仕事も人生も、自分らしいスタイルを少しずつ「更新」させながらライフステージの「踊り場」を果敢に乗り越えてきた大人の女性たち。
現役でいられる時間が延びる人生100年時代の今、自らの心の声に耳を傾けて「生き方や働き方の軸足」自体をシフトさせる人も増えています。
それまでもっていた価値観を見直して、変化させたことで人生がより味わい深く。「新しい働き方」を選んだ女性たちの深化の物語をお届けします。
本記事では、60歳で銀行員から、デジタルクリエイターにライフシフトした若宮正子さんにお話を伺いました。
好奇心を優先したら、第二の仕事人生がスタートした
定年後の自分を予測できる人は、果たしてどれだけいるのでしょうか。81歳にして初めてつくったゲームアプリ『hinadan』が話題となり、世界最高齢プログラマーとして若宮正子さんは注目されています。
勤めていた大手銀行の子会社の副部長として定年を迎えたその日、実は彼女の頭に浮かんだのは「明日からやりたいことができる!」という純粋な喜びでした。
「自他ともに認める多趣味人間なのですが、会社員時代は時間の制約がありました。リタイヤして時間も増えたのでこれからはやりたいことを優先し大いに楽しもうと、60代で本格的にPCデビューしたのです(笑)。今から20年前に個人でパソコンを買う人なんて、かなりのオタク。パソコン通信を始めたことで個性的な友人が増え、世界がグッと広がりました」
定年後の遊びのつもりで始めたパソコンが、若宮さんの人生を思いがけずシフトさせてゆきます。
「年寄りが楽しめるゲームアプリをつくって」とアプリ開発者の友人に頼むと、だったら自分でつくればいいとアドバイスされ、わずか半年でゲームアプリを完成。『hinadan』をリリースすると米国のCNNから英文の取材メールが届き、リミット内に提出するべく翻訳サイトを駆使して迅速に返信をした。その記事がアップルの世界開発者会議に招かれるきっかけとなり、若宮さんは一躍時の人となりました。
そんな彼女のもとには、年間85本もの講演依頼が寄せられます。80代の体力には見合わない稼動量です。
「この3年で流感にかかったり、おなかが痛い日もありました。しかし呼ばれたら行かないわけにはいきません。芸者はお座敷に穴を空けないのも芸のうち、なんていいますよね。緊張感とガッツでもって乗り切っています」
最近ではExcelのマス目を用いた「エクセルアート」で自分の服もデザインする。取材のこの日もカラフルなブラウスで現れた。自分も習いたいという声に応えてYouTubeの解説動画も編集している。ナレーションはスマホを使って音声入力。気づけば趣味に生きる余生のつもりが、時代に求められるシニアになっていた。
「ありがたいことだと思っています。もし今、事故か何かでこの世を去ることがあったとしても「神様、いい人生をありがとう!」と言うと思います」
今の自分を自己評価するなら…?
「3年前、アプリをリリースしたことで人生が一変しました。講演会を引き受けたり、取材を受けたり、普通にしていてはお目にかかれないような方々にお会いできたり。毎日違うパターンの刺激的な日々を送れている、今の自分にとても満足しています」(若宮さん)
- PHOTO :
- 眞板由起(NOSTY)
- EDIT&WRITING :
- 谷畑まゆみ、佐藤友貴絵(Precious)