キュレーターの林 綾野さんが、大人の女性におすすめしたい展覧会は『ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』。リニューアルして新たに生まれ変わる美術館そのものに加えて、記念展となる展覧会について、さっそく、その内容を詳しく見ていきましょう。
「生活の中の美」を存分に味わえる、サントリー美術館のリニューアル・オープン記念展Ⅰ『ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』
サントリー美術館の歴史は古く、その開館は1961年に遡ります。当時丸の内にあった美術館は、1975年に赤坂見附に移転。2007年には現在の「東京ミッドタウン」に移りました。そして昨年11月からの改修工事を終え、このたびリニューアルオープンします。
最初の展覧会となる『ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』では、美術館の基本理念である「生活の中の美」を主眼に、着物や装飾品、鎧や兜、絵画まで多彩な作品を展観します。装い、祝祭、宴、異国情緒と3章仕立ての展示室には、国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》(鎌倉時代)や《七宝飾花形鉄製銚子》(江戸時代)、重要文化財でもある《泰西王侯騎馬図屛風》(桃山時代〜江戸時代初期)など、同館所蔵の名品がずらりと並びます。
さらに本展では山口 晃や深見陶治など、現代の作家の作品も登場。現代アートと名品たちがコラボ展示されます。
なかでも目を引くのは、江戸時代の屏風絵《誰が袖図屛風》と、現代と古典を混在させた作品を描いてきた山本太郎の《熊本ものがたりの屛風 女性のハレの日金屛風》。
《誰が袖図屛風》
《熊本ものがたりの屛風 女性のハレの日金屛風》
いくつかの衣装がかけられた屏風と衣桁を描く《誰が袖図屛風》は、そこに掛けられた衣裳を愛で、もち主の面影を偲ぶというもの。
一方、《熊本ものがたりの屛風 女性のハレの日金屛風》は作者の故郷である熊本で、2016年に震災被害にあった「森本襖表具材料店」の屏風に描かれています。
山本は熊本に暮らす人々に思い出やそれにまつわる品々などを募り、それらをモチーフに屏風を複数製作し、2018年に《おもかげものがたり》として発表。婚礼の日の衣装が描かれる本作は同シリーズの1点です。
人物ではなく、衣装のみが描かれた両作。もち主の暮らしや趣向、境遇や気持ち。観る者にさまざまなことを想像させます。サントリー美術館所蔵の名品を新たな眼差しで見つめ、今を生きる現代作家の息吹を感じることができる展覧会ではないでしょうか。
Information
- 『ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』
- サントリー美術館が改めて基本理念である「生活の中の美(Art in Life)」に立ち返り、記念すべきリニューアル・オープンの第一弾とした展覧会。酒宴で彩られた調度品や「ハレ(=非日常)」の場にふさわしい着物や装飾品、異国趣味の意匠を施した品々を展示する。また、山口晃をはじめとする、古美術に造詣の深い現代作家と所蔵作品をクロスさせた特別展示など、新しい試みも見逃せない!
- 会場/サントリー美術館 ※開幕延期。開催期間の詳細は展覧会公式サイトで。
- 開館時間/10時〜18時(金・土は20時まで)※いずれも入館は閉館の30分前まで。火曜日休館
- 観覧料/一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
- 住所/東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
- TEL:03-3479-8600
- ※作品保護のため、会期中展示替を行います。
- TEXT :
- 林 綾野さん キュレイター・アートライター
- PHOTO :
- サントリー美術館、草彅裕、YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery
- WRITING :
- 林 綾野
- EDIT :
- 宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)
- TOP写真 :
- 《誰が袖図屛風》六曲一双のうち左隻 江戸時代 17世紀 サントリー美術館