朝、目覚めてからの数時間を、どんなふうに過ごしていますか?
太陽が昇る時間が日に日に早くなり、新しい空気が清々しさを増してゆくこの季節にこそ見直したいのが、「朝時間」の使い方。女優やモデルなど、美を仕事にする女性はもちろん、政治やビジネスの世界でタフな毎日を送っているトップキャリアにも、朝時間を大切にしている人がたくさんいます。
本記事では精神科医の樺沢紫苑先生に朝時間の有効性についてお話を伺いました。
樺沢紫苑先生が解説する なぜ「朝時間」が私たちの脳に有効なのか?
■検証1:パフォーマンスUP必至!「朝の時間価値」はスピードもクオリティも夜の2倍
私たちはなぜ朝時間を活用すべきなのでしょうか。その答えは「朝は脳のゴールデンタイム」だから。
理由は、睡眠中の脳の働きにあります。脳は、その日に起こったさまざまな出来事を寝ている間に仕分けし、それは見事にファイルに納め、棚に整理してくれます。だから朝起きたとき、脳の中は「ちりひとつないまっさらな状態」。
ぐちゃぐちゃに散らかったボロボロの机と、整理整頓されたピカピカのデスクとではどちらがはかどるか、言わずもがなですね。脳は目覚めてから2、3時間が最もパフォーマンスが高いのです。
だからこそ朝いちばんは、集中力を要する負荷の高い仕事から始めましょう。文章を書く、企画書をつくる、英文資料を読む、決算書を作成するなど、自分にとって骨太な、手間をかけるべき仕事はなんでしょうか。受験生にたとえれば「苦手科目からやる」。するとあれほど手こずっていた作業が、驚くほど要領よく、スムーズにこなせることに驚くはずです。
朝の時間価値はスピード2倍、クオリティ2倍、夜に比べると計4倍と考えます。脳が疲れていないこの貴重な時間帯を賢く活用するかしないかは、あなたしだいなのです。
時間帯別の集中力の変化
■検証2:1時間早く起きて得た「脳のゴールデンタイム」は自己投資の時間と心得る!
ぜひおすすめしたいのが、1時間早く起きて、「朝のゴールデンタイムを自己投資に使う」という時間術です。有効なのが朝のシャワー。体温や心拍数を上げることで、夜のリラックス神経「副交感神経」から昼の活動神経「交感神経」へスムーズにモードチェンジできます。
朝食は玄米など噛み応えのあるものをとり、できれば駅まで15分ほど早足で歩く。咀嚼やウォーキングというリズム運動がセロトニンの分泌を促してくれます。電車に乗ったら、今日の仕事の流れをイメージし、頭の中で「To Do List」をつくりましょう。そして会社近くのカフェに入り、頭が冴えているうちに資格や語学の習得など自己投資に励むのです。
その際、「バレットジャーナル」という思考術を試してみては。ノートに目標やアイディアなどを思うがままに書き出していく、というもの。思考が整理され、生き方が明確になるといいます。クリアな頭で会社へ向かい、先ほどの「To Do List」を書き出したら、始業ベルと同時に仕事モードを全開に。これこそが、私が考える理想の朝の過ごし方なのです。
■検証3:毎朝、太陽の光を浴びて「セロトニン」合成を促し体内時計をリセット!
朝、脳のパフォーマンスが高いのは、「セロトニン」という脳内物質に理由があります。
睡眠と覚醒を司り、太陽の光が網膜を刺激すると、中脳から脳幹にある縫線核という部分に伝わり、セロトニンの合成がスタート。セロトニンは脳が奏でるオーケストラの指揮者であり、合成とともにタクトがひと振りされ、一日の活動が始まります。
午前中に分泌が盛んになり、午後から夜にかけて活性が低下、睡眠時には休止します。感情のコントロールも司り、分泌が盛んなときは、まるで僧侶が座禅を組んでいるときのように、心が平穏で、集中力が研ぎ澄まされています。
「森林浴をしている状態」ともいえるでしょう。清々しさを感じ、希望に満ちあふれている状態です。もうおわかりですね。物事に集中するのに最適な環境を生み出す物質なのです。
ちなみに私たちの体内時計は24時間10分前後で設定されているといいます。これが長めの人がいわゆる夜型と呼ばれるのだとか。いずれにしろ自然と夜更かしになるのはあたりまえの話。だからこそ毎朝太陽の光を浴び、セロトニンの合成を促して、体内のリズムをリセットすべきなのです。
縫線核とメラトニン分泌
■検証4:「朝時間をどうするか」で生き方も社会も変わってくる
人間の身体は、さまざまな脳内物質が24時間周期で分泌と休止を繰り返し、活動が成り立っています。
私が提唱しているのは、その体内リズムに合わせて、やるべきことの順番を組み立てるという時間術。朝には朝の、昼には昼の、夜には夜の体のリズムがあり、日々の過ごし方をそれに合わせるだけというシンプルなアプローチなのです。
平等に与えられているのが時間ならば、それをどう使うかは考えてしかるべき。そのことに気づき始めている人も多いのではないでしょうか。
精神科医である私が作家として情報を発信しているのには、実は日本人の自殺、うつ病を減らしたいという思いがあります。繰り返しお話ししてきたとおり、朝は仕事効率が高く、その時間帯に集中して働くことは、労働生産性の上昇につながります。それは労働環境の改善をもたらし、自殺率の低減にもつながると考えているのです。
日の出とともに働き、日が沈めば体を休める。その切り替えができる人は仕事ができるし、なにより健康でいることができます。朝シフトの時間術は、日本の社会と未来を変える可能性を秘めている。私はそう確信しているのです。
メラトニンとセロトニンの日内リズム
- PHOTO :
- よねくらりょう
- WRITING :
- 三村路子
- EDIT&WRITING :
- 宮田典子(HATSU)、 喜多容子(Precious)