どんな職種でも人と関わる以上、コミュニケーションのスキルは必要不可欠。自分が上司の立場なら部下との接し方にも気を配らなくてはなりませんよね。仕事を円滑に進めるうえで、部下との人間関係を築くことは、重要な業務のひとつといえるでしょう。
部下に対する指導や作業の指示といった業務上のコミュニケーションに限らず、ふとした日常会話やちょっとした相談に乗ってあげることも、上司の大事な仕事です。そんな部下との会話をするとき、相手の気持ちをよく考えず、自分本位でしゃべって満足してしまっていませんか?
『その聴き方では、部下は動きません。』の著者である岩松正史さんは、「相手の気持ちがわからないまま問題解決に当たるのはいけません」と注意喚起します。
「誰かの相談に乗り、相手が抱えている問題を解決するためには、まず相手の気持ちを理解することが大切です。なぜなら、たとえ同じ事柄であっても、感じ方は人によって違うから。
そのため『そういうときは、こうするとうまくいく』『私ならこうする』といったケーススタディが、相手には当てはまらないということは多々あります」(岩松さん)。
このように、自分ではよかれと思ってしたことでも、部下にとってはためにならない、ということが往々にしてあるのです。以下で紹介する、上司がやってはいけないコミュニケーション術を参考に、部下の気持ちを受け止められる素敵な上司を目指しましょう。
だから部下が動かない!上司がしてはいけないNGコミュニケーション術5選
■1:自分の意見を押しつけるのはNG
誰かの話を聞いていると、ついつい自分の意見を言いたくなるときがありますよね。ときには反対意見で、相手を言い負かそうとしてしまうなんてことも……。仲良しの友人やご家族との雑談ならともかく、相手が部下の場合は自分の意見を押しつけてはいけません。
「コミュニケーションスキルとしての傾聴では、話し手の気持ちを理解することに重きを置いた関わり方をします。その人の感覚や思い、価値観を理解するためには、『答えは自分(話し手)の中にある』『問題を解決するのは本人』という考えに基づいた傾聴が役立つのです。
相手の価値観を認めず、自分の意見を押しつける姿勢で接してしまっては、人間関係が壊れて当然。働き方が多様化している現代だからこそ、一方的な決めつけで物事を進めないほうが、人間関係がうまくいくでしょう」(岩松さん)
部下とよりよい関係を築きたいなら、まず相手の気持ちを理解することが必須。たとえ善意があったとしても、自分の意見やアドバイスを押しつけるのはやめましょう。
■2:沈黙を恐れてしゃべり続けるのはNG
一対一でも複数名でも、会話のなかでふと、言葉が途切れる場面はよくあります。こういった沈黙がどうも苦手…という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし岩松さんによると、沈黙は問題解決につながる気づきを発見するための大切な時間。そのため、たとえ会議の場であっても沈黙を埋めようと、無理にしゃべり続けてはいけません。
「私が15年前から行なっている『沈黙が苦手な人がどれくらいいるか』のアンケート調査の結果では、沈黙が苦手な人はおよそ5割。意外に多いと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、相手を理解するには、自分の内面を見つめている沈黙に、黙って付き合うことも必要です。
沈黙にはやぶっていいものと、やぶってはいけないものがあります。何を話していいかわからず困っている沈黙は、やぶってあげるのが親切。部下がこちらをチラチラ見て顔色を窺っているようなら、話しかけてあげましょう。
一方で、視線が少し上または下を向いているとき、あるいはどこか一点を見つめているように見えるときの沈黙は、自分の内面を見つめて考えている状態なので、沈黙をやぶらず黙っていてあげてください」(岩松さん)
どうしても沈黙が苦手という人は、その場にいる人たちが黙ったときに、自分はしゃべらず周りの人を観察することを心がけてみましょう。ポイントは、自分以外の話し手を観察すること。先に口を開いたら負け、という具合にゲーム感覚で取り組むのがおすすめです。
■3:相手の話を自分視点で捉えてしまうのはNG
誰かの話を聴くとき、知らず知らずのうちに「私だったらこうする」というように、自分視点で捉えて解釈することは誰にでも経験があるはず。
また、相手の話に「私もそう思う」と同調することも多いのではないでしょうか。ところが、相手の気持ちを深く理解するには、自分視点で捉えるだけでは不充分。「この人ならどうするか」「この人はどう思うか」という相手視点で捉えることが大事です。
「過去に自分が経験したことや得た知識を、相手が話す内容と照らし合わせて共通点や相違点を見つけることを『同感』と呼びます。例えば、『私も同じ経験をしたことがあるから、その気持ちがわかる』という具合です。
