「朝を制する者は1日を制す」といいますが、朝のスタートダッシュが苦手で、午前中になかなかエンジンがかからず、そのままグダグダな1日を過ごしてしまう……という人は多いのではないでしょうか? 実はそれ、あなたの気合いが足りないのではなく、朝の過ごし方に問題があるのかもしれません。
作業療法士(リハビリテーションに関わる医療従事者)の菅原洋平さんによれば、朝目覚めてすぐの行動、そして、朝一番に職場(リモートワーク含む)で何をするのかが、その日1日のコンディションに大きく影響するようです。そこで菅原さんから、できれば朝には避けたい「NG行動」について教わりました。
仕事の効率を下げる!朝にしない方がいい行動6選
■1:朝起きてすぐに朝日を浴びないのはNG
リモートワークで自宅にこもりがちな人が特に注意すべき点が、これ。起床後、頭がずっとぼんやりして仕事に集中できないのは、カーテンを閉め切った薄暗い室内で過ごしているせいかもしれません。
「朝目覚めたら、すぐに窓から1メートル以内に入り、10分程度、朝の光を浴びましょう。
朝日を浴びることで、眠気を誘発する脳内ホルモンのメラトニンの分泌がストップし、生体リズムが整います。また、光に反応する感度は起床直後が最も高く、時間が経つにつれて下がっていくので、できるだけ早いタイミングで光を浴びるのが効果的です。
メラトニン分泌をストップするには、2,500ルクス以上の光を感知する必要があります。そのためには、窓から1メートル以内で10分程度過ごすか、もう少し手っ取り早く生体リズムを整えたいなら、窓を開けて外を眺めたり、ベランダに出たりしましょう。室外ならば光の強さは1万ルクス以上になるので、1分程度で生体リズムが整うといわれています」(菅原さん)
リモートワーク中の人はもちろんのこと、オフィスに出勤する人も、目覚めをシャキッとさせるためには、起床後、真っ先に朝日を浴びるのを日課としましょう。
■2:職場で朝一番の予定を変更するのはNG
オフィスワークでは、「ちょっとこれやっといてくれる?」と急に仕事を割り振られたり、作業中に「~~の件でご相談が」と話しかけられたりなど、何かと予定外のことが起きやすいもの。他者と協働するうえで、臨機応変な対応は大切ですが、とはいえ、朝最初の予定だけは、むやみに変更するのは好ましくないようです。
「朝の通勤電車内で、その日1日の大まかな行動計画を立てる、つまり、『オフィスについたら、まずはこれをして、次にこれをして』と頭の中でシュミレーションする人は多いのではないでしょうか? このイメージ通りに実際に行動することができ、予測と結果の誤差が少ないと、脳が消費するエネルギーを少なく済ませることが可能です。
逆に、脳が具体的にイメージした計画を裏切る行動をせざるをえないと、脳が疲弊して仕事の効率が下がるおそれが。特に、朝のスタートからいきなりプランが崩れるのは危険です。ドミノ倒し的に計画がずれて、予測と結果の誤差がどんどん広がり、その分、脳の疲労度が大きくなってしまいます。
たしかに、オフィスワークにおいて、自分の予定を貫くことは難しいですが、せめて朝の最初に自分がこうしようと決めていた行動だけは必ず実践しましょう。
朝一番の計画を確実に実行するためには、『まずは10分間だけ企画書を書く』など、短い時間に区切るのがおすすめです。そうすれば、万が一、出勤早々から、予定外の仕事や相談を持ちかけられそうになっても、『すみません、10分だけ待ってもらえますか?』とお願いして、自分の予定を遂行することができるでしょう」(菅原さん)
周囲に振り回されて自分の予定通りに物事が進まないと、ぐったりエネルギーを消費した感がありますが、本当に脳が疲労していたのですね。とりわけ朝のスタートは自分が主導権を握れるように、10分間のタスクを用意しておきましょう。
■3:朝一番にメールのチェックをするのはNG
1日の仕事は、まずメールチェックからという人は多いのではないでしょうか? しかし、生体リズムの観点からは、朝一番のメールチェックは非常に効率が悪いとのことです。
「起床から2~4時間後は、脳が活発になるゴールデンタイムというべき時間帯。起床2時間後には決断力が、3時間後には記憶力が、4時間後には創造性が高まります。この時間帯は、自分の頭で能動的に考える作業が適しており、メールチェックのような受け身の活動にあてるのは、もったいないといえるかもしれません。
また、朝一番にメールをチェックすると、どうしても取引先への対応などに追われて、本当に自分がやりたかった仕事が後回しになりがちです。そうすると、脳が予測したことと、実際の行動のズレが大きくなり、脳に負担をかけてしまうという点でも、朝一番のメールチェックはおすすめできません」(菅原さん)
