2006年に渡米後、下積みを経て「Angel’s Share」ヘッドバーテンダーとなった後閑氏は、2012年に行われたカクテル世界大会で優勝。その後上海に「Speak Low」「Sober Company」という2つのバーをOPENすると2軒とも瞬く間に人気となり、満を持して日本に帰国し「The SG Club」をOPENした。
後閑機長がゲストを世界旅行へ招待
その間2017年には「International Bartender of the year」を、2019年には「Asia’s 50 Best Bars」で「Bartender og Bartender」というバーテンダー界に考えうる最高の賞を立て続けに受賞。同アワードのランキングでは「The SG Club」初登場13位をはじめ、グループ3件全てがランクインするという快挙も成し遂げた。いまや世界のバーシーンではナンバーワンのバーテンダー兼バー経営者なのだ。
「The SG Club」は地上2階、地下1階の3フロアからなる複合的バー・コンプレックスだ。SGとは後閑さんのイニシャルでもあるがSとは地下1階「Sip」は英語でゆっくり味わうと意味。一方1階の「Guzzle」はゴクゴク飲むという意味だ。そして2階「SAVOR」は会員制でゆったりと寛げるシガーバー。この夜の舞台となるのは地下1階「Sip」だ。
やがて後閑氏が登場すると、テーブルには航空券を模したメニューが配られた。見ると「NRT LYS あの三つ星ポール・ボキューズでデザートからスタート」と書いてある。つまり今夜はカクテルと料理で世界のあちこちを旅するという演出なのだ。
間も無く後閑氏はバーカウンターに入り、カクテルの準備を始めた。世界一のバーテンダーが目の前で作るカクテルを味わいながら、世界各国の料理を味わうという、なんとも贅沢な世界一周旅行が始まった。
席にいながら世界一周旅行へ!
まず最初の目的地はフランス、リヨン。カクテルは「KOME ソーテルヌ トマト カカオ」米焼酎SG SHOCHU KOMEにソーテルヌの甘い貴腐ワインの香りとトマトの酸味をプラス、グラスの底にはココナッツミルクの甘さが隠れている。これを飲みつつ「フォワグラ・ブリュレ・カカオ」を小さなスプーンでいただく。
デザートのクレム・ブリュレ風だがカスタードクリームの代わりにフォワグラが忍ばせてあり、トッピングには砕いたカカオビーンズ。甘み、酸み、苦味などさまざまな味が口中で混じり合う。
次なる旅はギリシャのクレタ島だ。チケットには「LYS→HER地中海到着。ヨットに乗り換えアイランドホッピング開始」と書かれてある。ウニとタコをギリシャ伝統のヨーグルトソース「ザジキ」であえてタルタル状にしてある。あわせるのは「KOME 胡瓜 マスティハ ディタニー オリーブ」米焼酎にキュウリの青い香りがいいアクセントで同じキュウリを使っているザジキとの相性はぴったり。オレガノの一種ディタニーの香りも地中海を思わせ、懐かしのギリシャの島を思い出す。
3品目はヨーロッパから一転アジアへ。タイのチェンマイへの旅だ。「HER→CNX 夜市では屋台の定番、焼きココナッツとカオソーイ」カオソーイとはチェンマイなどタイ北部で食べられている麺料理。一口サイズの器にはぴりっと辛くて甘いグリーンカレーのカオソーイに刻んだいぶりがっこ、辛子蓮根チップスのトッピング。
「KOMEココナッツ カフィアライム パクチー」は米焼酎とココナッツミルクのコンビネーションが純米のどぶろくを思わせる、とろりと甘い米麹の香り。これにグリーンカレーに使うカフィアライムとパクチーの香りを加えた、いうならばエスニック酎ハイ。しかも極上モノ。
次は再びヨーロッパへ。南スペイン、アンダルシア地方のヘレス・デラ・フロンテラだ。「CNX→XRY ヘレスといえばシェリーとタパスとフラメンコ」今度は麦焼酎を使ったカクテル。後閑氏はこれをミキシンググラスで作った後、シェリー用のベネンシアドールを使ってグラスに注ぐというパフォーマンスを見せてくれた。
麦焼酎にスペインの乾いた大地を思い出させるシェリーの香り。さらにオレンジと鰹出汁をプラスした、どことなく日本の台所を思わせるカクテルだ。あわせるのは日本とスペイン合作のフィンガーフード。なんとハモンイベリコをのせた磯辺焼きで、納豆バターがアクセント。発酵食品同士の組み合わせがなんともいえないハーモニーを生み出す。鰹節に似たハモンの熟成香を楽しみつつカクテルをひとくち。国境を超えたフニークな発想のペアリングはたまらない。
