キュレーターの林 綾野さんが、大人の女性におすすめしたい展覧会のひとつ目は『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』。写真や彫刻、インスタレーション、建築などさまざまな分野で表現活動を展開するアーティスト、オラファー・エリアソンの大規模個展となり、彼の代表作などを含む多くが国内初公開。

貴重な機会をお見逃しなく!

■1:再生可能エネルギーへの関心と気候変動への働きかけを軸に構成される、オラファー・エリアソンの10年ぶり大規模個展

デンマーク出身のオラファー・エリアソンは、光や水、霧や風など、自然の中にある要素を用いながら、インスタレーションや写真、彫刻や建築など多様な表現活動を展開してきた。日本で10年ぶりとなる今回の展覧会のコンセプトはサステナブル。気候変動など地球環境の変化に直面する私たちに、エリアソンは作品を通じて警鐘を鳴らす。

キラキラと美しく、居心地の良い空間が広がる《太陽の中心への探査》は、「太陽」という存在を抽象的に表現した作品だ。生きる上で絶対に必要な太陽。力強く、その光は時にやさしく私たちを包み込むが、実際に触れることも、近づくこともできない。その豊かで大きな存在感を改めてこの作品は感じさせてくれる。

《溶ける氷河のシリーズ1999/2019》は、この20年間に地球に起きたことを突き付ける。アイスランドの同じ地点で、1999年、2019年の両年に撮影した写真を並べているのだが、20年の間に温暖化で氷河が半分ほど溶けていることがはっきりと見て取れる。地球はこれからどうなるのか?考えずにいられなくなってしまう。

感覚を研ぎ澄ませ、ひとつずつの作品と真剣に向き合う時、環境の問題や、今地球に起きていることを肌身に感じる不思議な感覚に襲われる。アートを通じて真実と対面する、ちょっと今までにない体験ができる展覧会ではないだろうか。

展覧会_1
オラファー・エリアソン『ビューティー』1993年 
Installation view:Moderna Museet, Stockholm 2015 Photo:Anders Sune Berg
Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York/Los Angeles © 1993 Olafur Eliasson
展覧会_2
オラファー・エリアソン『溶ける氷河のシリーズ 1999/2019』2019年
Photo:Michael Waldrep/Studio Olafur Eliasson
Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York/Los Angeles © 2019 Olafur Eliasson

Information

  • 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』 
  • アートを介したサステナブルな世界の実現に向けた試みで、国際的に高い評価を得てきたアイスランド系デンマーク人のオラファー・エリアソン。日本で10年ぶりとなる個展では、再生可能エネルギーへの関心と気候変動への働きかけを軸に構成される。
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  • 会場/東京都現代美術館
  • 会期/会期中~2020年9月27日(日)
  • 開館時間/10:00〜18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
  • 休館日/月曜、9月23日休館(9月21日は開館)
  • 観覧料/一般1,400円、大学生・専門学校生・65歳以上1,000円、中高生500円、小学生以下無料
  • TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 住所/東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)

 


■2:三菱150周年となる本年に公開される、貴重な静嘉堂の名宝を堪能!

展覧会_3
左から/「藍釉粉彩桃樹文瓶」清時代(18世紀)、右/「色絵花卉丸文菊形皿」江戸時代(18世紀前半)
展覧会_4
曜変天目(稲葉天目)南宋時代(12~13世紀)

岩﨑家が蒐集した見事なコレクションのなかから、選りすぐった名品を見られる類まれな機会です。《藍釉粉彩桃樹文瓶》や《色絵花卉丸文菊形皿》など、貴重な陶磁器を自然光の入る、明るい展示室で見ることができ、そのみずみずしい美しさを目の当たりにできるのはうれしい。

急遽出品になったという国宝の《曜変天目》茶碗が見られるのも素晴らしいです。深くどこまでも広がる宇宙のようなその美しさは、写真ではけして味わえない感動があります。「古伊万里と清朝陶磁」「狩野派と琳派」など、テーマを分けて、対比してみる展示方法も、魅力的です。