メールは、あくまで連絡手段のひとつ。朝、デスクにつくとまずメールを見ないと落ち着かないという人は、メールチェックよりも自分にとって大切な仕事は何か振り返って、朝のゴールデンタイムをより生産的に過ごしましょう。
■4:仕事を始める前に、まずデスクを片付けるのはNG
メールチェックと同様、多くの人が朝一番にやりがちな作業として挙げられるのがデスクの片付け。しかし、これもまた仕事を効率的に進めるうえで、あまりおすすめできないとのことです。
「起床から2~4時間後のゴールデンタイムは、できるだけ頭を使う仕事にあてるのが効率的です。この点、デスクの片付けは頭を使うというよりは、手を動かす作業なので、わざわざ朝一番に行う必要はないと思います。
ただ、仕事に集中するためには、デスクが散らかっているより、整理整頓された状態が望ましいのはたしかです。デスクに仕事とは無関係なものが置かれていると、おのずと視覚が刺激されて、脳に余計な負担がかかります。
ですから、朝一番にスムーズに仕事を始められるように、前日のうちにデスクは片付けておきましょう」(菅原さん)
限られた時間で効率よく仕事をするためには、どの時間帯に何を行うのか、適切な割り振りが欠かせません。頭の働きがシャープな午前中は、できるだけクリエイティブな仕事にあて、それ以外の作業は別の時間帯にまわしましょう。
■5:朝のルーティンにこだわりすぎるのはNG
脳のゴールデンタイムである午前中は、頭を使う仕事にあてるべきだと繰り返しお伝えしていますが、これに対し、「自分は朝は弱いから、いきなり頭を使うのはちょっと……」などと尻込みしている人もいるのでは?
そんな人たちに向けて、菅原さんは以下のようにアドバイスしています。
「朝、仕事のエンジンがかかりにくい人は、『まずは~~しなければ、仕事ができない』というルーティンにこだわりすぎているのではないでしょうか? 朝のルーティンとは、たとえば、きちんと身支度する、朝ご飯を食べる、ニュースをチェックする……といったものが挙げられます。
もちろん、ルーティンはやる気を引き出すのにうまく活用できることもありますが、他方で、『まずは~~しなければ』という思い込みは、先延ばしの言い訳にもなりがちです。後者に陥っている人は、“ルーティンは無視して、とりあえず10分間だけ集中する”ことを実践しましょう。
ビジネスマンではなく受験生のケースなのですが、朝、起きたら、まず机について1ページだけでも参考書を読むようにアドバイスしたことがあります。当初、『起きてすぐそんなことできない』という抵抗もありましたが、『とにかく1ページだけ読んで、そのあとは身支度したり、朝食をとったりしてもいいから』ということでやってもらいました。
すると、1ページだけでもまず取り組むことで、“勉強に集中できた”という既成事実が記憶に刻まれて、その後、一旦、身支度や朝食で机から離れても、再び机に戻ったときに、また集中して勉強に取り組みやすいという効果があったのです。
仕事も同様で、朝に『まず~~してから』と順番にこだわったり、やる気が出るまで待ったりするのではなく、まず仕事したふりでもいいので、10分間だけ集中してみましょう」(菅原さん)
四の五の言わずに、まずは既成事実を作ってしまう! 10分間だけなら、多少眠かったりコンディションがいまいちだったりするときでも、何とか乗り切ることができそうですよね。
■6:午前中に自分の考えを提案するのはNG
メールチェックのような受け身の作業や、デスクの片付けのような頭を使わない作業以外にも、朝一番や午前中に不向きなこととして、どのような行動が挙げられるのでしょうか?
「朝は、男性ホルモンのテストステロンが分泌されやすいため、決断力が高まる反面、共感力には欠ける傾向にあります。
自分の考えを提案しても、相手からの共感は得にくいため、朝は交渉や話し合いには不向きな時間帯だといえるでしょう。午前中は自分の頭でしっかり企画などを練って、その内容を午後から提案すると話がまとまりやすく効率的です。
ちなみに、最近は朝礼を廃止する職場が増えていますが、脳の働きから見て、理に叶っているといえます。朝礼でいくら大事な話をしても、参加者は自分の考えごとに意識が向いて、話が心に響いていないかもしれません。職場で共有すべき重要な情報は、社員が朝一番の仕事を終えた後、または午後にアナウンスするほうが適切でしょう」(菅原さん)
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以上、朝のNG行動をご紹介しましたが、自分に当てはまるものはありましたか? テレワークの人もオフィスワーカーも、より効率的に仕事を進めるべく、NG行動をよい習慣に改めていきましょう。
公式サイト
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 中田綾美