トリノから車を走らせること約1時間半、トリノの南東約60キロにある世界遺産ランゲ地方はバローロ、バルバレスコ、バルベラ・ダルバ、モスカート・ダスティなどイタリアを代表するワインの生産地だ。毎年秋になるとブドウの収穫「ヴェンデミア」が最高潮を迎え、畑は一気に活気づく。
収穫に精を出す農家やブドウ満載のトラクター、収穫を終えて紅葉したブドウ畑などなんとも絵になる光景は秋のピエモンテならでは。この時期にピエモンテを訪れる人にはワインと並んでもうひとつのお目当てがあるのだが、それはアルバ産の白トリュフだ。
毎年10月にアルバで開催される国際トリュフ市ではオークションが開催され、最高の白トリュフを落札しようと世界中からレストラン関係者が集まる。
街を歩けばあの独特の香りが漂い、どのレストラン白トリュフ・メニューを看板にかかげているのだから、一体毎日どれほど膨大な量の白トリュフが消費されているというのか。
世界最高の白トリュフ
この時期に白トリュフを味わうのなら、是非滞在したい料理旅館が5つ星ホテル「ルレ・サン・マウリツィオ」だ。アルバから車で約30分、ブドウ畑に囲まれた瀟洒な洋館、という雰囲気の「ルレ・サン・マウリツィオ」は17世紀に作られたフランチェスコ派修道院を改装したものだ。
中世のピエモンテはフランスに国境を接した辺境の地で、つねに北方からの侵略に悩まされていた。荒廃した土地を耕したのは修道士たちで、自給自足の暮らしを営むためにピエモンテ各地に修道院を建設。現在見られるブドウ畑やオリーブ畑もこの頃に切り開かれたものが多い。
ピエモンテは冬の寒さが厳しく、夏は蒸し暑いことで知られるが「ルレ・サン・マウリツィオ」は気候も穏やかで過ごしやすい地中海性気候の典型例。まさに神に選ばれた土地、といえるだろう。
現代の「ルレ・サン・マウリツィオ」はというと、修道院時代の面影こそ残してはいるものの、内部は快適なホスピタリティを追求した田園型ヴィッラとなっているからご安心を。
サルデーニャの海から抽出した塩を使ったスパ「ソルト・グロッタ」やワイン醸造に使われていた古い大樽を使ったグレープシード・バスなど、天然成分をいかしたヒーリングが充実している。
客室も旧館と別館では全く趣が異なっているのもイタリアらしいところ。重厚な石造りの旧館では中世にタイムスリップしたかのようなひとときが楽しめ、新館の客室はこれぞイタリア、というようなモダン・デザインで統一されている。
しかし「ルレ・サン・マウリツィオ」を訪れる客のお目当てはやはり料理。それも白トリュフだろう。まずはラウンジでグラスワインを一杯。ワインの里らしく、ピエモンテ産の白赤泡が常時グラスで40種類用意されているのだから、これは当然一通り試してみたくなる。
レストランは1階にカジュアルな「トラッフル・ビストロ」、地下には本格的レストラン「グイド・ダ・コスティリオーレ」があるが、ここは是非両方使い分けて白トリュフを存分に堪能したい。
「トラッフル・ビストロ」はワンプレートでもOKなのでランチ向き。ピエモンテ伝統料理を軽めにアレンジした「ヴィテッロ・トンナート」など、スプマンテにあいそうな料理が多い。
本当は伝統の手打ちパスタを使ったミートソース「タヤリン・アル・ラグー」にしようと思ったのだが「白トリュフのタヤリンを是非一度試して下さい」と女性スタッフにそっと耳打ちされ、考えを変更、そして登場したタヤリンはバターと少量のパルミジャーノであえたシンプルなスタイルだったがここにさきほどの女性スタッフがいやというほど白トリュフをスライスしてくれたのだ。
白トリュフには卵やバターなど動物性食品があうが、確かにバターと入り交じったその芳香はなんともいえぬ幸福感をテーブルに産み出していた。
夜はメインダイニングの「グイド・ダ・コスティリオーレ」に行ってみたが、こちらは夜のみの営業。石の階段を一歩一歩おりると城の地下室のような空間が広がる。
かつてコスティリオーレにあった「グイド」本店で食べたことのある自家製の小さな詰め物パスタ「アニョロッティ・ダル・プリン」を注文。これは親指サイズほどの小さなパスタだが、茹でたてを布巾に包んで出してくれる。メインはピエモンテ産のファッソーネ牛のシンプルなタルタル・ステーキに白トリュフをトッピングした「ファッソーネ・コン・タルトゥーフォ・ビアンコ」。
淡白な赤身とほのかな脂、白トリュフが溶けあうとこれまた極上の味と香りを生み出してくれる。そして時折地元のネッビオーロ種を使った赤ワインで口中の脂を洗い流す。永遠に続いて欲しいと思う一瞬である。
翌朝の朝食、またしても「トラッフル・ビストロ」をおとずれカプチーノとブリオッシュの朝食をとっていると、隣のテーブルではオムレツを頼んだアメリカ人が白トリュフのトッピングを追加注文した。
かしこまりました、と例の女性スタッフがうやうやしくトリュフスライサーを使って軽く10回ほどスライスしてトッピング。これはさすがに遠慮したが、こうした白トリュフ三昧の朝食が堪能できるのも「ルレ・サン・マウリツィオ」ならではの一興。
■ルレ・サン・マウリツィオ
http://www.relaissanmaurizio.it/
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト