女性リーダーたちの活躍がめざましい。指導者に男女の区別はなく、世間で注目されているジェンダーレスでもLGBTでも、能力さえあれば誰にだって資格があると思う。

だが、今ここにある「COVID -19(新型コロナウイルス)の脅威」に関して、強い危機意識をもって国民を守ろうとする姿勢と行動力は、圧倒的に女性リーダーたちの取り組みが素晴らしい。的確かつ迅速、そしてその結果、目覚ましい成果を上げている。

今回は、これからの時代を切り開くヒーローとして、5名の元首の取り組みをクローズアップしていこう。

その挙動に世界から注目が集まり、支持されている女性リーダー5人

■1:【ドイツ】アンゲラ・メルケル首相

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ドイツのアンゲラ・メルケル首相

ドイツのAngela Merkel(アンゲラ・メルケル)首相の国民に対するテレビ演説での真摯な呼びかけは、国民の心を打った。「東西ドイツ統一以来、いや第二次大戦以来の試練だ」として、西ドイツへの移動が制限されて、東側で育った自らの経験を踏まえて「移動や旅行の自由を勝ち取った、私のような者にとって、こうした制限は絶対に必要な時にだけ正当化される」。そして、他者との接触を減らすことの大切さを繰り返し語った 。

国境閉鎖などの強行措置も理解され、危機的状況において頼れる指導者として、4月に入って支持率も64%と急増し、ここ数年での最高値を記録している。「アンゲラ・メルケル」は言うまでもなく、ドイツ史上初めての女性首相である。

■2:【中華民国】ツァイ・インウェイ総統

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中華民国のツァイ・インウェイ総統

中華民国初めての女性総統の蔡 英文(ツァイ・インウェイ)も、WHOとは異なる独自の政策を早急に押し進め、世界各国が拡大防止に追われるなか、医学やITに長けた適材適所の閣僚の活躍で、4月中旬には死亡者ゼロという快挙を成し遂げ、今や世界の称賛の的である。

ツァイ・インウェイ総統の右腕として活躍する「ITの神」>オードリー・タン大臣

なかでも、脚光を浴びているのは、IT担当の政務委員(閣僚級)の唐 鳳(オードリー・タン)大臣だ。幼い頃からコンピュータに親しみ、中学を中退し以降独学で学び、19歳でシリコンバレーでソフトウエア会社を起業した。台湾の行政サービスをIT化させるための抜擢だが、「マスク配布システム」など実用的で簡便なプログラムを次々と打ち出し、国民に貢献した。

「天才プログラマー」と謳われるオードリーは、性同一性障害で2005年から女性に性転換した。「だから現実を遮断し、ネット上で生活してきた」と述べているが、LGBTを当然のことと受け入れ、登用したツァイ・インウエイの功績でもある。

■3:【ニュージーランド】ジャシンダ・アーダーン首相

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ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相

新型コロナウイルスの対応において最も評価が上がったのが、ニュージーランドのJacinda Ardern(ジャシンダ・アーダーン)首相だ。首相として初めて育児休暇を取る、国連の会議にも子連れで出席する、という先進ぶりで話題になったが、政治手腕もスピード感にあふれている。

ジャシンダ・アーダーン首相の垢抜けたお仕事スタイルは「ピンク&赤」がキーワード

感染による死者がひとりも確認されていない3月25日からロックダウンを始め、他国が「封じ込め」を目標にしているのに対し、「根絶」を目指すと言う警戒レベルの高さを、明確なメッセージで国民に共有した。

ジャシンダの政治的特徴は、コミュニケーション能力をフルに生かし、科学的知見を重視した政策を取り、経済よりも国民の安全と健康を優先したことだ。各家庭に新型コロナウイルスに対するわかりやすいペラ一枚の手引書を送り、「何をしても良くて、何がダメなのか」を、子供でもすぐに確認できるよう気遣った。

また、Facebookで定期的なライブ配信を行っていることでも話題に。

国家非常事態を宣言した3月25日の夜には、「カジュアルな格好ですみません。赤ちゃんを寝かしつけるのが大変で」と、スウェット姿で登場。寄せられた質問に対しても、ひとつひとつわかりやすく丁寧に答えたが、決して事態を過小評価しなかった。

