新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるい、日本でもついに緊急事態宣言が発令されるまで事態は深刻化しています。連日、感染に関するニュースが流れ、不要不急の外出が制限されるなど、重苦しい空気が続いており、ストレスや気分の落ち込みを感じている人は多いのではないでしょうか?

そこで、今回は、精神科医の西井重超さんから、新型コロナ流行下でのメンタルの不調に対処する方法についてお話をうかがいました。

新型コロナ流行下での「メンタルの不調」に対処する方法5選

■1:不安だからこそ今できることを考える

不安なのは「慎重」である証拠
不安なのは「慎重」である証拠

コロナ騒動がまったく収束する兆しがなく、「もしも自分や家族がかかってしまったら?」「これから一体どうなってしまうのだろう」など、日々、不安やストレスを募らせている人は多いはず。少しでも心穏やかに過ごすために、気持ちをどう切り替えればいいのかについて、西井さんは以下のようにアドバイスしています。

「不安・心配は一概に悪いものとも言い切れません。つい不安になってしまう、心配性なのは、見方を変えれば慎重だからこそとも言えます。不安や心配をただ否定的にとらえるのではなく、『今は慎重な方がいいんだ』というふうに気持ちを切り替えましょう。

というのも、『自分はコロナにかかるはずがない、死ぬはずがない』と楽観視している人とくらべて、『自分や家族が新型コロナウイルスにかかるのではないか』と思っている人のほうが、より安全な行動をとれるのではないでしょうか?

今は、その慎重さを有効に使って、日々安全に過ごすことが第一です。

また、『これから一体、どうなってしまうのだろう』という先行きに対する不安も、ただ『不安だから何も手につかない』で終わらせるのではなく、『不安だからこそ今できることはないか』と現在の状況を受け入れたうえで、問題を解決する方向にシフトできればよいかと思います」(西井さん)

健康問題にせよ、経済問題にせよ、ある日、突然、最悪の事態を迎えるよりも、さまざまな可能性を予測してそれに備えておくほうが、よほど健全といえそうですね。ネガティブな感情を無理に抑え込もうとするのではなく、“不安、心配だからこそできること”に目を向けましょう。

■2:公的な情報以外はなるべくスルーする

情報は適切に取捨選択する
情報は適切に取捨選択する

テレビや新聞、ネットメディアでは、今はコロナ関連の話題がもちきりです。また、SNS上でも次々と情報が流れてきて、不安を煽られている人は多いのではないでしょうか? こうした状況において、情報は本当に正しいものかどうか選別することが大切なようです。

「不安が強ければ強いほど、人は騙されやすくなるもの。改ざんされた情報、虚偽の情報に振り回されないように要注意です。厚生労働省の公式サイトなどから、正しい情報を手に入れましょう。

今は、無資格であっても『私は専門です』、『私は詳しいです』と、紛らわしいアピールをしている人もいます。また、医師の資格があっても無条件に信頼していいわけではありません。医師のなかでも、感染症や呼吸器や公衆衛生の専門医の資格を持つ人からの情報がより確かだといえます。

また、Web検索する際には、たとえば“コロナ 症状”など調べたいことだけを入力するのではなく、“厚生労働省 コロナ 症状”というように調べる癖をつけるといいでしょう」(西井さん)

■3:身近な人に対する感謝や、いたわりの気持ちを忘れない

自分が辛いときほど相手に与える
自分が辛いときほど相手に与える

平日は在宅勤務、休日は自粛要請で、家で過ごす時間が長くなっています。これに伴い家庭内でのトラブルが増えており、“コロナ離婚”なんて言葉もメディアでささやかれているほど。

コロナ騒動下において、身近な人との関係を壊さないためにはどうすればいいのでしょうか。

「危機的な状況だからこそ、『こんなときに一緒にいてくれてありがとう』、『心配だからゆっくり休んで』と、と、相手をいたわりながら一緒に乗り越えることが大切です。

仏教説話にもなっている『天国と地獄の長い箸』という話があります。

食事には長い箸を使うというルールがあった場合、地獄の人々はその長い箸で食べ物を自分の口に運ぼうとしますが、箸が長くてうまく食べられません。一方で、天国の人々は、その長い箸を自分の口に運ぶのではなく、別の人とお互いに食べさせ合うので、食べ物を食べることができるというお話です。

自分の欲を満たすことばかり優先するのではなく、相手のためになることをお互いに心がければ、双方にとってハッピーな結果になるのではないでしょうか?

逆に、こういう状況で避けたいのは、『私がこんなに辛いのに』、『私はこんなに頑張っているのに』などと、自分の感情や都合を相手にぶつけてしまうこと。人間関係がギスギスしているときは、相手のせいにするのではなく、自分中心になってしまっていないか、ぜひ日常を振り返ってみましょう」(西井さん)

■4:朝起きたらまずカーテンを開ける

室内になるべく日光を取り込む
室内になるべく日光を取り込む

緊急事態宣言が発令されたこともあり、在宅勤務の人が増えています。一日中、自宅にこもることはメンタルに悪影響を及ぼしそうですが、どう対処すればいいのでしょうか。

「運動はうつを改善させるという研究もあり、自宅でできる範囲でストレッチや運動を行うことをおすすめします。

また、カーテンを締め切った部屋で一日過ごすと、睡眠に影響することもありますので、起きたらカーテンを開けたり日光を浴びたりして生活リズムを整えましょう」(西井さん)

■5:自宅で楽しむ方法を見つける

今しかできない楽しみ方も?
今しかできない楽しみ方も?

人が集まるイベントは軒並み中止。不要不急の外出もままならぬ自粛モードにおいて、ストレスがたまっている人は少なくありません。ただ、外出できなくても、自宅で楽しむ方法はいくらでもあるようです。

「自宅外でのイベントの中止が相次ぐ一方、Webでのイベントは増える傾向にあります。好きな著名人を検索してみたらWebイベントが開催されていたりするので、おうちでの新しい楽しみ方を見つけてみるのはいかがでしょうか?

今は日々余裕がなくて笑顔が減っている毎日だと思います。自分が笑顔になれることがなんだったかを思い出して、それに近づくように今までの日常をアレンジしていくのもいいかもしれませんね」(西井さん)

今はゆったり外食する機会も制限されていますが、その分、デリバリーに力を入れる飲食店は増えています。また、Webでは期間限定で無料配信されるコンテンツが充実するなど、考えようによっては“今しかできない楽しみ方”があるかもしれませんね。

【Precious.jpでご紹介している『おうちで楽しむアイディア』はこちら】

新型コロナウイルスの流行がいつ収束するか、正確に見通しを立てることはできません。そうした外側の状況と違って、自分の気持ちのコントロールは自分しだいという面もあります。この局面を乗り切るためにも、ぜひ今回ご紹介した方法を日々、実践してきましょう。

西井重超さん
精神科医
(にしい しげき)精神科専門医・指導医、産業衛生学会専門医。産業医大精神科教育医長、パナソニック専属産業医・次長を経て、現在はたらく人・学生のメンタルクリニック院長。就労者の精神疾患とADHDが専門。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』がある。
はたらく人・学生のメンタルクリニック
この記事の執筆者
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WRITING :
中田綾美