世界が賞賛する「未来のアンティークジュエリー」!「ギメル」デザイナー・穐原かおるさんの意外な感性の磨き方とは?
宝石鑑定の世界的権威・GIA(米国宝石学会)で宝石学を修了し、GG(グラジュエイトジェモロジスト)となった日本人の先駆け。オークションハウス「クリスティーズ」や「サザビーズ」から出品依頼され、世界最大の時計宝飾の展示会「バーゼルワールド」に出展ーー。
まるで、日本のジュエリー界の開拓者のような、その輝かしい経歴から、肩で風を切るような人物を想像していましたが、まったく違いました。
世界各地で評価を得ている日本のジュエリーブランド「ギメル」のアートディレクター・穐原かおるさんは、優しい笑顔が印象的な柔和な女性。周りの空気まで穏やかなものに変えてしまうような、静かな佇まいは、彼女がつくり出す、やわらかな色彩の繊細なジュエリーに共通します。
そんな穐原さんの美しい世界を堪能できる「ギメル」のジュエリー展が、東京・銀座、和光 本館6階の和光ホールにて開催。「Four Seasons(四季)」をテーマとし、四季折々の情景をジュエリーに映し続けるギメルの世界観を初めて、和光ホールという舞台で表現。
春を象徴する桜モチーフの新作ブローチを筆頭に、日本の四季を感じることのできるジュエリーの数々を観ることができます。さらに、人気のフィギュアシリーズの新作など、今回初めて披露される作品もあり、圧巻の展観です!
和光だから実現!トークイベントで語られた、ギメルの世界を紐解く3つのテーマ
展覧会初日である3月19日(木)には、銀座・和光にて、穐原さんと、宝飾史研究家・山口 遼さんによるトークイベントが開催されました。この貴重な機会に思わず涙する長年のファンも!
そんなカリスマ性あるギメルの世界を、和光の提案による3つのテーマに沿って、時々はにかみながら穏やかな口調で語る穐原さんと、ユーモアを挟んで鋭く切り込む山口さん。30年近いお付き合いになるという名コンビによって紐解かれた、トークショーの様子をご紹介します。
■1:ギメルブランドの背景とは?
「ジュエリーは家業であったわけではなく、元々は絵を描くのが好きだったので、ファッションをしたかったのですが、はじめに志したFIT(ニューヨーク州立ファッション工科大学) はかなり難しいというので、ロサンゼルスのGIA(世界的な宝石学教育機関)で宝石学を学び、鑑定士の資格を取りました。
勉強している中で、本当に美しいダイヤモンドに出会いました。まだ物も少ない日本では、見たこともないものです。思いたったらすぐに行動してしまうので(笑)、その(ダイヤモンドを扱う)工場のあるニューヨークへ行き、日本へ紹介したいと交渉しました。
これが、ダイヤモンドのビジネスを始めるきっかけになりました。当時、まだ30歳で、どこに売り込んで良いのかわからず、和光とMIKIMOTOさんくらいしか知らず、ダイヤモンドを持って宝飾売り場へ。どちらも真摯に対応してくださりーー、いま思うと恥ずかしいのですが、そんなこともありました。
海外ブランドの製品は当時、本国には良いものがありますが、日本へ輸入されるものがよくなかったんです。そこで自分で制作し始め、それこそ10年売らずに試行錯誤をしたんですが、徐々に海外から評価され始めたんですね。
クリスティーズから出品依頼がき、サザビーズ、バーゼルーー、と続きました」(穐原さん)
「家庭画報の編集長と穐原さんを訪問し、編集長が大興奮したんですよね。うちで紹介しないと大変なことになるって。そこで8ページの特集が決まり、人気が全国区になったんですよね」(山口さん)
■2:クレージーなまでの、ものづくりへの想い
「うちは、職人が20名、従業員は全部で40名ほどの会社です。経験のある職人を採用しないのですが、それはすべてに時間がかかる(ギメルの)工程を省きたいような人とは、一緒にしたくないからなんです。
それから、社員には美味しいものを食べてもらい、同時に感性を磨いています。食事は感性を磨くのに大事なんです」(穐原さん)
「かけそばや菓子パンで食事を済ませていては、至高のジュエリーは作れない。ご飯をちゃんと食べない人は、100万以上もするジュエリーは作れないです。それから穐原さんは、業者が100個持ってきた宝石から2つしか選ばないようなクレージーさを持っています」(山口さん)
「素材選びは、真剣に考えています。宝石は高価なもので、それを時間を使って仕上げるのだから、中途半端は嫌なんです。材料に関しては世界一!と言っていいと思います。
お客様にターゲットはいないです。最後まで大事にしたい、と思ってもらえるものを、ただ作りたいんです」(穐原さん)
■3:真の価値を持つギメルのジュエリー、新作への想い
「日本に生まれたので、日本の豊かな自然を大事にしたいと持っています。それなので、いつもテーマは自然や動物。それから、持っていてちょっと笑ってしまうようなものも好きです。計画は特になく、好きなものを作っています」(穐原さん)
「穐原さんの六甲のアトリエの周りが、山桜系の素晴らしい桜に囲まれているんですよね」(山口さん)
