職場で部下を抱える立場になると、大なり小なり頭を悩まされるのが、部下の指導の問題。近年、転職に対するハードルが下がったこともあり、若手の社員は特に、ひとつの企業に定年まで勤めようと考える人は減少傾向にあるといわれています。
このように、ひと昔前までの労働に対する価値観が今の社員に当てはまらなくなっているなか、指導方法は昔のまま…なんてことになっていませんか?
「少子高齢化による人手不足や社員のメンタルヘルスケアなどの問題から、現代の企業では人の管理の重要性が高まっています」と語るのは、『その聴き方では、部下は動きません。』の著者である岩松正史さん。
「社員により長く勤めてもらうためには、社内環境をよくすることが欠かせません。そこでリーダーや上司には、社員の気持ちを理解し、必要に応じてケアをするスキルが求められているのです」
部下は命令通りに働くロボットではなく、心をもった人間ですから、理屈よりも感情で動きます。そのため、人の気持ちに寄り添えるリーダーや上司は、部下からの信頼を得やすいといえるでしょう。
以下では、上司が部下に対してやってはいけない、ダメな指導法を紹介します。もし心当たりのある項目があったら、すぐに改善することを心がけてください。
あなた自身が変われば、相手の反応も自ずと変わってくるはずです。
上司が部下に対してやってはいけない指導法5選
■1:頼まれてもいないアドバイスをするのはNG
部下の指導は、上司の大事な仕事のひとつ。ということで、部下のためを思ってあれこれアドバイスをしてあげたくなるところですが、ただこちらの言いたいことを伝えるだけではいけません。頼まれてもいないアドバイスをしてしまうと、かえって部下の信頼を失い、相談相手として選ばれなくなる可能性があります。
「部下から質問や相談をされたとき、相手のモヤモヤした気持ちを理解しないまま『私の場合は~』とアドバイスを始めたり、『それもあるけどさ~』と否定したりすると、部下は自分のモヤモヤを話しにくくなります。
ビジネスシーンにおいて、気持ちや感情は不要と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、それは誤り。人間は気持ちの問題が解決されない限り、直面している問題が解決したと感じられません。
アドバイスをする前に、まずその人がどのような悩みや困難を抱えているのかを理解し、相手のネガティブな気持ちを共有してあげる必要があるのです」(岩松さん)
困っている部下のことを思ってアドバイスしたくなるのもわかりますが、それよりも相手のネガティブな気持ちを汲んであげることが先。相手の気持ちが理解できれば、独りよがりのアドバイスをしてしまうリスクは減るでしょう。
■2:相手の「モヤモヤしたYES」を見過ごしてしまうのはNG
誰かに質問されたとき、自分の回答に自信がないと、どうしても歯切れの悪い返事になってしまいますよね。
部下の指導をする場面で、相手から「たぶん……大丈夫だと思います」「とりあえず……やってみます」といった、モヤモヤしたYESが返ってきた経験はありませんか? これは相手がまだ話の内容や、やるべきことを理解できていないというサインなので、見過ごしてはいけません。
「こちらから何かを伝えたあとは、相手がきちんと理解できたのかどうか、反応をしっかり確認することが大事です。質問に対して『はい、大丈夫です』『いいえ、わかりません』といったハッキリとした返事が来れば、相手の気持ちをすぐに理解することができます。
しかし『だいたいそうです』『そういう面もあります』など、モヤモヤした返事のときは、たとえYESであってもそのまま話を進めずに一旦立ち止まって、相手のモヤモヤした気持ちを尋ねてみてください。
例えば、『だいたい、というのは?』『そういう面も、というとほかにも何かある?』など、モヤモヤした気持ちが出ている部分を直接尋ねるのがおすすめです。相手のモヤモヤの中身を掘り下げることで、的外れな意見やお互いの勘違いを減らせるでしょう」(岩松さん)
あとになってきちんと意図が伝わっていなかったことが発覚したり、やり直しが生じたりすると、結果的に効率が悪くなってしまいます。急がば回れという言葉があるように、部下のモヤモヤに気づいたら、よくわからない点をきちんと掘り下げてあげてください。
■3:「わかった?」とよく訊くのはNG