「今度はチューリッヒ行きです」と後閑機長がゲストに告げるとまもなく今度は真っ黒い搭乗券が配られた。「XRY→ZRH」行き先はチューリッヒと書かれているだけで内容は一切不明。これはチューリッヒニにある真っ暗闇の食事を体験するレストランの「ダイニング・イン・ザ・ダーク」をヒントにしたものだという。スマートフォンも裏返しにするよう指示され、バーの明かりもぐっと落とされてほぼ暗闇に。
すると後閑氏が手渡しで冷たいグラスを渡してくれた。視覚に頼らず、味覚と嗅覚だけでグラスの中身をあてる、という趣だ。おそるおそる口に含むとまずスモーキーなアタック、そしてウリに似た食感とぬめりのある植物性のなにか。それぞれが思いついたことをいうように、と後閑機長がいうのでわたしはゲンチアナ、シャルトリューズ、スイカ、メロン、バジルシードと答えたのだが正解はボウモアとメロン、じゅんさい。あのスモーキーさはアイレのシングルモルト、ボウモアだったとは!真っ暗なので残念ながらここでは写真はなし。
再びバーに仄暗い明かりがともされると次の搭乗券が配られた。「ZRH→MSY フレンチクォーターでジャズを聴きながらバーホッピング」ジャズの聖地ニューオリンズ、その名もルイ・アームストロング国際空港経由の旅だ。ニューオーリンズといえばジャズハウスとバーホッピング。さてはカクテルはバーボンかテネシーウイスキーか、と思っていたところ後閑氏が作ったのは麦焼酎とシャンパンを使った「MUGIフレンチ75 ラモスジンフィズ」だった。
泡がしっかりした甘口の一杯を味わっていると、やってきたのはアメリカに敬意を表してミニハンバーガー。しかしフィリングは日本の味。熟成トンカツとウナギの蒲焼という意外すぎるペアリング!しかしウナギの甘口のタレやトンカツの脂とカクテルの相性が実にいいのだ。添えられていたのはタバスコならぬTABASGO!!これも麦焼酎を使った自家製で、絡みと焼酎の感じがなんともいいバランス。
デザートはベルギーのアントワープへ。「MSY→ANR ファッションの街で買い物、ビールにチョコレート」とある。ベルギービール、グレープフルーツ、ジンジャークッキーに似たスペキュロスを使った酸味と生姜の味がさっぱりさわやかな冷たいデザート。最後に芋焼酎が登場したのだが、ここまでの流れの中でもやはり芋焼酎の香りは個性的ですぐわかる。
「IMO ホワイトチョコレート とうもろこし」芋焼酎に甘い要素を加えるとなんとも上品な食後のリキュールとなる。これには驚いた。
最後の仕上げは東京「SG Club」への旅だ。「ANR→SGC ヨーロッパ土産に香水をゲット、早速開けちゃおっと」これは搭乗券に香水がしのばせてあるという、遊び心一杯の演出。ガーリーなフランボワーズのマカロンとゼリーで旅は終わり。世界一周の旅を終え、ヨーロッパみやげの香水を彼女に渡し、日本に帰って来たことを実感する、というエンディングのようだ。
今回使用したSG SHOCHUは、後閑氏のプロデュースによるもの。米焼酎は白岳の高橋酒造、麦焼酎はいいちこの三和酒類、芋焼酎が薩摩酒造とどれも各カテゴリーのトップメーカーとのコラボが実現したものだ。今回のカクテルペアリング・ディナーはビジネスクラス、ファーストクラスの2コースがあり定期的に開催予定だという。また後閑氏プロデュースのSG SYOCHUはサイトからの購入も可能だ。
噂に聞いていたSG Clubaは予想をはるかに超え、まさに国境や既成概念、先入観を超えた自由自在の発想とペアリング。そのひとつひとつがしっかりしたストーリーに裏付けられているのがまたいい。新しいフードエクスペリエンスを求めている人は、ぜひ一度SG Clubで夜を過ごしてみてほしい。きっとこれまで体験したことがない、新しい次元のバータイムが味わえるはずだから。
問い合わせ先
- SG CLUB エスジークラブ TEL:03-6427-0204
- 住所/東京都渋谷区神南1-7-8
営業時間/日〜木17:00〜1:00(金、土〜2:00)無休
※営業時間などの詳細は、店舗HPなどでご確認ください。
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト