昔、ロールス・ロイスはショーファードリブン、つまり運転手付きで後席に乗るものだった。近年はドライバーズカーへと変わりつつあるが、どの席に座っていても極上の乗り心地、静けさは変わらないし、むしろそんな奇跡の空間は、自分でハンドルを握ってコントロールしたほうが楽しい。10年ぶりにモデルチェンジした新型ゴーストの特徴を、ライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏が解説する。
ロールスでしか味わえないラグジュアリーな空間を構築
アクティブなひとたちのために作られた、ロールス・ロイス ゴーストが、フルモデルチェンジ。2020年9月1日にオンラインで発表された新型を理解するキーワードは、「レス・バット・ベター」。見た目はシンプル、内容は充実が、開発テーマだったそうだ。
2009年に発表された現行ゴーストは「起業家のためのビジネスツール」(トルステン・ミュラー=エトヴェシュ最高経営責任者)とされていた。新型もその点は同じだ。
全長5.5メートルを超える大型セダンのゴーストであるものの、オーナーは、週末になると自分でステアリングホイールを握ることを好むと定義。563馬力の6.75リッターV型12気筒エンジンに、全輪駆動システムと、4輪操舵システムを組み合わせている。
さらに、空とぶじゅうたんを標榜する乗り心地を実現するため、新型ゴーストには、新設計のサスペンションシステムを搭載。開発に10年かけたそうだ。加えて、ステレオカメラが前方の路面の状況を読み取って瞬時にサスペンションの設定を調節。さらに、GPSのマップ情報をもとに変速機までコントロールしている。
なによりの特徴は、さきに触れた「レス・バット・ベター」のコンセプトだ。ロールス・ロイスによると、これみよがしの中身のないぜいたくさを排除。ゴーストでしか手に入らない世界観を構築するのに注力したと説明される。
ひとつ例をあげると、なめらかな面で構成されるボディだ。サイドパネルは、Aピラーからリアフェンダーにいたるまで1枚の鋼板を使う。さらにほかの面との溶接は熟練工が担当。1台あたり4人で、いっさい接合部を見せない仕上がりを実現したという。
これみよがしでなく、ただし内容は他に類のないものを、とは、いまの若いユーザー層の嗜好性に合致したコンセプトなのだそうだ。ロールス・ロイスでは、「ごてごてとした(室内の)ステッチ」を例にあげている。こういうものは、ユーザーの好みに合わないとしているのが、たいへん興味ぶかい。
あらゆる振動の周期を調律!
多忙をきわめるオーナーが車内にはいったときは、かぎりなくくつろげるようにするのも、新型ゴーストに課せられた役目である。静粛性と低振動にはなみなみならぬ注意が払われている。
一例をあげると、各パーツの振動の周期を揃えるのが大事だったとロールス・ロイスでは説明する。プロトタイプの段階では、ボディとシートフレームの振動の幅が異なっていたため、ドライバーの不快感につながることが懸念された。そこでロールス・ロイスの技術者は骨折って、振動の幅をおなじにしたという。
ボディデザインは、「一筆がき」とロールス・ロイスが説明するとおり。とりわけ側面からの眺めは、フロントグリルからテールエンドまできれいなラインでつながって見えるのが特徴だ。ボートのデザインから着想を得て、「動きの感覚」を表現したものだそうだ。
インテリアデザインも、エクステリア同様、「ミニマリスト」的テーマで統一したと、ロールス・ロイス。たしかに、ダッシュボードに並んだ操作類の数はごく限られている。ただし、ダッシュボードの材質は選びぬかれたものと説明される。
レザーも、煩雑なステッチなどは避けつつ、最高品質の牛革をぜいたくに使いつつ、「かんぺきにまっすぐなラインを驚くほど長く」するなど、縫製の質の高さにもロールス・ロイスは胸を張っている。
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- TEXT :
- 小川フミオ ライフスタイルジャーナリスト