自分が新人だったころ、上司や先輩に「わかった?」と訊かれて、反射的に「はい!」と答えてしまったことはありませんか? また、本当はよく理解できていないけれど素直にわからないといえず、わかったフリをしてごまかしてしまった、なんてことも……。
上司から「わかった?」と訊かれると、部下は「わかりません」といいにくくなるので気を付けましょう。
「相手が話を理解できているか確認するときは、原則として『わかった?』は禁句です。本当に理解しているかどうかを確認したいなら、伝えた内容を口で復唱してもらいましょう。
スッキリと説明できれば、きちんと記憶されている証拠。逆に、どこかモヤモヤしたり、引っかかったりしているときは、その部分が理解できていないということなので、もう一度確認し直してください。
自分の口でアウトプットさせることで、記憶を定着させる効果もあります」(岩松さん)
この方法は、仮に「わかった?」と訊いてしまったあとでも利用可能。「いまの内容がきちんと理解できているか確認したいから、もう一度最初から言ってもらえる?」などと尋ねれば、部下の理解度をチェックできますね。
■4:気持ち(感情)を持ち出して責めるのはNG
部下を叱るべきときに、思わず感情的になってしまったり、その人が過去にした失敗を掘り返したりして責めてしまうことはありませんか。人間、誰でもイライラしてしまうことはありますが、事柄(部下の失敗やミスなどの事実)と感情(気持ち)を混ぜて叱ってはいけません。
事柄と感情はしっかり分けて考える必要があるのです。
「例えば、遅刻を繰り返す部下がいた場合、まずはその人の気持ちを聴くことから始めます。また、今までに繰り返した遅刻の回数などの事柄もしっかり確認しておきましょう。あらかじめ記録や履歴を残しておくのがおすすめです。
初めに『本当はどうありたいと思っているのか』『遅刻を繰り返していることについて、どう思っているのか』など、本人の気持ちを聴きます。ポイントは、聴くことに徹して相手が感じていることをそのまま受け入れること。くれぐれも質問攻めにしたり、欠点や改善点を指摘したりするのは控えてください。
お互いに気持ちを共有できたら、それ以上は気持ちのことを聴かず、事柄について対応します。事柄の問題を解決する段階で気持ちの問題を持ち出すと話がややこしくなるので、『こうしてくれるだろうと期待していたのに』『あまりにもひどすぎる』といった、聴き手の気持ちを伝える必要はありません。
気持ちを共有したあとは、例えば『〇月〇日に面談した際に、今度同じことがあったら今の仕事を外れてもらうと伝えているので、今回そのように進めざるをえません』などと、事柄だけを伝えましょう」(岩松さん)
大切なのは、部下の気持ちをしっかり受け止めたうえで、事柄を伝えるときには気持ちの問題をもち出さないことです。事柄に関する記録(証拠)を取っておくこともお忘れなく。
■5:「○○してはいけない」という禁止語を使うのはNG
口にしたことが現実になる「言霊」という言葉を聞いたことがある人は、多いのではないでしょうか。心理学の分野でも、普段の思考や口癖がその人自身に影響を及ぼすと考えられています。
これと同じで、部下を指導する際に「○○してはいけない」といった禁止語を使うと、部下はやってはいけないことを強くイメージしてしまい、逆に失敗しやすくなってしまうのだとか。
「ロンドン大学の心理学者ジェームズ・アースキンによる研究が、『何かを考えないようにすると、よけいにそのことを考えてしまうだけでなく、考えてはいけないと思っている、まさにそのことをやってしまう』ことを明らかにしました。つまり『○○してはいけない』という禁止語による指示は逆効果ということです。
そこで、悪いことをなくそうとする代わりに、よいことを増やしましょう。具体的には、部下を褒める回数を増やしてください。褒める回数を増やす努力をすると、結果的に叱る回数が減る、あるいは減っていなくても気にならなくなります」(岩松さん)
ダメなことを減らそうとするのは、かえってダメなことを意識してしまうのでNG。「禁止語を使っちゃダメ」と考えるのではなく、よいことを増やすために「もっと褒める回数を増やそう」と心がければ、現実もよい方向に向かっていくはずです。
部下を上手に指導して信頼関係を築ければ、職場の環境がよくなるだけでなく、仕事の効率もアップするでしょう。ぜひ実践できるものから無理なく取り入れてみてください。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 上原 純