Information

  • 「美の競演—静嘉堂の名宝—」 
  • 三菱財閥の創業者一族・岩崎家が蒐集した美術品の修理事業も行う静嘉堂。本展では、三菱150周年となる本年、岩崎家が代々蒐集した絵画や茶道具、陶磁器、漆工芸、彫刻、刀剣などを前・後期に分けて展観。また、修理を終えて美しく蘇った山水画の屏風や掛幅、仏画や墨跡なども出品される。
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  • 会場/静嘉堂文庫美術館
  • 会期/会期中~2020年9月22日(火)
  • 開館時間/10:00〜16:30(入館は16:00まで)
  • 休館日/月曜日休館(祝日の場合は開館し、翌火曜日休館)
  • ※展覧会期間以外は休館です。常設展示はございません。
  • ※展覧会期間は『開館日』の2020年度年間スケジュールをご確認ください。
  • 観覧料/一般¥1,000、大学・高校生¥700、障害者手帳提示の方および同伴者1名¥700、中学生以下無料
  • TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
  • 住所/東京都世田谷区岡本2-23-1

 


■3:待望のアンコール開催となった、写真家ソール・ライターの回顧展

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ソール・ライター『帽子』1960年頃、発色現像方式印画 © Saul Leiter Foundation
展覧会_6
ソール・ライター『ソームズ』1950年代、発色現像方式印画 © Saul Leiter Foundation
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ソール・ライター『セルフ・ポートレート』1950年代、ゼラチン・シルバー・プリント © Saul Leiter Foundation

Bunkamura ザ・ミュージアムで2度目の開催となるソール・ライター展。

今回は、新たに発掘された作品や資料が展示されていて、ライターその人の感覚をリアルに感じられるのが嬉しい。コンタクトシートそのものが展示されていたり、「スニペット」という名刺サイズに焼いたモノクロ写真の周囲を手でちぎったシリーズも。

なかでも、ライターが自身を撮ったセルフポートレートは、彼の自分に対する眼差し、そして若いころの姿をみることができ、とても興味深いです。写真だけではなく、ライターが描いた絵も展示されている。水彩画やスケッチブックを見ることができる機会は、今後、そんなにないかもしれません。

※ソール・ライター撮影の出展作品につきましては、2020年1月開催「永遠のソール・ライター」と同一になりますが、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から展示構成を一部変更しています。映像コンテンツ「スライド・プロジェクション」の上映はございませんが、スライド作品は形を変更してお楽しみいただきます。

Information

  • アンコール展 『ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター』 
  • 「カラー写真のパイオニア」として、独自のアングルでN.Y.の日常を撮り続け、近年その魅力が再評価された写真家ソール・ライター。本展は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から最終日を待たずに閉幕した「永遠のソール・ライター」のアンコール展。2017年に開催され、大きな話題を読んだ回顧展から新たに出展された作品のほか、彼の人生にも迫る内容でその実像に迫る。
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  • 会場/Bunkamura ザ・ミュージアム
  • 会期/会期中~2020年9月28日(月)
  • 開館時間/10:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで)
  • 休館日/9月8日(火)
  • 観覧料/一般¥1,500、大学・高校生¥1,000、小・中学生¥700
  • TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 住所/東京都渋谷区道玄坂2-24-1 B1F

 

この記事の執筆者
TEXT :
林 綾野さん キュレイター・アートライター
BY :
『Precious10月号』小学館、2020年
美術館での展覧会の企画、絵画鑑賞のワークショップなどを行う。画家の創作への思いや人柄、食の趣向などを探求、紹介し、芸術作品との新たな出会いを提案。絵に描かれた“食”のレシピ制作や画家の好物料理を自ら調理、再現し、アートを多角的に紹介している。近著『なにを食べているの? ミッフィーの食卓』ほか、『フェルメールの食卓 暮らしとレシピ』『セザンヌの食卓』『モネ 庭とレシピ』『ぼくはクロード・モネ絵本でよむ画家のおはなし 』(すべて講談社)、『浮世絵に見る 江戸の食卓』(美術出版社)など著書多数。
EDIT :
宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)