日本人の想いを代弁するようなモチーフ、桜の話題から、トークの流れは、ギメルのジュエリーが日本人に相応しい理由について、に。
「使って楽しんで、周りに褒められて、不要になったら売却できるのが正しいジュエリーの在り方です。しかし、そんなジュエリーは日本にほとんどないんですよね。海外ブランドはアラブ人、ロシア人、中国人などをターゲットにしており、日本人向けに作られていないので、大きすぎます。
穐原さんのものは、はなから日本人のためのもの。だから日本人に合うんです。さらにサザビーズに持っていけば売れる。そういうブランドはギメル以外、日本にはないです。ギメルのジュエリーは価値があり、ユニークで根性が入っている」(山口さん)
「日本人の体型向けに作ってるわけではないのですが、自分が身につけたいものを作るので、直感的にサイズが日本人向けなのかもしれません」(穐原さん)
良い材料、良い技術で一生懸命作っている、とまっすぐにジュエリーに向き合う穐原さんが、価格帯や世相を考えず、身につける人が素敵にもっと輝けるジュエリーを作り続けたい、と語る様子に、真のアーティスト像を見たような気がしました。
さて、ここからは、トークイベントの後に、穐原さんが快く承諾してくださった、Precious.jpのインタビューの様子をご紹介します。
感性を磨く秘訣は「食事」!五感を研ぎ澄ます六甲山のアトリエ
Precious.jp編集部(以下同)――ギメルの作品が持つ、日本的な繊細さや色使いが印象的です。アメリカで学ばれていますが、デザインに影響はありましたか。
あまりないかもしれません。学校の課題で「ブリジット・バルドー」というテーマを与えられたことがあって、その際はペアのダイヤモンドのバングルで手錠のようになっており、ボーイフレンドと身につけるものをデザインしました。「愛の鎖」というタイトルを付けたかな?
もうひとつはラピスラズリといった半貴石を使って、彼女のニックネーム「BB(べべ)」のデザインをしたのですが、ロサンゼルスの博物館にものすごく昔のものですが、そっくりのものが。その時に人間の考えることは皆同じものを見ているので、一緒なんだな、とすごく感じました。ちょっとショックとともに。
それがあってから、それだったら自分なりのもの、要するに素材、それから技術は絶対に手を抜かない、と誓いました。表現の仕方はそれぞれですし、コピーされても気にすることなく、いつまでも大事にしてもらえるものを作れば良いのだと思っています。
――穐原さんのジュエリーは、植物のデザインがアイコニックですが、先述のブリジット・バルドーのように、人物を題材にされることはありますか?
特定の人、というのはないですが、新シリーズのフィギュアは躍動感や、つける方が楽しい、というのを大事にデザインしました。
あとは人ではないですが、犬もあります。私は屋久島犬を飼っているのですが、すごい特徴があって匂いがないんです。屋久鹿という小ぶりの鹿がいるのですが、その屋久鹿猟をする猟犬らしいんですよ。すごい跳躍力で元気がいいんです。
その子のほか、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアといって、ちょっとブルテリアのような犬も飼っています。
――トークイベントで、感性を磨くのに食事が大事、とおっしゃっていたのが印象的でした。
毎月社員の出張の予定なども踏まえ、好みのほか、旬のものを取り入れた食事の献立を立てています。アトリエは自然に囲まれた、山の中にあって、社員はシャトルバスで通勤しなくてはならないのですが、そんな環境に身を置くと、だんだん話題が変わってくるんです。季節や自然の移ろいなどを口にするようになるんですよね。そして(五感を磨く事で)第六感が働くようになるんですよ。
食事はとにかく大事です。私自身も食べることは大好きで、年に6回ほどの東京出張でも、いろいろ情報をいただいて、食事を楽しんでいます。
――Precious.jp読者におすすめの作品はありますか?
初期の頃からある作品なのですが、チューリップとミツバチのブローチを一緒につけるとかわいいですよ。ジャケットでも良いですし、ニットにも。
私自身はデイリーにはピアスとネックレスのみで、作業をするのでリングはつけません。自分でするのはシンプルなものが実は好きだったりします。
トークイベントとインタビューを通して、穐原かおるさんの穏やかな佇まいの裏に秘めた、ジュエリーへのパッションを垣間見ることができました。その生真面目な職人気質は、社員の方に対する様子にも表れていますよね。
<イベント詳細>
- ギメル展ー桜の詩ー
- 会場/和光 本館 6階 和光ホール
- 時間/11:00~19:00(最終日は17:00まで)
- 会期/2020年3月29日(日)まで(※3月27日をもって終了)
- 住所/東京都中央区銀座4丁目 5-11
※掲載された商品の価格はすべて税抜です。
問い合わせ先
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 神田朝子