から、ベージュは私たち女にとって、果てしなく憧れの色であり続けている。「ベージュの似合う女になりたい」と、きっとどこかで思い続けているはずなのだ。
ベージュのパラドックス
でもその一方で、ベージュは容易い色ではない。
一般に「人の肌の色」、日本人にとって最もナチュラルで、肌とワントーンを描く色のはずなのに、むしろ肌と同系色だからこそ、逆に肌をくすませるリスクもある。口紅のベージュがときに顔色を悪く見せたりもするように。
成功すれば、これほど女を別格の存在に見せる色はないのに、とても皮肉な話。でも難しく考えないで。3つの約束を守るだけで、ベージュは女に完璧に味方してくれるのだから。
ベージュを味方にする3つの約束
まずなにより丁寧に着ること。とても繊細な壊れやすい色だから、雑な印象を許さないのだ。たとえば合わせる色も、白あるいは黒。それ以外の色合わせはあくまでも慎重に。本来が主張の強い色ではなく、他の色の主張に負けたとき、急に濁ってしまうから。ベージュは決して濁らせてはいけないのだ。
ふたつ目に、いきいきとした明るい肌をつくること。本来は、黄みのベージュか、ピンクみのベージュか、肌色との相性が問われるところ、肌の明度を高めれば、どんなベージュも美しく映えてしまうから。これもベージュを濁らせないひとつのコツなのだ。
そして3つ目に、女性であるのを強く意識すること。気づいていただろうか。ベージュは宿命的に男には似合わない。圧倒的に女性の色なのだ。まさしく「いい女」にだけ許された色といってもいい。だからヘアにもメイクにも手を抜かず、女度を意識して高めてほしい。それでこそベージュは映える色となるのだから。
若すぎたら似合わない。キャリアを重ねた大人をこそ、きらめかせる色
でも逆をいえば、それだけでベージュは完全に自分のものになり、見事に「ベージュの似合う女」ができ上がる。そして冒頭で語ったようにひと目で相手を魅了するほどのオーラが生まれる。知的で上品で清潔感があって、しかも穏やかで懐が深い魅力のある女に。
そしてとりわけこの季節、春の光に映える澄んだ輝き=透明感をまとうことになる。その正体は、生命美。
ベージュという肌色との美しいワントーンが、その人の命そのものの美しさを外見からも内面からも引き出し、輝かせる、だからこそ人は年齢を問わず、ハッとするほど透明度の高いきらめくような生命美を見せつけることになるのだ。
いい換えれば、ベージュは決してごまかしのきかない色。まるで女性の皮膚のような色は、女性としてのクオリティをそのまま伝えてしまうからこそ、若すぎたら似合わない。キャリアを重ねた大人をこそ、きらめかせる色なのだ。
だから今ぜひとも確信をもって、ベージュをまとってほしい。命の美しさが透けて見えるような、春のベージュを!
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- TEXT :
- 齋藤 薫さん 美容ジャーナリスト
- BY :
- 『Precious3月号』小学館、2020年
- PHOTO :
- 佐藤 彩(静物)
- STYLIST :
- 大西真理子
- WRITING :
- 齋藤 薫
- EDIT&WRITING :
- 岡本治子、遠藤智子(Precious)