また『私とは意見が違うな』というのも、同感するかしないかということなので、これも同感。賛成・反対を問わず、『私』を中心にして感じている状態はすべて同感です。
反対に、相手(話し手)が感じている事実を100%認める、つまり『話し手』を中心にして聴くことを『共感』(心理学的には『共感的理解』)と呼びます。
例えば、『あなたはこう感じている』『あなたにとってはこういう意味がある』というように、相手の感じ方を理解する、あるいは理解しようとすることが共感です。
傾聴のときの基本は、同感ではなく共感で聴くこと。同感を感じても構いませんが、同感を使わないことを心がけてください」(岩松さん)
自分と似たような体験をしていても、相手が感じていることは自分と同じではありません。むしろ同じであるはずがない、くらいの姿勢で接することが理想的です。
■4:相手の気持ちを無視して事柄ばかり聴くのはNG
いつ(When)、どこで(Where)、誰が(Who)、誰に(Whom)、なぜ(Why)、何を(What)、どのように(How)、どのくらい(How much)という6W2Hで表すことができるものを事柄(事実)といいます。このような事柄について、その人が感じていることが気持ちです。
部下の話を聴くとき、ビジネスシーンだということもあって事柄を重視して聴いてしまう人が多いかもしれません。が、部下の気持ちをしっかり汲んであげることも大切です。
「ビジネスにおける問題解決では、気持ちの問題を解決することが必要です。ただし、気持ちは単体で存在するのではなく、必ず事柄とワンセットになっています。
例えば、購入したばかりの商品が壊れていたとき、商品が壊れていること=事柄。その事柄に対してお客様が怒っている=気持ちです。人は、この気持ちが解決されたときにはじめて問題が解決したと感じます。
部下とのコミュニケーションでも同じで、話を聴くときは、気持ちの問題を解決するつもりで聴かなければいけません。一般的に気持ちを表す言葉として、嬉しい、楽しい、悲しいなどの形容詞が思い浮かぶでしょう。
しかしビジネスシーンで使う傾聴では、形容詞で表される気持ちだけでなく、助詞や副詞などの『意味や価値を表す気持ちのワード』がより重要です。
例えば、部下が『長年苦労してやっとこぎつけた契約だったので、すごく嬉しいです!』と言ったとします。このとき上司がただ『嬉しいんだね』と形容詞だけ繰り返すと、ちょっと味気ない印象です。
そこで『やっとだったんだ。それはすごく嬉しいでしょう!』というように、言葉の端々についている気持ちを表現するワードを加えると、相手の気持ちを聴き取っていることが伝わります」(岩松さん)
形容詞だけ繰り返すのではなく、助詞や副詞も含めて応答してあげると、理解度の重さが変わるので、ぜひ実践してみてください。
■5:安易に「わかった感」を出すのはNG
自分の悩みや不満を誰かに聞いてもらうとき、素直に同意してもらえるとちょっと安心できるもの。だからといって、自分が聴き手にまわったときに、なんとなく理解できているような反応をしてしまっていませんか?
上司がそういった「わかった感」を出してしまうと、部下はそれ以上自分の悩みを話しにくくなるので要注意。
「聴き手である上司が部下の気持ちに寄り添えないまま『わかるわかる、要するにこういうことでしょ』などと安易にわかった感を出すと、部下は気を遣って表面的にはスッキリしたような素振りを見せるでしょう。
しかし心の中では距離を置かれてしまう可能性があります。
また、悩みや困りごとを聴いているときに『それでもあなたは頑張っているよ』といったポジティブな返しをしてしまうのもいけません。なぜなら、部下のモヤモヤとした気持ちを深く理解するためには、聴き手も一緒にネガティブな気持ちを受け入れる必要があるからです。
それができれば、その人にとって何が問題なのかを理解することができるでしょう」(岩松さん)
ネガティブな気持ちを抱えた部下に対して、少しでも励まそうとわかった感を出したり、ポジティブな言葉をかけたりしたくなるのはわかりますが、それだけでは相手の気持ちを正確には理解できません。相手と一緒になってネガティブに沈む時間も必要だと心得ましょう。
話し手を中心にして聴く「共感」は、相手の価値観を認めること。ですから、相手を否定することはなく、自分にウソをつく必要もありません。つまり共感力が身につくと、他人の話を聴くのがラクになるということです。
部下の話をきちんと聴くのは難しそう、大変そうと感じるかもしれませんが、自分のためにもなると考えて、前向きにチャレンジしてみてくださいね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 上原 純