この誠実な態度と理にかなった発言を、国民は信頼したのだ。すでに効果を上げ、4月末から都市封鎖を解除し、いち早く経済活動を一部再開する予定だ。

■4:【フィンランド】サンナ・マリン首相

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フィンランドのサンナ・マリン首相

世界最年少の34歳という若さで就任した、フィンランドのSanna Marin(サンナ・マリン)首相の行動も素晴らしい。死亡者が確認されない早期から非常事態宣言を発令し、出入国禁止、公営施設の閉鎖、教育に関しては早々にEラーニングに転換したが、保育や業務上就業が必須とされる親の子供だけのための教育機関のみ継続させるなど、きめ細やかに手を打ち、国民の健康面だけではなく、経済活動も損なわないような手腕に国民の支持率は上昇。4月中旬の政策支持率は85%にも登っている。

ニュースを読まない層に対しては、SNSを素早く活用し発信。さまざまな年齢層のインフルエンサーに対して、感染拡大防止に向けた正しい情報発信を要請している。

ちなみにサンナ・マリン内閣は19人のうち12人が女性閣僚という、ジェンダー平等を掲げる最先端の内閣でもある。長女を出産したばかりだが、この非常事態の下で仕事と育児を両立させている、パワフルウーマンのひとりだ。

■5:【シント・マールテン】シルベリア・ヤコブス首相

カリブ海に浮かぶ小国の島国ではあるが、オランダ領シント・マールテンの国家元首Silveria Jacobs(シルベリア・ヤコブス)首相の国民への二週間の外出禁止を国民に呼びかける「STOP MOVING!」と訴えかける動画は、妥協を許さない姿勢が評判を呼び、世界中に拡散された。

「好きな種類のパンが家にないなら、クラッカーを食べなさい。パンがなければ、シリアルを食べなさい。オートミールを食べなさい」(CNN.co.jp)

この迫力が、国民の心をひとつにしたのだ。

世界の「女性リーダー」が新時代を築く

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左から、ノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相、アイスランドのカトリーン・ヤコブスドッティル首相、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相

他にも、ノルウェーのErna Solberg(エルナ・ソルベルグ)首相、アイスランドのKatrín Jakobsdóttir(カトリーン・ヤコブスドッティル)首相、デンマークのMette Frederiksen(メッテ・フレデリクセン)首相など、優秀な女性元首は着々と成果を見せている。

これら若い女性リーダーに共通しているのは、いち早く危機意識を持ち、先んじて冷静で的確な指示を出しているところだ。忖度や過度な慮りなどはなく、迷いのない決断である。

また、危機管理において、めざましい成果をあげている要因のひとつが、国民への科学的知識に基づいた語りかけと透明性のある情報公開だ。施政者として、実に勇気ある誠実な態度といえる。「謎の強烈なウイルス」についてわかっていることは少ない。だからこそ、説得力のある説明をして国民の共感を得ることで、国全体が一丸となって進めるのではないだろうか。

ノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相やデンマークのメッテ・フレデリクセン首相は「子供記者会見」を開催

子供や弱者に対する平易な語りかけも素晴らしい。国民を優しく慈しむ、シンプルで人間味あふれる態度。そしてハイテクの活用に優れている。ノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相やデンマークのメッテ・フレデリクセン首相は、異例の子供記者会見を行ったことでも話題を集めた。これからの時代を担っていく「若者を大事にする社会ならでは」の取り組みは、まさに21世紀のリーダーとしての資質にふさわしものではないだろうか?

新型コロナウイルスが終焉した暁には、時代の様相が一変しているであろう。すでにダイバーシティーやサステナブルの潮流の流れのなかで、20世紀的なグラスシーリングは破れ、これまでの常識は通用しない基準が出現しているはずだ。

現在はわずか7%(国連加盟国193か国のうち女性元首や首脳は21か国)の女性リーダーだが、今回危機管理能力の高さで、クリーンさと聡明さ、実力を実証する絶好の機会となった。

未来を切り開く女性リーダーの、心に響く格言ふたつ

女性リーダーたちの発言のなかから、心に残った言葉をふたつ紹介しよう。

若さを問われたとき、サンナ・マリン首相(フィンランド)は

「年齢やジェンダーについて気にしたことはない。考えるのは、自分が政治家になった理由と、有権者は私たちに何を託したのかということ」

そして、ジャシンダ・アーダーン首相(デンマーク)は、公の発言のほとんどを、次のようなメッセージで締めくくっている。

「強く、そしてお互いに優しく」

年齢や性別、個性を寛容に受け止める優しさがあってこそ、確かな強さが生まれてくる。きっと新しい時代へのマイルストーンになることであろう。今は、新型コロナウイルスの危機が1秒でも早く去ることを祈るばかりである。

この記事の執筆者
1987年、ザ・ウールマーク・カンパニー婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
PHOTO :
Getty Images
WRITING :
藤岡篤子
EDIT :
石原あや乃