20㎝に満たない小さな鋏は、鉄の塊をたたいてたたいてこの形につくっているもの。刀鍛冶の伝統を継いだ職人さんが、おひとりで手がけていらっしゃいます。使い心地、美しさ、切れ味、サイズ感どれも申し分なく、素晴らしい。特に歯先の切れが抜群によいので、ボタン替え、すそ上げ糸をほどくなど、狭い部分の糸切りに実力を発揮します。見た目よりも少し重いですが、その重みこそが、切れ味にひと役買っているのでしょう。道具をつくる職人は、使う人それぞれの扱い勝手や好み、つまり“塩梅(あんばい)”を推し量り、ものを生み出す技をもっています。塩梅という、目に見えない何かを尺度にしてものづくりをすることに、日本の手わざの底力を感じます。
■博多鋏とは、14世紀初頭に宋(そう)から九州・博多に伝わった鉄の鋏。当時は日本刀の職人がつくっていた。左右の脚にくっきり刻まれた菱紋が特徴。現在は博多の「高柳商店」店主が唯一の制作者。注文から数か月待ち。
問い合わせ先
- 高柳商店 TEL:092-291-0613
- TEXT :
- Chizuさん スタイリスト
- BY :
- 『Domani4月号』小学館、2016年
- クレジット :
- 撮影/戸田嘉昭(パイルドライバー) 文/輪湖雅江